ロンブー淳は熱烈交渉、有吉はポケGO「芸人キャノンボール」を発声可能上映で観たい
ロンブー、おぎやはぎ、有吉弘行、千原ジュニアなどMCクラスの芸人17人が集結し、対決をしながら静岡から所沢まで車を走らせる『芸人キャノンボール 2016 Summer』(8月24日放送 TBS系列)。3時間にわたる特番は、一本の映画を観たような充足感があった。
今回の「2016 Summer」は、元日に放送された『芸人キャノンボール 2016』続く第2弾。4チームにわかれた芸人たちが、車でチェックポイントを巡りながらゴールを目指す”借り物競争”だ。
各チェックポイントにはにらめっこなどの対決が用意されており、交渉力や人脈を駆使して制限時間内に勝てそうな人を連れて行かねばならない。着順や対決の勝敗、連れてきた人の属性(「社長」や「身長2m以上」など)によってポイントが加算され、総合点で優勝を決める。
今回のチェックポイントは静岡放送(にらめっこ)、鵠沼海岸(水着美女で騎馬戦)、ヴィーナスフォート(カラオケ対決)、西武ドーム(ホームラン競争)の4ヶ所。絶妙の交渉力で水着美女を集めまくるロンブー淳、デジタルはからきしダメだが地元横浜の地理に強い出川哲朗、他チームのETCカードを抜いて妨害するおぎやはぎチーム、我関せずとポケモンGOを続ける有吉弘行、ヘキサゴンファミリーの人脈を頼るFUJIWARAなど、芸人たちがそれぞれの強みを発揮しながら戦いを繰り広げた。
『芸人キャノンボール』の画面は近年のバラエティ番組に比べてとても静かだ。画面上部に番組名と次のチェックポイントの情報がある以外、テロップは出演者の発言のみで、字体はシンプルな明朝体。ナレーションや効果音で笑いを付け足すことはなく、スタジオトークやワイプ、CM前の煽りやCM明けの振り返りもない。ロケVTRをつないだドキュメンタリーのような構成になっている。
また、対決の勝敗だけに焦点を当てるのではなく、3時間という長尺をつかって道中の芸人たちのやりとりをじっくり見せる。勝敗に関係ない「サイドストーリー」の部分もおろそかにしない。印象的なのはアンガールズ田中の拉致のくだりだ。
番組が始まってすぐ、ロンブー淳は同じチームの田中(前回有吉チームに所属)を「お前、有吉のスパイだろ」と疑う。淳は「有吉から連絡が来るかもしれないから」と田中の携帯を没収。有吉チームの集合写真に田中が映り込んでいるのも発見し、ますますスパイの疑いを強める。
2ndステージ終了時、その田中がおぎやはぎチームに拉致されてしまう。チェックポイントでのゴールではチーム全員が揃っている必要があり、このルールを逆手にとった妨害工作だった。車中では、
田中「こんなことしても結局勝つのは淳さんですからね」
小木「おぉかっこいい」
バカリズム「一回ちょっと つねっといた方がいいですね」
矢作「『淳なんか大したことねぇ』って言え!」(つねる)
田中「いやぁ〜〜〜!」
と、完全に田中を「捕虜」扱い。あげく、お台場のはずれに強制的に置き去りにしてしまう。携帯を没収されている田中は目的地のヴィーナスフォート目指して必死に走り、なんとかロンブーチームのゴールに間に合うことに成功。そして番組のエンディング。西武ドームでのホームラン競争を終えた時、淳が田中に声をかける。
淳「ようやくわかったよ田中がスパイじゃないって。あの喜びようは真のロンドンブーツチームだって」
勝負の行方のみを伝えるなら、最後の部分は無くても番組は成立する。にもかかわらず、きっかけや結末を丁寧に拾い、「番組冒頭でかけられたスパイ疑惑がエンディングで晴れる」というサイドストーリーを作り上げる。対決という幹だけでなく、枝葉の部分もつながりも丁寧に作りこむ。
