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空前の活況を呈している転職市場。それでも大半の人は「給与減」の転職だ。また転職先で馴染めず、さらなる転職を余儀なくされる人もいる。失敗する人は、どこに問題があるのか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「過去の会社や上司の悪口を言う、自分のスキル・経験を面接で高圧的に話す、という人は失敗しやすい」という。最新の転職事情をリポートしよう――。

転職に必ず失敗する人に共通の「人柄と口癖」

転職市場が活況を呈している。

厚生労働省が発表した今年5月の有効求人倍率は1.60倍。「正社員」に限っても1.10倍という高さだった。リクルートキャリアの調査によれば、6月の転職者の求人倍率も1.77倍と求人が求職者を大きく上回る状況が続いている。

こうした状況でミドルの転職も増加している。日本人材紹介事業協会が、大手3社の転職紹介実績を集計したところ、2005年上期の転職者を「100」とすると、2017年上期の36〜40歳は「266」、41歳以上は「439」と、3〜4倍に増えている。

また、リクルートワークス研究所の中途採用実態調査によると、2017年下半期の中途採用者は40代が39.4%、50代が19.1%となっている。かつて「転職は35歳までが限界だ」などと言われたが、そうした俗説は完全に覆された形だ。

転職が難しく、会社にしがみつくしかないと考えていた40歳以上のサラリーマンにとって、今は転職の好機といえるかもしれない。

40代以上の転職理由では「給与に対する不満」がジワジワと増えている。パーソルキャリアの「転職理由ランキング2018」(5月24日発表、転職希望者約8万人を対象)によると、40代以上の転職理由は以下の通りだった。

1位 会社の将来性が不安 21.4%
2位 ほかにやりたい仕事がある 15.8%
3位 給与に不満がある 8.5%
4位 倒産/リストラ/契約期間の満了 6.4%
5位 残業が多い/休日が少ない 4.8%
6位 U・Iターンしたい 4.1%
7位 専門知識・技術力を習得したい 3.8%
8位 会社の評価方法に不満がある 3.4%
9位 業界の先行きが不安 3.3%
10位 幅広い経験・知識を積みたい 2.8%

この5年で、40代の月給は約2万円も減少

このうち「給与に不満がある」は前年度から順位を1つ上げている。また8位の「会社の評価方法に不満がある」の割合も前年度を上回った。待遇に不満を持つ人が増えているようなのだ。

実際に40代の給与は上がらないどころか、減少している。

内閣府の調査によると、2011年と2016年の前後3年間の平均給与月額を比較したところ、従業員1000人以上の大企業の場合、40〜44歳は41.6万円から39.9万円、45〜49歳は46.9万円から45.2万円と、いずれも給与が下がっている。この傾向は従業員100〜999人の中規模企業でも同様だ。

■プロが判定「転職に向かない人」の共通点8

現状では、同じ会社にとどまっていると給与が減少していく。そこでは少しでも給与の高い会社に転職したいと考えても不思議ではない。

だが、転職しても給与が上がる保証はない。ロバート・ウォルターズ・ジャパンの調査(2018年7月24日)によると、いわゆるグローバル人材といわれる優秀なビジネスパーソンでも「転職で年収が増えた」と回答した人は56%だった。日系企業に限定すると、「前職に比べて給与が変わらなかった」と答えた人が31%、「下がった」が24%で、合計すると55%の人は転職しても給与が上がっていない。

転職で給与を上げるには相応のスキルが求められる。もちろん卓越した専門性スキルは必須であるが、それに加えてヒューマンスキル(対人関係能力)も重視される。

エン・ジャパンの「『ミドルの転職』コンサルタントアンケート調査」(5月28日)によると、年収800万円未満の求職者支援専門のコンサルタントが最も重視するのは「テクニカルスキル」が68%、「ヒューマンスキル」が29%となっている。一方、年収800万円以上の求職者を相手にするコンサルタントでは42%がヒューマンスキルと答えている。年収が高い求職者ほどヒューマンスキルを求められる傾向にあるのだ。

ヒューマンスキルとは、コミュニケーション能力、リーダーシップ、交渉力のこと。そして、この3つの中でもとりわけコミュニケーション能力を求めると回答したコンサルタントが92%もいた。

エン・ジャパンの転職コンサルタントに対する調査(6月28日)によると、転職希望者に面談し、「転職が難しいと思った」という理由として40%が「人柄が転職に向かない」を挙げている。

転職に向かない人柄について、転職コンサルタントは以下の項目をあげている。

転職に必ず失敗する人のイタすぎる話し方

具体的には、以下のようなタイプだという。

「過去の会社や上司の悪口を言う、自分のスキル・経験を面接で高圧的に話す」
「自己過信の傾向がある。また得意技や分野が絞れていない。現状打破の意欲がない」

こうした人柄は、広い意味でコミュニケーション能力などのヒューマンスキルが欠如していると転職コンサルタントには解釈されている。

■40代以上の転職「成功する人の特徴6、失敗する人の特徴3」

このヒューマンスキルはミドルの転職に限らず、50代後半以降のシニアの転職にも共通する要件だ。高齢者の就労支援を行うマイスター60の井口順二シニアビジネス事業部長はこう語る。

転職に成功する人は専門性が高く、幅広い知識や経験に加えて、バランス感覚があること、若い人とコミュニケーションがとれることが大事になります。逆に失敗する人は、我が強く、自分のやり方を曲げない人で、なおかつプライドが高い。例えば、前職が部長だったという優越的な意識がどこかにある人は、謙虚さに欠けた行動をしてしまいます。新しい会社にはその会社のやり方がありますが、それに溶け込めずに俺は昔からこうやってきたからこれでいいんだと押し通してしまう。一度入社しても、結果的に職場の同僚や経営陣と対立して退職してしまうケースもあります」

井口さんが失敗の要因として掲げるのが……。

(1)我が強すぎる(柔軟性に欠ける)
(2)プライドが高く謙虚さに欠ける
(3)古巣との比較をついしてしまう
(4)過去の人脈や地位にこだわる
(5)役割や職責への理解不足
(6)自信がからまわり(能力の陳腐化)

逆に成功要因としては……。

(1)明るく、若々しい
(2)バランス感覚・柔軟性に優れている
(3)立ち位置、役割、空気が読める

ミドルの転職のヒューマンスキルにも共通する因子である。もしかしたらこうしたヒューマンスキルが欠如している人は転職希望であっても行動に移さないほうが賢明かもしれない。なぜなら、今の会社でも周囲から疎まれる存在かもしれないからだ。であれば、転職先でもきっと同じ結果になる。

マインドチェンジができない人は専門性が高くても失敗する

仮に今の会社にしがみついたとしても人生100年時代を生き抜くには、出向・転籍や定年後の再就職、65歳以降の転職などさまざまな試練が待ち受けている。

井口氏はこう指摘する。

「大事なのはマインドチェンジがいかにできるか。それができない人は専門性がいくら高くても結局は失敗する」

今からでも遅くはない。周囲が自分をどう思っているかを客観的に見つめ直し、マインドをリセットし、コミュニケーション能力を磨くなど、ヒューマンスキルの向上に努めるべきだろう。

(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)