iPadは生き残れるか? 音楽制作から見えるタブレットの未来【Turning Point】

iPadをはじめとするタブレットは、ノートPCでもなく、スマートフォンでもない、その中間を埋めるガジェットだ。
電子書籍や動画配信など、いち早くキラーコンテンツが生まれたこともあり、一気に普及したが、今では 失速。停滞気味だ。
iPadを含めたタブレット停滞の理由には、
スマートフォンの大画面化、ノート(タブレット)PCの薄型・軽量化により、iPadを含めたタブレットとの差異がなくなりつつあるだめだ。
つまり、存在価値そのものが揺らいできているのだ。
果たしてタブレットには生き残る道があるのだろうか?
■タブレットの居場所を侵食するスマートフォンとノートPC
小さなコンピューターとも言えるスマートフォンの性能の向上速度は一時期に比べると鈍化したように思える。
とはいえ、
続々と発売される最新のスマートフォンは、それでも処理速度の向上があり、カメラやディスプレイ、オーディオ機能の品質向上による差別化を図っている。
また普段身につけ持ち歩くアイテムであることからデザイン、カラー、サイズ、そして価格に至るまで、ユーザーのニーズに合わせて多種多様な製品が展開されている。
一方、タブレットはどうだろうか?
性能はスマートフォンに対応して向上はしているが、専用設計によるサイズのバリエーションは少なく、デザインも登場当時から大きな変更はなく、保守的なままだ。
特に片手持ちが可能な7〜8インチサイズは、価格面でもWi-Fiモデルは割安だが、SIMフリーモデルとなると大画面化するスマートフォンとの差異が少なくなっている。
消費者にとってもタブレットを選ぶという明確な理由は少なく、悩みどころとも言える。
筆者の場合は、現在AndroidタブレットとiPadの両方を所有しており、それぞれ用途に分けて使用している。
Androidタブレットは画面のアスペクト比がTVの16:9に近いこともあり動画配信サービス視聴や、内蔵のTV機能などがメインに利用している。アプリを追加したり、ゲームで遊んだりすることはなく、ほぼ素のままで利用している。
iPadは、Androidタブレット同様の使い方もできるが、電子書籍との相性が良いアスペクト比4:3であることから、電子書籍で主に使っている。さらに、iPadにはクリエイティブ系のアプリが多いことから、ゲームを含め、アプリn利用は、iPadの方をメインに利用している。
■タブレットをクリエイティブに使う?
タブレット購入時は
「これがあればノートPCの置き換えができるのでは?」
と期待する人も多いのではないだろうか?
もしそれが実現できれば、持ち歩きが便利なタブレットがまさに最強のモバイルガジェットとなるだろう。
しかし、実際にはOSの制約やPCとは異なるUI(ユーザーインターフェイス)、処理能力の低さなどの理由から「パソコンの代替」という期待は果たされずにいる。
現在では、フル機能のWindowsを搭載した薄型・軽量なタブレットPCも登場し、iPadやAndroidタブレットよりも機能面での満足度は高くなっている。
つまり、iPadやAndroidタブレットは、ノートPCの替わりとしての利用ではなく、タブレット本来の利用報、正攻法の用途での利用がもっとも利便性と満足度を高めることを理解する必要がある。
ところで、iPadでは電子書籍やゲームなど相性の良い使い方があるが、音楽制作との相性が抜群に良いことはご存じだろうか?
今回は、iPadの生き残り策として、クリエイティブな活用に注目する。
■iPadで音楽制作? クリエイティブなタブレット活用へ
音楽制作と聞くと、パワフルなデスクトップPCやMacを使っているイメージがある、
しかし、そもそものデジタルでの音楽制作の祖先を辿ると8bit PCや、小さなディスプレイとテンキーのみで数字入力によるハードウェアシーケンサーから始まっていたのだ。
これらの音楽向けのハードウェアシーケンサーは、接続された楽器に対して自動演奏するための音程や音の長さのデータを送るだけのシンプルな機能だった。
また、当時のシーケンサーを内蔵した楽器などは、処理能力の低さから同時に発音させるとタイミングがズレるという欠点もあった。しかしながらこのテンポ揺れの不安定さが、独特のグルーヴ感を生みだし、音楽として評価されることもあった。
iPadではこうしたハードウェアシーケンサーによる自動演奏機能を強化したDTM(デスクトップミュージック)アプリが充実しているのだ。
iPadでDTMアプリが充実している理由や背景を理解するのは簡単だ。
ハードウェア的にミニマムだったシーケンサーを、当時とは比べものにならないほど処理能力が向上したiPadなら、より機能や表現力を膨らませて利用することができるからだ。
動画編集や写真編集のように高いマシンスペックを必要とする作業を、非力なiPadで作業するとなれば、かなり不快だ。これとは逆であると考えれば、音楽制作での快適さのワケも理解できるだろう。
とはいえ、初代iPadの時代は、まだまだiPadのスペックが低く、さらにiOSも洗練されていなかったことから画面をタップしてから音が出るまで遅延があった。
この時期のアプリは可能性を感じるものの、DTM用途はおろか楽器としても、とても実用するのは難しかった。
しかし、
iPadが世代を重ねるごとに性能が向上していくと、楽器アプリのタッチ操作からの遅延もなくなった。またハードウェア性能が向上に合わせた優秀な音楽アプリが出始めると状況が一変したのだ。

