怪獣だって好きで暴れているわけじゃない「ウルトラマンオーブ」8話

写真拡大

夏休みは終わっちゃったけど、物語の中はまだまだ夏真っ盛りの『ウルトラマンオーブ』。ガイさんは真夏なのにレザーのコートを着続けているのがすごい。


先週放送の第8話「都会の半魚人」は、ほのぼのしていながらもシリアスな問題を孕んだエピソード。シリーズ全体への伏線もいろいろありそうだぞ。

怪獣が地上に現れるのは「アンバランス」が原因だった!


魚屋の源さんとなぜか仲良く暮らす海底原人ラゴンの親子。魚屋を演じるのは『真田丸』で長宗我部盛親に扮する阿南健治だ。豪華! 

ところが、東京の近海から魚が姿を消してしまう。どうやら怪獣が現れて、魚をねこそぎ食べてしまっているらしい。魚屋にも魚が入荷せず、ラゴン親子も腹ペコだ。

SSPのナオミ(松浦雅)、ジェッタ(高橋直人)、シン(ねりお弘晃)は、続発する異常気象や怪獣の出現を、地球が「アンバランス・ゾーン」になったからだと推理する。

「アンバランス・ゾーン! その名は地球、怪獣出現はバランスが失われた証!」

「アンバランス」とは、ウルトラシリーズの始祖たる『ウルトラQ』の企画時のタイトルだ。自然界のバランスが崩れることで、超常現象や怪獣の出現が人間の世界に現れることを示している。現実世界でも人里に熊が現れたりしているが、これも自然界のアンバランスゆえだろう。

ラゴン親子の存在が、近所の奥様たちにバレはじめた。急行するビートル隊の渋川隊員(柳沢慎吾)。BGMはいつもの『太陽にほえろ!』風。

SSPもUMA探知機(シンが小学4年生の頃に発明したもの。天才!)を駆使してラゴン親子を探して、ついに遭遇! ラゴンの子が病気になって、親ラゴンが困っていたのだ。シンによる手当と子守唄代わりのナオミのハミングを聴いて元気になる子ラゴン。結局、何の病気だったんだろう? ちなみにナオミ役の松浦雅は本気で歌が上手い。

そこに現れたのは海の魚を食い尽くして陸上に上がってきた深海怪獣グビラ! グビラが目をつけたのが、海産物の一種(?)のラゴン親子だった。ドリル状の角で倉庫の屋根をぶち抜くシーンが新鮮。

グビラは逃げ遅れた子ラゴンをパクリ。それを見て取り乱す親ラゴン。もうほとんど人間と同じである。

ガイはウルトラマンオーブ、ハリケーンスラッシュに変身! グビラの腹部をパンチして食べられた子ラゴンを助けると(ピノキオのように潮を吹くとで飛び出てくる)、スペシウムゼペリオンに変身し、新技シャットダウンプロテクトを使ってグビラを海へ帰らせた。

魚屋の源さんが「もう人間のいるところへ来るんじゃねぇぞー!」と叫んでいる横で、ラゴン親子も「うんうん」と頷いているのだが、あなたたちもそうだと思うよ?

ガイ、SSP、渋川隊員、そして魚屋の源さんに見守られながら、海へと帰るラゴン親子。ナオミは渋川に「捕獲しなくていいの?」と聞くが、渋川の返事がイカしている。

「ビートル隊が怪獣を攻撃するのは市民を守るためだ。危険のない絶滅危惧種を捕まえるためじゃない」

この一言ですっかり子ラゴンに懐かれているのがおかしい。ラゴンは人間の言葉を完全に理解しているのかもしれない。

「怪獣だって好きで暴れているわけじゃないのかもね」(ナオミ)
「やっぱ、引き金は地球のアンバランスか」(ジェッタ)
「いや、アンバランスなのは本来のバランスを取り戻そうとする揺り戻し現象の一過程かもしれません」(シン)

地球のアンバランスを引き起こしているのは人間であり、怪獣の出現は地球のバランスを取り戻そうとする自然現象の一つということなのかもしれない。

最後は子ラゴンにせがまれたナオミが再び歌うと、ラゴン親子は海へと消えていった。ところが、ガイがナオミの歌を聴いて「その曲、知ってるのか?」と驚く。このあたりもシリーズの大きな伏線になりそうだ。

ジェッタはラゴン親子を守るため、自主的に撮影したビデオをお蔵入りさせるが、その後、ちゃんとSSP公式サイトで「お詫び」を出しているところが芸が細かい。

ラゴンはゴジラと同じ放射能怪獣だった!?


