iOS 11に隠されたApple Payの新機能:モバイル決済最前線
Appleのスマートデバイス向けOSの最新版「iOS 11」の配信が9月20日にスタートした。すでにインストールして使用している方も多いかと思うが、この最新OSでApple Payに追加された新機能についてフォローしていきたい。日本国内版Apple Payは海外利用も可能に
iOS 11のApple Payに加わる新機能としては、6月のWWDC17でも発表された「個人間送金(P2P)」と「Apple Pay Cash」があるが、これは9月に配信開始されたiOS 11.0の時点では実装されておらず、おそらく10月以降に配信されるiOS 11.1以降でのサポートとなる。

このほか、iOS 11そのものの機能ではないものの、これまで「FeliCaを使うサービスは日本国内で販売されるiPhone 7/7 PlusまたはApple Watch Series 2」という国内モデル限定で海外で購入したiPhoneでは利用できなかった「iD/QUICPay/Suica」の一連のサービスが、iPhone 8/iPhone 8 Plus/iPhone Xの最新モデルでは国内外のモデルを問わずに利用が可能になった。

日本人が海外で購入したiPhoneを日本に持ち込んでもそのまま日本国内のApple Payサービスが利用できるほか、外国人が日本を訪問した際にSuicaのセットアップを行うことでそのまま公共交通機関や交通系電子マネーによる支払いが行えるようになるなど、相互乗り入れが容易になっている。

一方で、これらメリットのほとんどは海外ユーザー(特に米国ユーザー)のものであり、日本ユーザーにとってほとんどメリットがない。だが今回、iOS 11配信開始のタイミングで「日本のクレジットカードを登録したApple PayであってもJCBやMastercardの非接触決済サービス『Mastercardコンタクトレス(PayPass)』『J/Speedy』が利用できる」ことが判明し、ちょっとした話題となっている。

これにより、今後日本でも普及が見込まれる「EMV Contactless(NFC Pay)」と呼ばれる海外では標準的なType-A/Bの非接触決済サービスが利用できることになり、Apple Payの利用できる場所がさらに広がる。日本ユーザーにとって最も嬉しいのは、例えば海外旅行に出かけた際の現地での決済を現金なしでの「非接触通信による支払い」で行える点にある。

少し解説すると、2016年10月に日本国内でスタートしたApple Payは、同サービスに対応する国内金融機関の発行するカードをiPhoneなどのデバイスに登録することで、そのカードに応じて「iD」または「QUICPay」の非接触決済機能のほか、カードに付帯する国際カードブランド(JCB/Mastercardなど)に準じたアプリまたはWebブラウザ上での決済機能が付与される。

またこれとは別に、交通系電子マネーとしてSuicaカードの追加が可能になっており、3種類の非接触決済サービスのほか、クレジットカードそのものが持つカードブランドでの決済機能の2種類が利用できる仕組みだ。このため、1枚の登録カードに対して非接触とアプリ/Webブラウザ決済向けに2つのデバイスアカウント番号が付与されている(カードブランドがVisaの場合は非接触のみ)。

▲au WALLETプリペイドカードをApple Payに登録した例。2種類のデバイスアカウント番号が確認できるが、このうちEMV Contactlessに利用されるのはMastercardのほう

ただし、これは日本固有の特殊な仕様であり、海外のほとんどの地域のApple Payでは登録したカードブランドの決済機能が利用できるのみで、非接触/アプリ/Webブラウザのすべての決済機能で同じ1つのデバイスアカウント番号が割り当てられている。今回、iOS 11で日本国内ユーザー向けに追加されたApple Payの新機能とは、日本国内発行カードを登録した際にアプリ/Webブラウザ決済向けに付与された国際カードブランドのデバイスアカウント番号を使って、そのまま『Mastercardコンタクトレス(PayPass)』または『J/Speedy』の非接触決済サービスを利用できるようになるものだ。

話題の新機能はまだ正式対応ではない模様、若干の混乱も

とはいえ、Apple自身がまだこの機能を大々的にアピールしておらず、現在のところ利用可能なカードとして正式に確認されているのがKDDI発行のau WALLETとトヨタファイナンス発行の各種カードのみで、「dカードでの対応は作業中で現在未対応」(NTTドコモ)というコメントにみられるように、多くの会社発行のカードはまだ対応作業の途上にある。


▲トヨタファイナンスが出していたプレスリリース(現在は削除済み)

