描かれざる常子の本音を妄想してみた「とと姉ちゃん」119話

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連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第20週「常子、商品テストを始める」第120話 8月20日(土)放送より。 
脚本:西田征史 演出:藤並英樹 堀内裕介


>勝手に妄想ノベライズ「とと姉ちゃん」120話、常子、星野家で豆をまく


・この文章はあくまで描かれてない部分を想像してみたものであり、実際のドラマと若干違うところがあります。ご了承ください。
 
苦労に苦労を重ねて、歯ブラシの商品比較とキッチン研究の2大特集を組んだ「あなたの暮し」36号は発売早々、売り切れになるほど高い評判を得た。見本用として別にしてあった分まで書店に出さなくてはいけなくなりそうなところを常子は死守し、キッチン取材に協力してくれた方々に直接届けに向かった。

これまでもエライ作家先生方には常子が直々挨拶に伺うこともあったが、たいていは郵送で済ませている。でも今回は自分の手で届けたかった。それはもしかしたら、星野に会う口実がほしかったのかもしれない。
終日、見本誌を届けてまわった最後、星野の家を訪ねた。お勤めから帰って夕飯が終わったであろう頃を見計らって行くと、紙製の鬼のお面をかぶった星野が玄関に現れた。

そうか、今日は節分だ。かかが、いわしの頭を飾っていたっけ。
星野に誘われて、青葉と大樹と一緒に豆まきをした。こんなににぎやかな節分は久しぶりだ。成人した女性ばかりの常子の家では、例年、気持ちだけ豆をまき、あとは年の数だけ豆を食べることに専念した。30歳を超えた頃からは増えた豆を食べることすら重労働だ。

そんなことを思っていると、青葉が「もうやめよう。お父さんが可哀想」と言い出した。これまでずっと豆をぶつけることを楽しんできたけれど、感受性が強くなる時期なのだろう。
人は成長し、変っていく。15年ぶりに再会した星野は見た目も人柄も全然変わってない。では、星野から見て、私はどうだろう。老けたなと思われてはいやしないか。仕事柄、おしゃれには気をつかっているつもりだけれど、肌だって髪だって15年前とは全然違う。再会した嬉しさと同時に、年月の長さが気にかかってならなかった。

なにしろ青葉には「おしゃれおばちゃん」と呼ばれている。なつかれるのは嬉しいがちょっと複雑だ。青葉に服を見てほしいと言われたが、そろそろ帰らないと、と家にひとりでいるかかの顔を多い浮かべた時、突然部屋が真っ暗になった。電気が切れたのだ。最近は電球も粗悪品が増えていて困ったものである。だからこそ「あなたの暮し」の商品比較は意義があると常子は改めて自分の仕事に自信をもった。

星野が買い置きの電球に替えている間に、後ろ髪引かれながら星野の家を出た。不思議と星野の家は落ち着いていつまでもいたくなる。でも、常子の家はかかが待つあの家だ。戦争を生き抜いたあの家だ。丁寧に修繕しながら住んでいるが傷みも激しくなってきているし、美子がお嫁に行ったら、かかとふたりでのんびり暮らす家を建てたいとも思っている。家を建てることが、常子が「とと」になった時からの目標のひとつだから。

家のまあるいちゃぶ台の真ん中に、枡に入った豆が置いてあって、その前にかかが座っている姿が頭に浮かんできた。早くかかに「あなたの暮し」最新号を見せなくては。常子は豆が落ちた夜の道を小走りした。

なぜ、長台詞を言うのか


せっかく好評の商品研究に莫大な経費がかかることが判明し、今後どうしようかと悩む「あなたの暮し」一同。だが、常子(高畑充希)はやり続けることを決断する。
時々、常子が長めの演説をするのは、近年のドラマでは長台詞が視聴者の心を打つという認識に基づいたものなのだろう。例:「最高の離婚」(13年)3話他、「リーガル・ハイ」(12年)9話など。
(木俣冬)