マンガのように、ぶつかり合ってすぐに友情が芽生えたりしません「チア男子!!」7話

写真拡大

男子だけでチアリーディングに挑戦するアニメ『チア男子!!』も後半戦に突入。レギュラーも一気に16人になって賑やかになったのはいいけれど、人が増えれば揉めごとも増えるわけで……。さっそく先週放送された第7話「歪み」を振り返ってみよう。


ハル(演:米内佑希)の幼馴染、カズ(演:岡本信彦)の呼びかけでスタートした命志院大学(“名シーン”大学)男子チア部「BREAKERS」。7人で行った学園祭の舞台は成功を収め、入部希望者が集まって16人に膨れ上がったのだ。16人といえば、チアリーディング競技における1チームのちょうど上限にあたる。つまり、チアの大会に出るにはぴったりの数というわけ。

今回のお話の中心になるのは、新入部員の1年生・尚史(演:畠中祐)。尚史はチアリーディングに強い関心を持ち、普段の練習を大切にするのはもちろん、周囲のチームの動向や自分の食生活にまで気を配るという“意識の高い”男子だ。今回、尚史が着ていたTシャツには「earnest」と書いてあった。これは「まじめな、真剣な、熱心な」という意味だ。

尚史とまったくソリが合わないのが、同じく新入部員の1年生・タケル(演:沢城千春)。特徴は大きく膨らんだアフロヘアー。アフロにしているのは、別に黒人音楽に造詣が深いとかそういうわけではなく、単に目立ちたいから。BREAKERSに入ったのも学園祭で一番目立っていたから。いつもC調(死語?)で、練習に遅刻してきてもヘラヘラしている男だ。

ハルやカズたち初期メンバーも同じ1年生だから、タケルに強く注意することはない。なにせ大学のサークル活動なのだから、いろいろな態度の人間がいるのが当たり前なのだ。このあたり、最初から「全国大会への出場」と目標が決まっている高校の部活(運動部だけでなく吹奏楽部などの文化部も同じ)とは確実に温度差がある。BREAKERSも一応全国大会を目指してはいるが、メンバーの意識はそれぞれ別なのだ。

練習態度をめぐって、ついに衝突する尚史とタケル。揉み合う2人に踏み潰される豚まんが悲しい。「何か上手くいく方法ないのかな……」と主人公のハルもため息をつくことぐらいしかできない。現実はマンガのように、ぶつかり合ってすぐに友情が芽生えたりしないのだ(現実じゃなくてアニメだけど)。

ハルの姉・晴子(演:藤村歩)の柔道の連勝記録がストップしてしまったエピソードが挿入されるが、リオ五輪で連勝記録が止まった吉田沙保里を連想してしまう。晴子と柔道を辞めてチアに走ったハルの間にも、まだ距離がある。人間関係は難しい。

新入部員の尚史は『シン・ゴジラ』の矢口蘭堂似!?


季節は冬になっていた(学園祭の後だから)。ここで前半は大人しくしていたメガネ男・溝口(演:杉田智和)が一計を案じる。メンバーの親睦を深めるために、クリスマスパーティーをやろうというのだ。真夏にクリスマス回!? と思う向きもあるかもしれないが、『美男高校地球防衛部LOVE! LOVE!』ではついこの前、大晦日に大雪で困るというエピソードをやっていたから平気平気。男子アニメは南半球か。

ヒマワリ食堂を借り切って、男だらけの手作りクリパのスタート! 溝口は金髪のカツラに網タイツのバニー姿という謎の格好で気合十分。プライベートでのお互いのことや意外な面が少しずつ明らかになり、徐々に空気もほぐれていく。仲良くなるには、まず相手のことをよく知ること。尚史とタケルもお互いに謝って、“雨降って地固まる”になりかけるが……。

3年生の冬を迎えている鍋島兄弟の兄・卓哉(演:木島隆一)とヤンキー顔の金(演:勝杏里)がパーティー会場の片隅で就職活動の厳しさを語り合っている(リアル!)中、タケルが「明日も休もうぜ〜!」とふざけ半分で提案したところ、それを聞いていた尚史が激怒! 卓哉も金も就職活動でチアの練習をちょくちょく休んでいた。尚史はそれが気に入らなかったのだ。

「休むとみんなに迷惑がかかるんだよ。小学生じゃあるまいし、そんなこともわからないのか!」

酒を飲んでいた様子もないのに、空気を1ミリも読まず、いきなりブチ切れて正論で上級生に食ってかかる姿は、相手が首相だろうと大臣だろうと直言しまくる『シン・ゴジラ』の矢口蘭堂のクレイジーさにつながる部分がある。集団がうまくやっていくには厄介な存在だが、日本が危機に陥ったときは尚史のような男が役に立つのかもしれない。

激昂した尚史は頭に即席ケーキのクリームを乗せたままヒマワリ食堂を出て行ってしまう。「最悪のクリパや……」とイチロー(演:桑野晃輔)がつぶやいて、この回終了。タイトルどおり、「歪み」っぱなしで終わっちゃった! すぐさま流れるエンディングテーマの「ゴー・ファイ・ウィン!」のコールもどこか虚しい。仲間でケンカしてたら、他人を応援するどころじゃないよね。

16人も登場人物がいるのに、ドラマを運びながら1話の間にそれぞれの特徴が出たセリフや見せ場があるのがすごい。脚本は『星のカービィ』『まじもじるるも』などの國澤真理子。ただし、主人公のハルはちょっと影が薄い。あと、翔(演:小野友樹)の私服のセンスのダサさが最果てにたどり着きつつある。

実写のドラマも含めて、(連続スタイルの事件もの以外)何かトラブルがあっても次回に持ち越さず、視聴者に極力ストレスを与えないスタイルの作品が増えている昨今、1話の中で問題がまったく解決せず、逆に溝が深くなって終わるという『チア男子!!』は新鮮に映る。ドラマ(アニメ)はもっとドロドロすべきなんじゃないだろうか。

予告では尚史の退部が示唆されていたが、その途端、タイムライン上に「ひさし、部活やめるってよ」というフレーズが並んだのは、『チア男子!!』ファンのリテラシーの高さを示していると思う。『チア男子!!』の原作者はもちろん『桐島、部活やめるってよ』の朝井リョウ。

さて、今夜放送の第8話は「絆のご来光」。はたして、尚史とタケルはどうやって仲直りするのだろうか? ゴー・ファイ・ウィン!
(大山くまお)