安易な「泣かせ」に走らない、だから響く「甘々と稲妻」8話

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深夜アニメなのに視聴率4%を獲得するなど、異例のヒットとなった『甘々と稲妻』。妻を亡くした高校教師・公平(演:中村悠一)が5歳の娘・つむぎ(演:遠藤璃菜)を育てながら、教え子の女子高生・小鳥(演:早見沙織)と一緒に美味しいごはんを作ったり食べたりするという、それだけといえばそれだけの話だけど、これが良いんですよ。


先週放送の第8話「明日もおいしいイカと里芋の煮物」は、つむぎが亡くなったママの味をリクエストするお話。なんだかもう涙腺がヤバイ予感……。

つむぎが通う幼稚園の参観日、ママさんたちの中に仕事を休んで参加した公平の姿があった。作中では描かれないが、子どもの参観日という理由で仕事を休ませてくれる公平の勤務先の学校はえらい。逆に言えば、公平がつむぎに寂しい思いをさせまいと必死になって休みを取ったのだろう。子どもを幼稚園に通わせている家庭は専業主婦家庭が多く、参観日の参加率もかなり高い。つむぎが“ママの不在”を強く感じる可能性も高いはず。だから、公平もがんばったわけだ。

「うんこ」「うんこ」と盛り上がるつむぎの同級生たちが微笑ましい。筆者の娘(4歳、つむぎと同じ年中組)と同じ年の男の子たちも本当に「うんこ」だの「ちんちん」だの言ってケタケタ笑っている。ああ、『クレヨンしんちゃん』のしんのすけは“子どもの教育に悪い存在”なんかじゃなく、ただの“バカ男子あるある”なんだなぁと思う一方、「ウンコチンチン」というギャグで子どもたちを虜にした加藤茶は本当に偉大だと思う。

さて、幼稚園で“ママの不在”を感じ取ったのは、つむぎではなく公平だった。周囲のママたちが新しい手作りの通園バッグを持たせている中、つむぎはシミで汚れた去年と同じバッグを使っていた。ママたちはシングルファーザーの公平を気遣うが、やっぱり気になるもの。料理の次は、お裁縫に挑戦か……。

ところが、新しいバッグを作ろうという公平の提案に対するつむぎの答えは「……いい」というものだった。「ママのでいい……」と呟くつむぎの背後に、ママの仏壇が映る。ピンクのバッグは、ママが手縫いしてくてれた思い出の品だったのだ。頭からバッグを被るつむぎ。ママに抱っこされている気分が味わえるのだろうか?

お話にちょっと「泣き」に入りそうな雰囲気が漂うが、公平は一気に空気を変える。
「ママのバッグは大事にするとして……父さんのこのやる気はどうしよう!」
「ママの作ってたご飯で、つむぎがまた食べたいなぁって思うのあったら……父さん作るよ。何でも言って」

ママの話を避けるわけでもなく、自然に違う話に持っていく。このあたりの話の流れ、会話のやりとりは原作のとおりだが、『甘々と稲妻』という作品は「泣かせ」について非常に抑制的だと感じたシーンだった。ママを亡くした幼児のお話なのだから、描きようによってはもっとグイグイ泣かせる話にすることもできただろう。だが、『甘々と稲妻』はそれをしていない。

40万部を突破した大ヒット中の絵本、のぶみ『ママがおばけになっちゃった』は、交通事故でママを亡くした4歳の息子のところにママがおばけになってやってくる話だ。母を亡くした幼児の物語という意味では『甘々と稲妻』と同じだが、「泣かせ」に対する姿勢は180度違う。親を亡くした子どもをわんわん泣かせて読み手(子の親)の涙腺を刺激する『ママがおばけになっちゃった』に対し、極力そのような描写を避けつつ、それでも時折ホロリとさせる『甘々と稲妻』。どちらが正しいというわけではなく、好みの問題でしかないのだが、筆者は圧倒的に『甘々と稲妻』の方が好みである。というか、『甘々と稲妻』は4歳の娘と一緒に観たいけど、『ママがおばけになっちゃった』はあまり娘に読ませたくないのよね。「ママがいなくなる」という「泣かせ」が強すぎるから。

ちなみに先のセリフで、公平が自分のことを「おとさん」ではなく「父さん」と呼んでいたことが少し気にかかっている。何か意味があるのだろうか。

過去と未来をつなぐイカと里芋の煮物


というわけで、公平と小鳥はつむぎにとって“ママの思い出の味”であるイカと里芋の煮物作りにチャレンジ。「つむぎちゃんの食べたい味と違ったら、ごめんなさい」と勝手にプレッシャーを感じる小鳥が健気だ。

イカの下ごしらえから始めて、基本に忠実に、でも手抜きせず、イカと里芋の煮物を作る3人。このアニメの作り方にも重なる部分を感じる。同時に複数のおかずを作ることができるようになったのは、料理のスキルが上がってきている証拠。かくして、煮物、豆腐と長ねぎの味噌汁、ガス釜で炊いた白めしの3点セットが完成! 

里芋を口に入れて、すぐに白めしをかっこむつむぎ。あわてて食べるのは消化によくないが、「わかってるね!」としか言いようがない食べ方だ。一口食べた後、声にならない声を発する気持ちもよくわかるぞ。そして、ここでつむぎがママを思い出したり泣いたりしないところも好ましい。思い出も悲しみも大切だけど、まずは目の前のおいしいごはんをバクバク食べることに集中しよう。おいしいごはんは生命力の源泉だ。『甘々と稲妻』からは、ママを失った父子の悲しさよりも、明日に向かう生命力を強く感じる。

「煮物、冷めていく時に味が入るので……明日はもっと美味しいですよ」
「明日! 明日もっとおいしいの!? すごーっ!」

多めに作った煮物をタッパーに詰めて渡す小鳥と、小鳥の言葉に大喜びするつむぎ。「明日もおいしいイカと里芋の煮物」というサブタイトルがここで回収されたわけだ。帰り道、公平はつむぎを肩車しながら、ママのバッグの汚れた部分に貼るアップリケを明日、探しにいこうと提案する。

「明日、楽しみ!」

“過去”に食べたママの味を再現しようとしていたら、いつのまにか“明日”が楽しみになっていた。イカと里芋の煮物は公平とつむぎにとって過去と未来をつなぐタイムマシン(タイムごはん)なのかもしれない。結果として涙腺を刺激しまくるようなお話ではなかったけど、そこがいいじゃない! と強く思う。

さて、今夜放送の第9話は「うちのおうちカレー」。亡き妻が遺したレシピを元にして、公平と小鳥がカレーを作るぞ。第8話以上にドキドキする展開だ。
(大山くまお)