侍ジャパンU-12代表【写真:Getty Images】

写真拡大

侍ジャパンU-12代表トレーナー川島浩史に聞く育成年代に重要なトレーニング法

 今夏に台湾・台南市で行われた「第4回 WBSC U-12ワールドカップ」。仁志敏久監督率いる侍ジャパンU-12代表は決勝進出を逃し、3位決定戦でもメキシコに敗れて4位に終わった。大会で敗れたのは優勝したアメリカとメキシコ(オープニングラウンドと3位決定戦で2度)の2か国だった。

 なぜ、日本は敗れたのか? 日本の課題はどこにあるのか? 侍ジャパンU-12代表でトレーナーを務めた川島浩史氏(株式会社ワイズ・スポーツ&エンターテインメント)に、感じた課題と育成年代における重要なトレーニング方法を聞いた。

――アメリカ、メキシコという体格で劣る相手に3度の敗戦を喫した侍ジャパンU-12代表。相手のパワーに屈した印象が強かった大会ですが、感じられた印象はどうでしたか。

「日本の子供たちは、基本的なパワーは他国に比べて弱かったとは思います。ですが、アメリカやメキシコといった海外の選手はもともと体が大きいですし、身長もあります。パワーがあって当たり前なんです。国による子供たちの体格の差というものは、絶対に埋まるものではありません。無理に筋トレなどをしてパワーをつければいいというものではないんです」

――そうなると、アメリカなどパワーで勝る相手には勝ち目はないということですか。

「いえ、そんなことはないと思います。自分の思い通りに体を動かせるようになれば、そういうパワーのある国にも勝ち目はあったかなというのが、トレーナー目線からいえば、思う部分ではありました」

――どういうことでしょうか。

「U-12世代、小学生の高学年年代というのは、体を自分の思い通りに、巧みに動かすという能力が一番伸びる時期なんですね。この年代を『ゴールデンエイジ』と呼びます。ゴールデンエイジは、神経系という自分の体を巧みに、思い通りに動かす回路が最も発達する時期なんです」

成長のカギは神経系…「ゴールデンエイジ以降にやっても効果は高くない」

――神経系ですか。

「スキャモンの発育・発達曲線というものがありまして、これは体がどういう順に成長していくかが理論化されたものです。一番伸びる部分に対して、効果的なトレーニングでアプローチすることで、能力が著しく成長します。この理論から言うと、このゴールデンエイジでは神経系がグッと伸びます。この期間でほぼ能力の100%まで成長してしまいます。この時期に、神経系をしっかり開発してあげられるかが、大事になる。このゴールデンエイジ以降に神経系トレーニングをやっても、効果は高くありません。

 例えば『こういう風にやってみろ』といって、子供にやらせてみると、全く違う動きをしてしまう子がいますよね。それは神経系がうまく伝わっていないのです。体の動きには『インプット』と『アウトプット』ということが関わってきます。目、耳、皮膚とか色々なもので感じたものが脊髄を通って、一度、脳に入ります。これが『インプット』です。頭に入って状況などを判断し、こう動かすんだというものを『アウトプット』します。それが筋肉に伝わって、運動になります。

 これがうまく回路を伝わらないと、自分の思う通りに体を動かすことができないのです。言われたことをできる子とできない子の違いは、この『インプット』『アウトプット』がうまくいっているか、いっていないかという部分になります。できないのは、子供の力がないとかではありません。頭の中にイメージがないことはできないですよね」

――そこを鍛えなければ、いけないのは何故でしょう。

「神経系を発達させて合理的な動きができないと、元来、体が持っている力を十分に発揮できないんです。逆に、それを発揮できるようにしてあげれば、ある程度のパワーは出せるはずです。根本的なパワーはアメリカ人などに比べれば、どうしても落ちますが、それ以上に、パワーを発揮する体の使い方が身についていないのです。それができていれば、自然といい球を投げることが出来ますし、いいバッティング、ボールを遠くへ飛ばすこともできるようになります」

日本人の子供が伸ばすべきもの…「この世代でも勝ち目はある」

――大会に帯同されてみて、日本の子供たちは、そこの部分がまだまということですね。

「大会を見ていても、日本の子供たちは体が上手く使えていなかったですね。バッティングにしても、体全体で振るのではなく、手打ちなんです。足、下半身の力を使えていませんでした。宿舎で、夜に素振りしながら、仁志監督からも話があってトレーニングもしたりしていたんですけど、重心が高いとか、力を溜めるという動きが分からない、体重移動が分からないという子供がたくさんいました。そこを、こうやって体の力を蓄えるんだよとかを教えてあげていくのは大事でしょうね。

 期間中には、バッティングに必要な片足に体重を乗せるというトレーニングもしましたが、片足に体重を乗せる、タメを作るとか、バランスをキープするということができなかった。ぐらぐらしちゃうんですね。それは力がないのではなく、体の使い方が分からないから。そういった基本の部分も含めて、まだまだ教えていかないといけないのかなと思います。でも、そこがまだまだ伸びる部分でもあるわけです。そこをいかに緻密に、正確にできるようになるか。

 正直、アメリカの選手たちがそれをやってしまうと、相当強くなってしまいます。ただ、コツコツとやっていくことが必要です。コツコツできるというのは日本人のいいところ。そこを海外の選手たちができるかどうか。日本人の子供たちが伸ばすべきは、神経系であり、自分の体を思い通りに動かすことができるように伸ばしてあげることで、この世代でも勝ち目はあると思っています」

――その部分が向上すれば、世界と渡り合えるようになると。

「神経系のトレーニングを行って、その部分での能力が上がれば、必然的に世界一には近づくと考えています。正直なところを言えば、仁志監督も勝つこと、世界一になることを目標にはしていますが、それだけを追い求めているわけではありません。勝つためには色々な方法を尽くせば、勝つことはできますが、そこだけではないんです。そこだけで子供たちの将来にどう繋がるのか? ということを考えているので。子供たちが15歳、18歳になった時に、どうやれば活躍できるのかということも考えていました。

 将来的なことを考えても、この神経系のトレーニングは必要。小学生年代でそこを発達させることにより、思い通りに体を動かすことができるようになります。そうなると吸収力も変わって、成長度も上がっていくんですね。将来の成長に、何倍もの相乗効果を生むんです。その先にはプロ野球界、侍ジャパントップチームのレベルアップにも繋がります。育成年代で身につけるべきは、パワーではなく、動きの質を高めることです」