それだけに、途中から見ると面白さが半減してしまう。この番組をめいいっぱい楽しむには、最初から最後までテレビの前から離れずに鑑賞するのがベスト。バラエティ演出が最小限なこともあり、もはやテレビ番組というより、映画館で映画を鑑賞する感覚に近い。これが発声可能上映だったら「うしろに千秋いるよ!」とか叫んでいると思う。
過剰なテロップやCM前の煽りなどのバラエティ演出は、視聴者にチャンネルを変えさせないために行われている。これを排除するなら視聴率への影響を覚悟しなくてはならない。『芸人キャノンボール 2016 Summer』の視聴率は5.9%(関東地区)。ゴールデンタイムかつ強力な裏番組がなかったことを考えれば、決して高い数字とは言えない。
ただ、TBSはこの番組を視聴率だけで評価はしていない。番組の演出兼プロデューサーの藤井健太郎氏は著書『悪意とこだわりの演出術』の中で、『芸人キャノンボール 2016』のことを「ここで攻めているのは僕ではなく、元日のゴールデンタイムにこの番組を流す編成をしたTBSだと思います」と振り返っている。
《企画が決まってからも「ここは視聴率が多少悪くても、内容でちゃんと面白いモノを出すことが大事だから」「元日の目立つ場所で格好の悪い番組は出したくないからな」と、編成の企画統括から何度も言われました。プレッシャーがある反面、とても意義に感じました。》
《最近のTBSは、確実なモノを作ってきっちり視聴率を守るディフェンスの番組と、内容重視してイメージをあげたり新規の視聴者を獲得するオフェンスの番組を上手に分けて考えているんだと思います。そして、都合よく解釈すれば、ありがたいことに僕は今、オフェンスを任せてもらっているんだと思います。》
元日の『芸人キャノンボール』も視聴率は5%台だった。それでも夏に続編を製作したのは「内容でちゃんと面白いモノ」を出せた証左だろう。
視聴率は大事だが、視聴率だけが全てではない。テレビが抱えるジレンマに「とにかく面白いものを作る」という正攻法をぶつけた『芸人キャノンボール』。10月からは同じく藤井健太郎Pの『クイズ☆スター名鑑』が始まる。TBSのオフェンスはまだまだ続く。
(井上マサキ)
芸人たちが繰り広げる”借り物競争”
今回の「2016 Summer」は、元日に放送された『芸人キャノンボール 2016』続く第2弾。4チームにわかれた芸人たちが、車でチェックポイントを巡りながらゴールを目指す”借り物競争”だ。
今回のチェックポイントは静岡放送(にらめっこ)、鵠沼海岸(水着美女で騎馬戦)、ヴィーナスフォート(カラオケ対決)、西武ドーム(ホームラン競争)の4ヶ所。絶妙の交渉力で水着美女を集めまくるロンブー淳、デジタルはからきしダメだが地元横浜の地理に強い出川哲朗、他チームのETCカードを抜いて妨害するおぎやはぎチーム、我関せずとポケモンGOを続ける有吉弘行、ヘキサゴンファミリーの人脈を頼るFUJIWARAなど、芸人たちがそれぞれの強みを発揮しながら戦いを繰り広げた。
サイドストーリーをおろそかにしない
『芸人キャノンボール』の画面は近年のバラエティ番組に比べてとても静かだ。画面上部に番組名と次のチェックポイントの情報がある以外、テロップは出演者の発言のみで、字体はシンプルな明朝体。ナレーションや効果音で笑いを付け足すことはなく、スタジオトークやワイプ、CM前の煽りやCM明けの振り返りもない。ロケVTRをつないだドキュメンタリーのような構成になっている。
また、対決の勝敗だけに焦点を当てるのではなく、3時間という長尺をつかって道中の芸人たちのやりとりをじっくり見せる。勝敗に関係ない「サイドストーリー」の部分もおろそかにしない。印象的なのはアンガールズ田中の拉致のくだりだ。