また正式対応を発表した前述2社についても混乱がみられる。例えばトヨタファイナンスは当初出していたプレスリリースをすぐに削除しており、何らかの自粛要請がかかったとみられる。KDDIについても、同社が発行する2種類のカードで次のような対応の差異がある。iOS11以降のApple Pay(au WALLETプリペイドカード)は、国内外のMastercardコンタクトレス加盟店(一部店舗を除く)で利用可能Apple Pay(au WALLETクレジットカード)は、国内のMastercardコンタクトレス加盟店(一部店舗を除く)で利用可能。海外利用も対応予定で、時期は決まり次第案内
au WALLETの場合、Mastercardのブランドが付与されているため、通常であればMastercardコンタクトレス(PayPass)対応のすべての加盟店で利用できるはずだが、国内でも未対応店舗があるほか、海外利用についてはプリペイドでの対応のみで、クレジットカードでは利用できない。

そもそも日本国内でMastercardコンタクトレスが利用できる加盟店がほとんど存在していないため、現状の対応では利用できるユーザーは限られるだろう。ライター同業者の小山安博氏の助力を得て、実際にau WALLETプリペイドを登録したApple PayでMastercardコンタクトレスのテストをある店舗で行ってみたが、読み取りエラーが表示されて承認プロセスにたどり着く以前に失敗してしまった。

(2017年9月25日追記):後に再検証したところ、au WALLETのカードを再登録することでMastercardコンタクトレスの決済に成功した。同様の報告はトヨタファイナンスなどからも行われており、NFCによるEMV
Contactless系サービスを利用したいというユーザーはカードの再設定を勧める。


▲TSUTAYAのセルフレジでApple PayのMastercardコンタクトレスを利用しようとしたところ、タッチエラーが表示されてしまった

いずれにせよ、今年2017年内いっぱいをかけて対応カードが順次増えてくるとみられ、それまではカード会社ならびにApple自身もこの機能はアピールせず、上記に見られるような問題の解決を優先してくると考えられる。また興味深い点として、トヨタファイナンスが出していたプレスリリースで対応機種を次のように表記していたことが挙げられる。

iPhone X、iPhone 8、iPhone 8 plus、Apple Watch Series 3ならびに日本国内で販売されたiPhone 7、iPhone 7 plus、Apple Watch Series 2となります。



FeliCa機能が搭載されたのはiPhone 7以降の機種のため、この表記自体に不思議な点はない。だが、本来であればType-A/Bでの非接触決済が行われるために、FeliCa非搭載でEMV Contactlessの利用には何の問題もないiPhone 6/6sシリーズが上記の対応機種には含まれていない。つまり、日本国内のApple Pay仕様としては、カード登録時に「iDまたはQUICPayへの紐付け」が行えない機種は対応を最初から弾いており、いまのところはEMV Contactlessだけでの利用はできないようだ。

Apple Payの最新機能でこんなことが可能に

このように、Apple Payの新機能はまだ正式運用前の試験飛行に近い状態だが、そう遠くないうちに多くのユーザーに行き渡るだろう。個人的にはこの状態を「Apple Payの第2フェイズ」と呼んでいる。第3フェイズは「個人間送金も交えたアプリやサービス同士の連携」だと考えており、さまざまなサービスが登場するのではないかと考えている。

少々気が早いが、第2フェイズにおけるApple Payの活用例を少し写真ツアーで見ていこう。筆者が持つ米国発行のカードを登録したApple Payで、横浜とシンガポールを過ごした話だ。特に後者の海外でのApple Pay利用は、現在多くの国で非接触決済が可能な店舗が増えていることもあり、非常に重宝するはずだ。

日本国内のマクドナルドでApple Pay(NFC Pay)を使ってみた

▲横浜駅近くにあるマクドナルドはNFC Payが使える店舗として一部で非常に有名


▲レジの様子。他のマクドナルド店舗とは異なり、2つの非接触リーダー端末が設置されているが、NFC Payが利用できるのは右側の装置のほう


▲Apple Pay(Visa payWave)で決済する


▲このマクドナルド店舗(横浜西口店)でのアクセプタンスマーク表示

海外(シンガポール)のフードコートでApple Payを使ってみた

▲シンガポールのHarbourFront Centre内にあるFood Republic。いわゆる普通のフードコートだが、雰囲気が屋台風で個人的に気に入っている


▲このフードコートに限らず、シンガポールのほとんどの店舗では非接触リーダーによるカード決済が可能


▲決済が終わるとすぐに利用金額が現地通貨でポップアップしてくる


▲東南アジア地域ではお馴染みの『カオマンガイ(海南鶏飯)』もシンガポールドルの現金に触れずにすぐに食べられる