テレサと比嘉、両者の違いは“5割スイング”と“速く鋭いスイング”(撮影:上山敬太)

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『大王製紙エリエールレディス』は優勝したテレサ・ルー(台湾)がトータル24アンダー、2位となった比嘉真美子が23アンダーと、優勝争いを展開した二人が4日間大会72ホール・PAR72設定での最少ストローク記録(これまでの記録保持者は堀奈津佳の2013年『アース・モンダミンカップ』の21アンダー)を更新するハイスコア大会となったが、上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏に大会の裏側と二人のスイングの特徴を探ってもらった。
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■ テレサ・ルーは“血液が正常に通った健康体スイング”
同大会で上田のキャディを務めた辻村氏だが、ここまでスコアが出た理由は“実質PAR70”だったと語る。
「5番、17番のパー5は“バーディは確実=ほぼPAR4”という認識を多くの選手が持っていたはずです。特に17番はバーディは必須で、イーグルも…という感覚。実質は“PAR70”のセッティングで、グリーンが柔らくなったことでここまでのハイスコアが出たのだと思います」。
そういう条件下と言えどもツアー記録を更新した二人には賞賛の言葉しかないと辻村氏。特にまったく対照的なスイングをする二人だからこそ、試合としてかなり見ごたえがあったという。まずはテレサのスイングの特徴だが…。
「つねに、力みがない5割スイングをしている印象。“あんなに軽く振って飛んじゃうんだ!”と力んでいるのが馬鹿馬鹿しく思えるくらいで、“自分は1/2の力しか使わないけど、人の3倍は道具に仕事をさせるよ”と言わんばかりです。理にかなった下から順番に動いてくるスイングで、足、ヒザ、腰、胸…そこから腕が出てきてクラブが振られるという正しい順番。そこが狂わないのでスイングバランスが抜群です。例えるなら“血液が正常に通ったスイング”といいましょうか」
スイングを体、シャフトの内部を血管だと考える。テークバックとともに淀みなく血液が流れてトップのポジションで深い捻転。ダウンスイングで腕で引っ張っていけば、どこかで血液が詰まってしまうが、テレサは切り返し以後も気持ちよく流れて、インパクトからフォローまで体にまったく負荷をかけることなく血液が循環していく…、見ているとまさに“健康的のスイング”だという感覚を受けるのだとか。つねにストレスがかかっていないように見えるショットを生み出すには、普段からの彼女の調整方法も理由がある。
「テレサは“今日はダメだ!”と思ったら、練習ラウンドも途中で切り上げます。プロゴルファーはスイングイメージが悪くなると“なんでなの?という疑問の渦=病気”に巻き込まれるもの。テレサはその考え方がマイナスになるとわかっているから頭のなかを一旦クリアにできる。体を作るトレーニングはここ1〜2年はかなり負荷をかけていると聞いていますが、スイング練習は深く追い込まないタイプなんです」
■ “速く鋭く振るスイング”を変えずに“スランプ”から復活した比嘉
一方、比嘉はテレサとは対照的に“速く鋭く振るタイプ”であると辻村氏。
比嘉は昨年シード権を喪失。今季はQT組として戦ったが前半戦は予選落ちを繰り返すなど復調の兆しを見せられなかったが、終盤の『富士通レディース』からの5試合で4度のトップ10入り。自身の最終戦では2位と今季最高の成績でフィニッシュしたが、快進撃が始まる前の『スタンレーレディス』で復調の兆しが見えていた。
「僕の私見ですが、彼女が成績が出ていないときは“速く鋭く振るタイプ”にも関わらず、クラブを長く持ってドローのイメージでヘッドを下から入れていく印象でした。飛距離が出る分、悪くなってきたら逆球が出る。手先を使い始めて上半身と下半身のバランスが崩れる悪循環となっていました。しかし、終盤になって、ボールと体の間隔が近くなり“クラブもやや短く持つなぁ”と思っていたら、ストレートからややフェード目に打っていました。持ち球を少し変化させたのも、終盤の活躍の要因ではないかと思いますね。
テレサのスイングは先ほど話したように効率重視で、比嘉は速さ重視。短く持てば当然速く振れますよね? 特徴を変えずに、道具の使い方、アドレス時のボールと自分との距離感などを熟考し、細かい修正を重ねた上で進化を果たしてきたと言えます」
ルーキーイヤーの2013年に2勝を挙げたが2年後にシード陥落。今年は彼女にとってはどん底からの1年となったが、「今年はいろいろな人にヒントをもらったと思います。華々しいデビューを飾ったプロは“プライドが邪魔をして”周囲の意見を聞かずに悩みを深くする可能性が十二分にあります。彼女は技術面以前に“素直さ”を持って再出発したはずです。若い頃に悪い時期を経験して、再び浮上してこれたという経験が、彼女にとって得がたい財産になったと思います」
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。コーチ転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、濱美咲らを指導。今季は上田の出場全試合に帯同し、様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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