番組が始まってすぐ、ロンブー淳は同じチームの田中(前回有吉チームに所属)を「お前、有吉のスパイだろ」と疑う。淳は「有吉から連絡が来るかもしれないから」と田中の携帯を没収。有吉チームの集合写真に田中が映り込んでいるのも発見し、ますますスパイの疑いを強める。
2ndステージ終了時、その田中がおぎやはぎチームに拉致されてしまう。チェックポイントでのゴールではチーム全員が揃っている必要があり、このルールを逆手にとった妨害工作だった。車中では、
田中「こんなことしても結局勝つのは淳さんですからね」
小木「おぉかっこいい」
バカリズム「一回ちょっと つねっといた方がいいですね」
矢作「『淳なんか大したことねぇ』って言え!」(つねる)
田中「いやぁ〜〜〜!」
と、完全に田中を「捕虜」扱い。あげく、お台場のはずれに強制的に置き去りにしてしまう。携帯を没収されている田中は目的地のヴィーナスフォート目指して必死に走り、なんとかロンブーチームのゴールに間に合うことに成功。そして番組のエンディング。西武ドームでのホームラン競争を終えた時、淳が田中に声をかける。
淳「ようやくわかったよ田中がスパイじゃないって。あの喜びようは真のロンドンブーツチームだって」
勝負の行方のみを伝えるなら、最後の部分は無くても番組は成立する。にもかかわらず、きっかけや結末を丁寧に拾い、「番組冒頭でかけられたスパイ疑惑がエンディングで晴れる」というサイドストーリーを作り上げる。対決という幹だけでなく、枝葉の部分もつながりも丁寧に作りこむ。
それだけに、途中から見ると面白さが半減してしまう。この番組をめいいっぱい楽しむには、最初から最後までテレビの前から離れずに鑑賞するのがベスト。バラエティ演出が最小限なこともあり、もはやテレビ番組というより、映画館で映画を鑑賞する感覚に近い。これが発声可能上映だったら「うしろに千秋いるよ!」とか叫んでいると思う。
ディフェンスの番組とオフェンスの番組
過剰なテロップやCM前の煽りなどのバラエティ演出は、視聴者にチャンネルを変えさせないために行われている。これを排除するなら視聴率への影響を覚悟しなくてはならない。『芸人キャノンボール 2016 Summer』の視聴率は5.9%(関東地区)。ゴールデンタイムかつ強力な裏番組がなかったことを考えれば、決して高い数字とは言えない。
ただ、TBSはこの番組を視聴率だけで評価はしていない。番組の演出兼プロデューサーの藤井健太郎氏は著書『悪意とこだわりの演出術』の中で、『芸人キャノンボール 2016』のことを「ここで攻めているのは僕ではなく、元日のゴールデンタイムにこの番組を流す編成をしたTBSだと思います」と振り返っている。
《企画が決まってからも「ここは視聴率が多少悪くても、内容でちゃんと面白いモノを出すことが大事だから」「元日の目立つ場所で格好の悪い番組は出したくないからな」と、編成の企画統括から何度も言われました。プレッシャーがある反面、とても意義に感じました。》
《最近のTBSは、確実なモノを作ってきっちり視聴率を守るディフェンスの番組と、内容重視してイメージをあげたり新規の視聴者を獲得するオフェンスの番組を上手に分けて考えているんだと思います。そして、都合よく解釈すれば、ありがたいことに僕は今、オフェンスを任せてもらっているんだと思います。》
元日の『芸人キャノンボール』も視聴率は5%台だった。それでも夏に続編を製作したのは「内容でちゃんと面白いモノ」を出せた証左だろう。
視聴率は大事だが、視聴率だけが全てではない。テレビが抱えるジレンマに「とにかく面白いものを作る」という正攻法をぶつけた『芸人キャノンボール』。10月からは同じく藤井健太郎Pの『クイズ☆スター名鑑』が始まる。TBSのオフェンスはまだまだ続く。
(井上マサキ)