「4月からの家庭用電力小売り自由化。各社CMを見ていると料金『おトク』競争ばかりが目につきますが、とんでもない。落とし穴がいっぱいです」

そう語るのは、日本で初めて自宅をオフグリッド(電力会社の送電網とつながっていない)化したことで知られる著述家の田中優さん(横浜市立大学非常勤講師)。一方、電力業界の内部事情にくわしい巻口守男さん(電力料金比較サイト「エネチェンジ」副社長)も次のように話す。

「電力が独占販売だったのは人命に関わるライフラインだから。自由化で公共性より収益が優先されることが心配」

そこで、電力事業にくわしい2人の専門家が指摘する自由化の不安点を紹介していこう。

【1】政府許可でなくなるため、値上げも簡単にできる
「たとえばオイルショックなどの非常時も、これまでなら生活弱者を考慮して政府が急激な値上げは抑えてきたが、これからはちがう。原価が上がっただけ料金転嫁が可能。突然、料金が倍になっても誰も止められない。それが自由化の恐ろしい一面なんです」(田中さん)

【2】引っ越した先で配電盤のスイッチを入れただけでは電気がこなくなる
「いまは全国どこでも軒先まで電気がきていますから、新居の配電盤のスイッチを入れればすぐに電気がついた。ところが自由化後は引っ越した先でまず電気会社を選び電話やネットで契約をして初めて通電開始。そもそもスマートメーター(新プランに切り替えるために交換が必要な電気メーター)には、個人が操作できるスイッチがありません。今までみたいに気楽に引っ越すと『電気がこない』とあわてる人が出てくる可能性が高い」(巻口さん)

【3】支払いが滞ると待ったなしで電気が止まる
「現在も支払いが滞ると、電気を止める15日前に電気会社から『止めますよ』と通知。5日前に地元の送変電事務所から再度通知して止めることになっています。ただ公共性が高いので運用はかなり緩やか。ケースバイケースで対応している。しかしこれからは公共性より収益。シビアにすぐ止まります」(巻口さん)

【4】安い電気を使える地域格差が拡大
「『電力広域的運営推進機関』がまとめた全国の電力購入先変更の申込数を見てみると、東京や関西が数万件に対して、東北、北陸、中国などはゼロ。競合して安い電力を売る企業の参入がほとんどないから変更したくてもできない。逆に東京などは年間1万円近く安くなることも。安く売るには人口が多い地域でないとむずかしいので、地域格差は今後もっと広がると思われます」(巻口さん)

【5】格安プランから高齢者が置き去り
「正直、ネットを使えない高齢者切り捨てです。本来なら、地域の公民館などで、契約できる各社のプランを公平に説明する場が必要。そうでないと情報が偏り、せっかく安いプランがあるのに知らずに高い電気代を払い続ける高齢者を救えません」(巻口さん)