凶悪な犯罪者三人衆への違和感「ファイアパンチ」18話

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Web無料漫画配信サービスジャンプ+にて「ファイアパンチ」第18話が配信されている。トガタが行っていたアグニを倒すラスボスオーディションは、あっさり三名合格。


世界観が微妙に違う奴らが登場


アグニの敵役となる悪人を捜し求めてベヘムドルグの地下に訪れたトガタ。そこにいたのは、凶悪な祝福を持つ三人の犯罪者達だった。

ダイダ。筋力が高くなる祝福を持つ。能力の通り筋骨隆々でスキンヘッドにアゴヒゲを蓄えている。右目には刃物で切られた傷がある。奴隷ではない女を数人犯し、兵士を34人殺している。

カルー。風を操り飛ぶ能力を持つ。金髪のモヒカンで、口の右側が裂けた後がある。快楽の為に施設の子供17人の顔を削いだ経歴を持つ。

フガイタイ。司会に映る鉄を操る能力。ベヘムドルグを制圧しようと、数百人の兵士を殺害。顔は黒いマスクで覆われている。

この三人は見た目も経歴もザ・凶悪な犯罪者だ。地下に幽閉されているのが良く似合う。トガタは会った瞬間、アグニを倒す悪役として三人の採用を決定した。

しかし、どうもしっくりこない。なんというか作風に合っていないのだ。今までファイアパンチに登場してきた悪者、例えばジャックは、凶悪という言葉があまり似合わない。この三人と同じぐらい悪い奴なのだが、それ以上に不気味な奴なのだ。悪さよりも、不気味な奴という印象が先にくる。

この三人を活かすも殺すも、トガタ監督のプロデュース能力次第


この凶悪な犯罪者三人衆はわかりやすい。1コマしか登場していないのになんとなく背景が想像ついてしまう。

例えば、ダイダは捕まる前までは大酒豪。常に酔っ払っていそうだ。声も人一倍でかいだろう。カルーは自分の趣味にこだわりが強く、意見の合わない人間をとことん嫌う傾向がありそうだ。過去にイジメを受けた経験も持っている気がする。フガイタイはマスクで顔がわからないが、なんらかの哲学を持っているように見える。人を数百人も殺しているクセに、自殺しようとしている人を見たら「命は何よりも尊い」とか言って止めそうな雰囲気がある。

しかし、ジャックは違う。一見何も悪いことをしなそうに見える。ほんの一時間やそこら喋っただけでは良い人という印象しか人に与えない。趣味もチェスとか、乗馬とか上品なものを好みそうで、異性にモテそうですらある。なのに本性は獣姦好きのド変態。しかも、フェミニストのような口ぶりで、女性は犯されても仕方ないと言い放つ、とんでもなく偏った男尊女卑思考の持ち主だ。

つまり、違和感の正体は悪の質だ。この凶悪な犯罪者三人衆は、符号的な意味で凶悪なだけ。わかりやすく、凶悪ですよ〜、やばい奴らが出てきましたよ〜、という意味でしかない。もし、符号的な凶悪から抜け出す可能性があるとすれば、三人目のフガイタイだろうか。何せマスクで顔は見えないし、名前もなんとなく個性がある。

トガタ監督はこの三人に旧世代に使われていたパワードスーツなるものを着せ、グレードアップさせるという。さらに、一人をドマということにしてアグニと戦わせるつもりなのだとか。トガタ監督プロデュースにより、このベタベタ凶悪な犯罪者三人衆は、ファイアパンチ的な悪者になるのかもしれない。もしかしたら、残念な事に一瞬で殺されるただの引き立て役ということもありうる。

ついに、氷の女王の正体が…!


長くなったが、今話のメインはこの三人ではない。なんといっても“氷の魔女もベヘムドルグ王も実在せず、地球は氷河期に入っただけ”これが我々読者にとって一番衝撃的な情報だ。物語の前提を覆すこの新情報は、何気なくトガタの口から発せられたものだった。

氷の女王という架空の敵と、ベヘムドルグ王という架空の神を作ることにより、民衆を統一する。ベヘムドルグの実質的トップに立つユダの苦肉の策だったのだ。そして、再生能力により300年生き続けるユダは、ベヘムドルグの民を守ろうと誰よりも苦しんでいたのだった。

物語の転換期として大きな意味を持つ第18話だったが、気になる続きは再来週の9月5日。来週の8月29日は藤本タツキ先生の特別読み切り「恋は盲目」が配信予定だ。
(沢野奈津夫)