海底原人ラゴンはウルトラシリーズに何度も登場している怪獣。最初に登場したのは1966年に放送された『ウルトラQ』のこと(50年前!)。自分の卵を取り返すために上陸して暴れまわったが、孵化した子どもを返されて一緒に海へ帰っていった。等身大であることと親子(母子)であることは今回登場したラゴンと同じだ。音楽好きという設定もこのとき登場している。

次にラゴンが登場したのは『ウルトラマン』第4話「大爆発五秒前」。爆発した原爆運搬用ロケットから放射能を浴びて身長30メートルに巨大化しており、巡視船を沈めたり、地上で暴れまわったりした。凶暴化したのも放射能のせいだと言われている。おまけに安全装置の外れた原爆を腕からぶらさげているという物騒極まりない存在だった。ある意味、ゴジラと非常に似た設定の持ち主でもある。ラゴンはその後、『ウルトラゾーン』、『ウルトラマンギンガ』にも登場した。

深海怪獣グビラも初出は『ウルトラマン』。このときは海底基地を襲うものの、ウルトラマンに角をへし折られ、スペシウム光線を浴びて爆破された。その後、『ウルトラマンX』などにも登場している。

ものすごく細かい話で恐縮だが、魚屋の源さんがラゴンの子にプレゼントした漁船のおもちゃに「友郎丸」と書かれていたが、これは『ウルトラマンオーブ』のメイン監督の田口清隆監督が2009年にNHKで制作した『長髪大怪獣ゲハラ』に登場した漁船と同じ名前だったりする。

今回のエピソードの鍵になっているのが「アンバランス」だ。『ウルトラQ』の企画段階のタイトルが「アンバランス」だということは前述したが、『帰ってきたウルトラマン』での怪獣出現も地球の異常気象や地殻変動などの「アンバランス」が原因だった。

『ウルトラマンオーブ』では、『ウルトラマンA』の異次元人ヤプールのような怪獣を遣わす存在(ジャグラス ジャグラー)と、『ウルトラセブン』のような侵略を目的とした宇宙人たち(惑星侵略連合)、そして『ウルトラQ』や『帰ってきたウルトラマン』のような自然界のアンバランスによって現れる怪獣たちが混在した世界のようだ。

なお、今回は脚本と完成作品とでは結末が違うらしい。脚本を担当した小林弘利(『星空のむこうの国』!)のツイッターによると、市野龍一監督から「『コスモス』の監督なんでこうしちゃうつもり」と撮影現場で聞き、「『X』のシリーズ構成してたので、その展開は大歓迎です」と快諾したという。市野監督もツイッターで小林に感謝を贈っている。

当初はウルトラマンオーブがグビラを倒す話だったのを、グビラを保護して海へ返す話へと変更したのだろう(『ウルトラマンコスモス』は怪獣を倒すのではなく、人類と怪獣との共存を目指して怪獣を保護する話だった)。

倒すべき相手は倒し、守るべき相手は守る。硬直した思考を持たず、行き過ぎた攻撃もしない『ウルトラマンオーブ』は、非常に現代的なヒーローだと言うこともできそうだ。

さて、この記事が配信されている頃には放送が終わっている第9話は「ニセモノのブルース」。惑星侵略連合とババルウ星人が登場するぞ! 最近、ジャグさんが活躍しなくてちょっとさびしい。見逃してしまったあなたには、円谷プロダクション公式チャンネル「ウルトラチャンネル」で1話まるごと見逃し配信中です。闇を照らして、悪を討つ!
(大山くまお)