中高私立と塾通いで3000万!?「教育費貧乏」に転落する親たち

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■大学で学んで成長することが不可欠

高校卒業生の8割が高等教育を受ける時代になった。高校卒業後、大学、短期大学、専門学校など、さまざまな学校に進学する人が8割にも上っている。高校を卒業してすぐに働く人は、およそ2割にまで減っていることになる。表にあるように、1986年、バブル景気の始まりの頃は、大学進学率は23.6%で高等教育を受ける人の割合も48.7%で5割を切っていた。それが30年の間に8割にまで増えたことになる。こうなってくると、親としても何とか子どもを高校卒業後、進学させたいと思うのは当然のことだろう。

86年頃は景気がよく学費捻出もそれほどの苦労はなかったと思われるが、バブルが弾けて不況になっても進学率は上がる一方だ。少子化ということが大きな要因だ。その中でも大学進学率の上昇は一向に衰えない。2009年に大学進学率は50.2%となり初の5割超えとなった。5割を超えてから伸びが鈍化しているが、2016年は52%に達している。

わが子を大学に進学させようという考えは相変わらず強い。大卒という学歴が魅力的なのだろう。例えば、現在の大企業の役員はほとんどが大卒で、しかも有名大学出身者が多い。この人たちが進学した70年代は大学進学率が25%前後で、高校卒業生の4人に1人が大学に進学する程度だった。まだまだ高卒で働く人が多かったが、それでも勝ち残っている人たちは大卒なのだ。これを見ても大卒の資格は強いことが分かる。

ところが、今は大卒者は2人に1人になり、大卒の意味が違ってきている。大学進学の大衆化が進み、当たり前のことになってきたのだ。しかも日本私立学校振興・共済事業団によると、昨年、私立大の約44%が定員割れを起こしており、大学進学はそれほど難しいことではなくなってきている。つまり、大卒の資格を手に入れるのは、4年間の学費さえ払えれば、それほど困難なことではないようになってきたのだ。入試が厳しかった1990年頃とは大きく異なってきている。

このような状況になれば、昔のように大学生になったら将来がある程度約束され、入学後、勉強しなくても就職できたという状況が崩れてくる。大卒という肩書では差がつかないのであれば、大学で学んで成長することが必要になってくる。今の大学生は、有名大学であろうとなかろうと、学生はしっかり学んでいる。出席率も高く、昔と大きく変わってきている。

■大学合格は中高一貫校への進学が近道

こうなってくると、どこで差をつけるかだが、それはやはり難関有名大への進学ということになる。メガバンクや商社など、学生の人気企業の就職では、東京大、一橋大、早稲田大、慶應義塾大など、有名大からの採用者は多く、卒業生に対する就職者の割合も高い。それ以外でも、キャリア官僚は東京大出身者ばかりといっても過言ではない状況だ。有名大出身者は卒業後の選択肢が広い。

そうなると、親は子どもを何とか有名大に進学させたいと思うようになる。医師を目指すという道もあるが、国公立大医学部は東京大や京都大の理系に匹敵するほど難関だ。そういった大学・学部に合格するためには、有名大進学に実績が高い中高一貫校への進学が近道ということになる。

東京大合格者ランキング(http://president.jp/articles/-/20955)を見ても分かるように、国立・私立の中高一貫校は、23年連続で東大合格者のトップ10を占めている。最初から子どもを東京大に進学させようと考える親は少数派だろうが、最難関の東京大に合格させられる教育力がある学校なら、子どもの志望校すべてに対応できると考えられるのだ。

こう考えて、中高一貫校を目指す人が多くなるが、当然ながら経済的な問題が生じる。中高一貫校の学費は6年間で500万円はかかる。中学入試突破のための塾代と合わせると、少なくとも800万円は必要だろう。大学の学費も4年間で国公立大なら全学部とも240万円ぐらいだが、私立大になると学部によって大きな差がある(表参照)。医学部だと6年間で3000万円を超えるが、文系だと450万円ほど。理工系だと大学院修士課程進学が当たり前になってきているので。それを含めて平均で850万円は必要だろう。ただ、学生時代に海外研修などに行くとなると、さらに資金が必要だ。

それだけではない。下宿して大学に通うと、仕送りが必要になってくる。地方から東京の大学に通うケースがもっとも高く、生活費として平均で月々14万円ほどが必要だ。奨学金やアルバイトで賄っている学生も多いが、この金額をすべて仕送りするとなると4年間で472万円。パソコンや生活必需品などを買い求めると、500万円は軽く超えてしまう。

地方の私立中高を出て、東京の私立大の理工系で大学院まで進学したとすると、生活費をフルに仕送りした場合、3000万円近いお金がかかる計算になる。もちろん、医学部や歯学部だともっとかかる。さらに、首都圏に住んでいても、子どもを私立小学校に進学させたり、途中で塾に通わせたり、大学入試で浪人したりすると、もっと費用がかさむ。進学の選択肢は今やたくさんあり、どの道を選ぶかで教育にかける費用が大きく変わってくる。教育費の捻出に頭を痛めることだけは間違いないが、教育費貧乏だけは避けたいものだ。

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安田賢治(やすだ・けんじ)
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。大学通信入社。30数年にわたって、大学をはじめとするさまざまな教育関連の情報を、書籍・情報誌を通じて発信してきた。現在、常務取締役、情報調査・編集部ゼネラルマネージャー。大正大学講師。著書に『中学受験のひみつ』『笑うに笑えない大学の惨状』など。近著に『教育費破産』がある。

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(大学通信 安田賢治=文)