NHK『おんな城主 直虎』公式サイトより

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 1月22日に第3話が放映されたNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』。とわ(新井美羽)は人質として今川家に行くことになったものの、とわの機転とあきらめない心、そして南渓和尚(小林 薫)の事前交渉が功を奏してすぐに井伊家に帰されたというお話でした。今川義元(春風亭昇太)の下した判断は、「とわが出家すれば本領安堵する」というもの。とわが龍王丸(中川 翼)にけまり勝負を挑む場面が少し長くてしつこさを感じた反面、終わってしまうと「今回の話ってこれだけ?」と物足りなさを感じました。

 でもよくよく考えてみると、「主人公が持ち前の気質を活かして難を逃れた」というストーリーの裏に、なかなか深い話が幾つか隠れています。たとえば、とわが人質に取られた報復に、今川家との交渉役を務める筆頭家老・小野政直(吹越 満)の嫡男・鶴丸(小林 颯)をとわの曾祖父(井伊直平 / 前田 吟)が誘拐した、血気にはやったおじいさんの暴走エピソード。それはいかんだろと思いきや、意外にも義元の軍師・雪斎(佐野史郎)が「井伊家をあんまり追い詰めるとヤバい奴もいるから、ほどほどにしておこうぜ」と義元に進言するきっかけになっていました。

 井伊家の暴走も結果オーライだったのかと思いきや、「井伊家はまだ三河攻めで働いてもらわなきゃいけないし、使いどころがまだあるから」と真意を語る義元。何度でも井伊家を許してくれる今川義元ってめっちゃいい奴じゃん! と思わせてからの腹黒ぶり。戦国の機運が見事に表現されています。逆に言うと、あまりにも井伊家は戦国に向いていないわけですが。

 第3話は舞台が今川家に移ったことで、新キャラも続々登場。中でも、井伊家から人質に出されて義元の「お手付き」となり、今は今川家家臣の妻となっている佐名(花總まり)は強烈な印象を残してくれました。井伊家ではこのいきさつを、「義元が手を付けて、飽きたら雑巾のように捨てられた! ひどい! 許せない!」と認識している模様。感情が感じられず、どこか遠い目をしている佐名の顔を見ていると、確かに不幸そう。

 でも見方を変えてみると、それなりの家に嫁がせてくれた今川義元はやっぱりいい奴。反対に、ただひたすら「佐名かわいそう」と思い込んで、今川家との重要なツテとして利用しようと考えない井伊家の人々はあまりにも単純。唯一、交渉ルートとして活用した南渓和尚に、佐名は「二度とおいでにならないでくださいませ、兄上」と語ります。この台詞も、「井伊家が危機に陥って、私に頼らなければならないような事態が二度と起こりませんように」という意味だと考えると、能面のような表情の奥にある佐名の心の内が思いやられるようです。

 子役ががんばるスポ根ドラマに見せかけて、「子どもの活躍でお家が救われたように見えて、実は大人の事情だった」「井伊家はお家存亡の危機を回避したように見えて、実はより悪化していた」という現実を突きつけてきた第3話。丁寧に話を紡ぐ脚本に好感が持てます。

文・中島千代