時価1兆円突破「ゾゾ」だけが儲かる事情

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不振にあえぐアパレル業界で、通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」が成長を続けている。運営会社の時価総額は1兆円を突破。一方、百貨店は苦戦が続き、最大手・三越伊勢丹ホールディングス(HD)の時価総額は4480億円と同社の2分の1。なぜ明暗がわかれたのか――。

■売上高は小さいが、利益率が高い

衣料品通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するスタートトゥデイの時価総額が8月1日に1兆円を超えた。アパレル業界はかつてない不振にあえいでおり、そのなかで同社は羨望のまなざしを集める存在だ。

時価総額には企業の将来への期待感があらわれる。百貨店最大手・三越伊勢丹HDの時価総額は約4480億円(8月14日現在)で、スタートトゥデイの2分の1以下にとどまっている。一方、連結売上高はスタートトゥデイが763億円(2017年3月期)なのに対し、三越伊勢丹HDは1兆2534億円(同)と、まだ百貨店のほうが圧倒的に大きい。

なぜゾゾタウンはここまで評価されているのか。その理由は、利益を稼ぎ出す力の強さにある。運営会社スタートトゥデイの売上高は、直近2年で約1.8倍に増えている。しかし、それより重要なことは利益率が落ちていない点だ。この3年間の営業利益率は「36.6%→32.6%→34.4%」と、業界トップ級の高水準で推移している。

■「在庫リスクゼロ」のビジネスモデル

一般的に「売上高の拡大」と「高い利益率」を同時に達成するのは難しい。なぜゾゾタウンにはそれができたのか。最大のポイントは「受託型」というビジネスモデルだ。ゾゾタウンに出店しているブランドは、ほとんどがテナント形式になっている。その際、出店テナントはゾゾタウンの倉庫に商品を預ける。お客から注文が入れば、ゾゾタウンの倉庫から商品が配送される仕組みだ。

この仕組みでは、商品はゾゾタウンの倉庫にあるのだが、「在庫リスク」を抱えるのは出店テナント側になる。ゾゾタウンは商品を仕入れているわけではないので、たとえ商品が売れ残っても損失が出るわけではない。もちろん商品が売れれば、代金は出店側に入るが、そのかわりゾゾタウンは商品が売れるたびに「受託販売手数料」をとる。これが同社の売上高として計上されている。

ゾゾタウンがファッション商材を自ら仕入れ、それを自社在庫として持ちながら販売するという買取型ショップはごくわずか。17年3月期でいえば、受託型は947店に対して、買取型は7店である。

■「配送料の圧縮」で儲けがでる仕組み

ゾゾタウンのビジネスモデルは、百貨店の商慣習である“消化仕入方式”を模したものといえる。百貨店では、出店しているブランドの商品が売れた場合、「百貨店側がテナントから商品を仕入れ、同時に販売した」という仕組みになっている。もちろん、消化仕入方式でも、テナント在庫はテナント側の負担である。

受託型ショップの取扱高と、ゾゾタウンが計上している売上高から類推すれば、受託販売手数料は28%程度という計算になる。この手数料は、百貨店の「消化仕入方式」よりも高い。たとえば取扱高(1332億円)と純売上高(251億円)を開示している丸井グループの場合、手数料は19%弱に相当する。

手数料は、百貨店であれば建物や売り場の管理、通販サイトであればサイトの管理や配送料にあてられる。つまりゾゾタウンの場合、配送料を圧縮できれば、それだけ儲けがでる仕組みになっているといえる。

現在、ネット通販をめぐって運送会社の負担が問題になっている。最大手のヤマト運輸は宅配ドライバーの負担を減らすため、ネット通販各社との契約見直しを進めている。この影響で、運送会社を変更する企業も出ている。ゾゾタウンにおいても、今後、配送料の負担が重くのしかかってくるはずだ。

■今後のカギは「アマゾンの動き」

衣料品のネット販売は、今後も伸びていくことは間違いない。『図解!業界地図2018年版』(プレジデント社)では、「ネット通販」対「実店舗」という特集を組んだ。アパレルメーカーや実店舗側も自社サイトの運営に注力している。「ユニクロ」のファーストリテイリングや百貨店の高島屋なども、ネット販売を本格化させている。

中古品の買取販売サービスにも人気が集まっている。デファクトスタンダードが手がける「ブランディア」のように、テレビCMを集中的に投下する企業も相次いでいる。フリマアプリの「メルカリ」も人気で、こうした中古市場の拡大に寄与している。

新品と中古を交えた衣料品ネット通販が今後どうなるか。キーパーソンのひとつはネット通販世界最大手の米アマゾンだろう。今後アマゾンがどんな戦略を打ち出してくるのか。時価総額1兆円を超えたスタートトゥデイは、「儲かる仕組み」をいつまで維持できるのか。注目が集まっている。

 

(ビジネスリサーチ・ジャパン代表 鎌田 正文)