球団史上最大のアップ額 西武・菊池がクリアした“エースの条件”
2億4000万円でサイン、西武・菊池の未来に待つ“夢への扉”
最多勝利投手、最優秀防御率の2冠に輝いた菊池雄星。8日に臨んだ契約更改では単年2億4000万円でサインした。昨季の1億円から1億4000万円のアップは、球団史上最高の増額。26歳の左腕は「言わなくてもわかるんじゃないですか?多分、みなさんが想像している数字だと思います」と、意味深にはにかんだ。
誰もが納得の評価だろう。開幕前に自らの胸に期した、決して低くはない目標をすべてクリアした。
昨年12勝を挙げ、自身初の2桁勝利に到達し、自他共に最低でも『15勝』が求められたが、それを上回る16勝。球団からの「背番号ぐらいは勝て」との期待にも見事に応えてみせた。
本人が最もこだわったのが、「イニング数」だった。今季は、昨季までのエース岸孝之(楽天)がチームを去り、昨季勝ち頭の8年目左腕は必然的にエースの座を託された。“エースの条件”として菊池が掲げたのは「180イニング投げられるかどうか」。チームが優勝するためにも、常に「長い回を投げて、中継ぎを休ませたい」と話し、毎試合完投を目指した中で、リーグ2位タイの6完投をマーク。堂々チーグトップの187回2/3を投げ、名実ともに“エース”に価する存在であることを証明して見せた。
そして、何よりも「嬉しかった」というのが、「ケガなく、1年間投げ切れたこと」だ。昨季も、初めて2桁勝利、規定投球回数に到達したものの、自身にとっては、脇腹の故障で1か月弱、戦線離脱した悔しさの方が強かった。その反省を成長につなげたという意味でも、大きかった。
球団幹部も「真のエースになった」、本人に慢心なし「来年勝てる保証はない」
また、「この8年間、いいことばかりじゃなかった。怪我や、いろんなこともあって、そこで引き出しや経験値として増えたことが、自分を助けてくれたと思う。最初の数年間はしんどかったですが、そういうことが生きているなと思える」と、過去の苦悩を今の自分を作るための重要要素だと、プラスに捉えられるようになったこともまた今後への大きな自信につながった。
監督、コーチ、チームメイト、そしてファンからも、真の意味で「頼れるエース」として、全幅の信頼を手に入れたと言っても過言ではない。鈴木葉留彦球団本部長も、「岸がいた時でも、エース格ではあったが、真のエースになった」と、史上最高評価に価する名投手であることを改めて強調した。
そこまでの評価と信頼を得つつも、慢心は微塵もない。「今年16勝はできましたけど、来年勝てる保証はどこにもない」。危機感すら感じさせる、向上心高き西武のエースは、さらなる成長を求めて、今冬は海外での単身自主トレを選択した。
「一人で自分を磨いてきます。とんでもないガタイの人と混ざってやるので、刺激になると思います。またゼロから鍛え直したいと思います」。年末年始以外、海外で徹底的に自分を追い込む予定だ。
自らが設定した“エースの条件”をクリアし、真のエースとして自信と自覚をもって来季に挑む。こだわるのは、やはりイニング数だ。「なかなか大きい数字ですが、せっかくなので、『200』イニングを目指したい。たぶん、怪我をしたら届かない数字。1年間フルで戦うという意味でも、挑戦したい」。成し遂げた先には、今回の契約交渉の席では、あえて口にしなかったメジャー挑戦という大きな夢への扉が待っているに違いない。(金額は推定)(上岡真里江 / Marie Kamioka)