「なにゆえ父を欺く?」「策士だな」今夜いよいよ犬伏の別れ!「真田丸」34話

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NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
8月28日放送 第34回「挙兵」 演出:渡辺哲也


ふたりめの勘違い女子・春


冒頭になぜ春(松岡茉優)の話を持って来たのだろう。
家康(内野聖陽)襲撃に失敗し謹慎中の三成(山本耕史)を訪ねた信繁(堺雅人)は、三成の妻(吉本菜穂子)がいる前で、三成が春について「あの女は苦労をするぞ」と忠告した理由を訊く。
妻はすっとその場から去り、三成が話し出す。
「ありていに申せばわたしに惚れてしまったのだ」

春は勘違いキャラで、つまり、やっぱり梅(黒木華)に似ているだけでなく、きり(長澤まさみ)にも似ていたのだった。

三成に気がないことを知って、

いやーーーーーーーわーーーーーー

とひっくり返って絶叫する春。藤原竜也か。

このエピソード、このタイミングで描いておくしかなかったのか。なにしろ、34回の終わりに「日本の歴史上、未曾有の大戦がこのときはじまった」(有働由美子)とナレーションで語られるように今後かなりシリアスな話になっていくわけで。と同時に、三成も相当勘違いキャラだから、間違えた認識をしているんじゃないかと心配になった。

不器用な三成には味方が少ない。
数少ない頼れる人物・前田利家(小林勝也)が家康(内野聖陽)に頼んで謹慎が解かれたものの、状況は芳しくない。

各方面に謝罪に向かう三成。まずは寧(鈴木京香)。せっかく赦してもらったのに、三成は相変わらず愛想がない。
寧は出家することになり、きりはひまをだされて、細川家へ。
「不穏な気配が渦巻いているんだ」と心配する信繁に「不穏大好き」と威勢のいいきり。
あとになって、彼女が細川家に行ったことが功を成すという巧い展開になっている。

次に三成は茶々(竹内結子)の元へ桃の木の株をもって参上。干し柿よりは土産センスが成長した様子だが、花も実も一挙両得なものを好む合理的な性格は変わらない。

そうこうしているうちに利家死す。
髷を地毛で結っていたという文学座の名優・小林勝也。死に際、右手を上げることで印象づける。33回の寝技からさらに更新された。

歯止めのなくなった反石田派・清正(新井浩文)や福島正則(深水元基)たちが動き出す。
その情報を玉(橋本まなみ)がきりに伝え、きりは信繁に御注進。

信繁「助かった」
きり「わたし、役に立ってる?」
信繁「たまに!」

じつのところ、きりはすごく役に立っている。三谷幸喜は、きりにものすごく重要な役割を担わせているんじゃないだろうか。

役に立っているといえば、三成だって役に立っている。かつての仲間が自分を攻めてくると聞いた三成は相当ショックだと思うが、冷静に太閤殿下の資料が焼失することを心配する。
こうやって、資料をとっておこうとした人がいるから、いま、こうやって歴史の本が書かれたり、時代劇が作られたりするのだなあと感謝。


弱そうな豊臣派、荒くれ者が多い徳川派


さて、ここで、三成派の人たちの配役を見てみよう。
小林顕作が演じる明石全登といい、玉置孝匡演じる島左近といい、申し訳ないがあんまり強そうじゃない。
小林も玉置も小劇場俳優でどこかカルチャーのニオイがするのだ。宇宙レコード(レは丸囲み)、コンドルズ、フォークデュオ羊とかペンギンプルパイルペイルズとか所属集団の名まえがもう文科系。東京サンシャインボーイズの小林隆演じる片桐且元も34回ではかなり頑張ったが、やっぱり強そうではない。
それに比べて、家康側についた福島や加藤はヤンキー臭がする。福島役の深水元基は『クローズZERO』のリンダマンだもの。本多忠勝(藤岡弘、)は言わずと知れた仮面ライダーだし。
さらに後藤又兵衛役でVシネの帝王・哀川翔が参戦(のちに豊臣の家臣になるが)。明らかに家康側のほうが喧嘩に強そうで関ヶ原の勝敗がわかってしまう。