高度な打ち込みとレコーディングを可能とするスタインバーグメディアテクノロジーの「Cubasis 2」

単体シーケンサーの良さと豊富な楽器(ガジェット)を搭載するコルグ「Gadget」
シンセサイザーやリアルな生楽器の音、ドラムなどの打ち込みも可能とするアプリの登場により、iPadでの音楽制作はいつでもどこでもできるようになった。
今では、思いついたフレーズをメモ感覚でiPadに残しておくことも容易だ。

パッチケーブルでプログラミングができるMoogのモジュラーシンセを再現するMoog Music「Model 15」

同じくMoog Musicによる「Animoog」。こちらはタッチ操作ならではの音色変化がたのしめる
こうしたDTMアプリと個別の楽器アプリをiPad内で呼び出せる「IAA(Inter-App Audio)」ようになり、さらに楽器選びの自由度も増している。
また、アップルがリリースした「GarageBand」アプリでは、iPadの内蔵マイクでギターや歌を録音して生音も手軽に取り込めるようになったことで、だれでも簡単に音楽制作ができる仕組みが提供されている。
もちろんGarageBandもIAAに対応し、他社性アプリの音をGarageBandに取り込んで利用可能だ。

GarageBandから他社性アプリを呼び出すことが可能となった。Arturia「iSEM シンセサイザー」
現在、こうしてiPadの音楽制作の環境は、PCの領域に確実に近づきつつある。
もちろん、高音質録音やオーディオ出力用の専用ハードを搭載したPCと比較すれば、外部の周辺機器を利用していないiPad単体では音質的な不利は当然ある。
しかし、時間や場所を選ばない手軽さと直感的なタッチ操作はiPadの最大のメリットであり、タブレットらしい使い方だとも言える。

iPadでレコーディングを可能とする「Auria」。オーディオデータの録音・編集のほかにMIDIシーケンス機能も搭載する

iPadで作成した1曲分のオーディオデータにCD制作や配信用のマスタリングエフェクトが掛けられるPositive Grid「Final Touch」
タブレットの生き残る道は、
・ミニマムなハードをより使いやすくする
・PCで行っていた作業の一部だけを取り出して利便性をあげる
という用途や使い方、サービスを見つけられるかにかかっていると思われる。
タブレットとは異なるが、任天堂「Nintendo Switch」は同じように存在価値が薄らいできた家庭用ゲーム機の分野でタッチパネルディスプレイと多機能なコントローラーを組み合わせることで、新しい価値を生み出そうとしている。
iPadをはじとするタブレットは、たしかにターニングポイントに立っていると言って良いだろう。
しかし、こうした取り組みやアプローチをヒントにできれば、タブレットが生き残る場所は、まだまだあるのではないだろうか?
執筆 mi2_303