小越勇輝「2.5次元の可能性を広げたくて」――舞台『東京喰種トーキョーグール』を振り返る
累計発行部数1800万部を突破し、TVアニメ化もされた人気マンガが原作の舞台『東京喰種トーキョーグール』。現代の東京を舞台に、平凡な大学生であった金木(カネキ)が、事故をきっかけに人の姿をしながらも人間の肉を喰らうことで生活する喰種(グール)と呼ばれる種族となってしまった自分の存在に疑問と葛藤を抱きつつ、あるべき世界のあり方を模索する物語だ。上演から1年が経った今、金木を演じた小越勇輝は何を思うのか。じっくりと話を聞いた。

撮影/アライテツヤ ヘアメイク/工藤有莉
取材・文/野口理香子

カネキと一緒にもがき苦しんだ日々


 
――舞台『東京喰種トーキョーグール』が上演されたのは、2015年7月。あれから約1年が経つんですね。DVDは観ましたか?

観ました。苦しかったなーって、当時のことをいろいろ思い出しました…(笑)。あと、役者の芝居はもちろん、作品の世界観を表現したプロジェクションマッピングが、見応えがあるなぁと。

―― 映像と舞台の“見事な”融合…とは、まさにこのこと。大迫力の演出ですよね。

舞台が決まったとき、赫子(かぐね)とかどう表現するんだろう?って思っていたんですが、お客さんにこういうふうに見えていたんだなとわかって、改めて感動しました。

――小越さんが演じたのは、主人公の金木 研。人間であるか喰種(グール)であるかの葛藤や、自分の中の狂気に向い合ったりするシーンでは、舞台の端から端まで使って、喉が潰れるのでは…と思うくらい叫び声をあげてましたよね…。声は大丈夫でした…?

声は大丈夫でした。そこは全然、問題なかったんですけど…。

――どういうシーンを演じるときに、苦しいなぁ、大変だなぁと感じました?

やはり食べものの嘔吐を繰り返すシーンですね。役の影響で食事ができなかったし、吐き気も止まらなかったですし…。辛かったです。

――そうですよね……。でも芝居で体力を消耗するから、カロリーも摂取しないと……

ひとりだとぐったりして食事する気にならないのもあって、(宮崎)秋人が外に連れ出してくれました。舞台本番中も、昼公演と夜公演があるときは、間の休憩で外に出て息抜きをしたりとか。すごくサポートしてくれましたね。

――そうだったんですね。

あと、嘔吐するシーンと同じくらい大変だったのは、最後の芳村さんとのシーン。僕はヒデ(永近英良)を食べようとした、このままでは人間でも喰種でもないと告白し、自分はどうしたらいいんだと葛藤するシーンなんですけど、演出の茅野(イサム)さんに何回も「違う」と言われて、もうわけわかんない、どうしたらいいんだって……本番ギリギリまで考えました。



お客さんの反応が僕の“救い”だった



――演出の茅野さんに「違う」と言われても、どこが違うのかわからないという…?

(茅野さんの)言いたいことはわかるんですよ、すごく。わかるんですけど、それが形にならなかったり、何回も繰り返しやっていると、よくわからなくなってきちゃったりして……。うまく説明できないんですけど…、芳村さんに言葉をかけながらも、助けを求めすぎないというか。そういう掛け合いのバランスがすごく難しかったですね。

――もがき続けながら公演を迎えられたわけですよね。それで初日、お客さんから拍手をもらって…

すごくありがたかったです。お客さんの反応が僕の救いで、お客さんの拍手が僕のパワーになっていました、ホントに。

――「救い」という言葉が出てくるくらい、公演中は苦しかったんですね…。

公演中は喰種の世界にどっぷりハマっていたので…。お客さんもずっと息を呑んで観ていたと思うし、僕らもそうでした。

――気力、体力ともにすり減りますよね。

そうですね。ゲネプロで(最初から最後まで)実際に通したときに、気力と体力をめちゃくちゃ使ってるんだなって実感しました。一幕を終えたあとに、「はあぁぁ」と舞台袖に座り込んでしまうくらい。心がやられていくというか、僕自身がカネキになっているんですよね。でも、そういう苦労やいろんな気持ちがあったからこそ、本番に入ってお客さんの反応にぐっと来ました。

――稽古中にそれだけ試行錯誤しながら芝居と向き合っていて、公演で「これだ!!」っていうものを見つけられたんですか?

うーん…。毎回違っていたのかなと思いますね。たとえば、事故が起きてからカネキは狂ってしまうわけですけど、ただ狂っているんじゃなくて、狂ってはいるけどそこまでいかずに、とか。

――狂気具合を公演ごとに変えていた…?

後半はどんどん引き算していきました。DVDに収録されているのは東京の千秋楽なんですけど、そのあとの京都公演でも変えていたので、比べてみたらけっこう違うと思います。

――そうやって変えていったのは、自分でやりながら気づいて、ですか?

はい。お客さんの前に立って気づくことがあるんですよね。

――お客さんの反応で?

反応ではないんですよね。何かでつぶやいているとか、拍手がどう、笑ったからどう、とかじゃなくて、空気感と言うのでしょうか…。この作品に限らず、舞台ではそういう“お客さんが教えてくれるもの”があるんです。




役者の幅を狭めたくない…2.5次元作品への挑戦



――テニミュ卒業後の初舞台となるロックオペラ『サイケデリック・ペイン』の演出も、茅野さんでしたよね。そこでも、かなり苦しんだとお話されていましたが…

茅野さんは芝居が大好きで、とても温かい方。愛情をもって妥協せずにぶつかってくださいます。「お前なら大丈夫だ」ってメールをくださったこともあって。だからこそ、その期待にうまく応えられない自分が悔しくて、歯がゆくて……。

――『サイケデリック・ペイン』の稽古では、茅野さんからどういう指導を?

長いことひとつの作品に取り組んでいたので、自分が気づかないうちにクセがついていると指摘されました。できないこともたくさんあったし……。でも、そうやってもがき苦しんでいるなかで、突き抜けた瞬間があったんですよ。

――突き抜けた瞬間…?

ある日、稽古場に朝早く行ったときに、茅野さんが自分の話をしてくださったんです。「大丈夫、そのままやっていけばいつか突き抜けるときがくる。“楽しい!”“芝居が普通にできる!”ってときがくる」って。その話をしてくださった、その日に抜けられたんですよ。

――「抜ける」ってどういう感覚なんですか?

何て言えばいいんでしょうね(笑)。自分の中にあったもやもやしたものが、一気に晴れた感じ……。とはいえ、まだまだだなと感じるところもいっぱいあるので、また指導していただいて……。ホントに一歩一歩、進んでる感じですね。

――舞台『東京喰種トーキョーグール』の稽古では、茅野さんとどういうお話を?

2.5次元と呼ばれるような作品だけど、どう演劇として見せられるか、というところを、演出家含め、スタッフ、キャスト、カンパニー全体で考えながら、毎日稽古に臨んでいました。2.5次元作品はある意味確立していると言えるし、周りの人から「2.5次元舞台ってこういう芝居でしょ?」と、一歩引いた見方をされることがすごく多いんですね。

――なるほど。キャラクターものですしね…。

そうなんです。原作があって、キャラクターがいるから、そのキャラクターに寄っていっちゃたり、そのキャラクターはこういうことをしないって、決め付けてしまったり。そうすると、役者としての幅は狭まってしまう。キャラクターはキャラクターとしてありつつも、自分はどういうふうにやっていきたいのか、ということを大事にしようと。