彼らの上に立つ家康役の内野は文学座出身だが、ずいぶん前に退団してしまっている。文学座の先輩・小林勝也(前田利家)と対峙するシーンは、劇団系(豊臣)対芸能系(徳川)という色合いを感じた。

シンプルなセリフがズシリと重い


哀川の登場シーンは印象的だった。
三成を討ちに来ると、部屋の中で、将棋崩しをやっている、信繁と信幸(ここは、源次郎と源三郎と呼びたい)。
その将棋をドシンと揺すって崩して「負け」と言って去っていく又兵衛。

兄弟で将棋崩しをやるのは1話以来。最初に、信幸と信繁の性格の違いが語られるのに、将棋が使われた。
次週、「犬伏の別れ」が描かれる前だからか、久しぶりに兄弟のシーンが多く、さらに父・昌幸(草刈正雄)も加わって、初期の頃のような真田父子の絆を再認識させた。
「よき息子たちじゃ」と頼もしそうな昌幸。

これまでずっと各キャラを丁寧に描いているので、ちょっとした会話に、いろいろな思いが感じられてたまらない。

信繁は、ずっと三成を見てきたから、彼の気持ちがよくわかり、支えようとする。
蟄居させられそうになって涙目で、
「殿下にすべてを捧げ、殿下なきあとは豊臣家のためにすべてをなげうってここまでやってきた。
なにゆえ私は伏見を追われなければならぬ」という三成に、
「太閤殿下はわかっておられます。石田様はだれよりもと豊臣家のことを考え秀頼様のことを思われていました。太閤殿下はすべて見ておられます」と励ます。

そこで「虎之介(清正)に会いたい」と頼む三成。
会えた清正とすれ違い様、何かを語りかけるが、その言葉を聞かせない演出がニクい。

三成「参るとしよう」
みつめる信繁、と三成
三成「今生の別れだ」
こういう、言葉にしないで、でも何か心で通じているシーン、歌舞伎の見せ場みたいで、しびれる。

伏見城に家康が入って「家康の高らかな勝利宣言であった」とナレーション(有働由美子)。
家康は信繁に家来になれと声をかけるが、信繁は毅然と断る。このときのふたりの会話もいい。

信繁「おそれながら申し上げます。石田治部少輔様は己が身をかえりみることなく誰よりも豊臣家を思い、尽くしてこられました。その石田様をもってしても内府様の元ではつとめることがかないませんでした。
どうしてわたしなどにつとまりましょう」
家康「わしを怒らせたいのか」
信繁「どう思うと内府さまの勝手でございます」
家康「もういちどだけ言う。わしの家来になれ」
信繁「おことわり申し上げます」
家康「さがれ」
信繁「失礼致します」

感情的な言葉はほとんど使用せず、でも、ふたりの間に沸々とたぎるものがある。
去っていくときの堂々たる信繁の背中。背中が語るってこのことだなあ。
でも、ひとりになると「ふー」と深い息するところが人間的。

それから1年。慶長5年(1600年)。
待ってましたの直江兼続(村上新悟)の手紙。上杉は上洛を拒否した。
再び、戦いの気配が漂ってきて、昌幸(草刈正雄)は奮い立つ。
まだ武田信玄の領地を奪い返そうとする、戦がないと生きられない父に、「我らきょうだい、どこまでも父に着いて参ります」と言う信幸、信繁。
「よき息子をもった!」とお父さん、満足げ。

だが・・・ことは単純ではなかった。

信幸「なにゆえ父を欺く?」
信繁「上杉に勝利をもたらすため」
信幸「策士だな」
信繁「真田昌幸の息子ですから」

この会話もいい。シンプルな言葉の応酬なのにずしりと重い。

次回、「犬伏」。ああ、もう、ドキドキです。
(木俣冬)