浦沢直樹「YAWARA!」だれがよく投げられたのか。最高勝率ベスト10

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『そばに天才がいた方が、市井の人を徹底的に描けるんですよ、逆に。天才とのコントラストがあることで、彼らのドラマが成立するから』
漫画家・浦沢直樹さんのインタビューが掲載された単行本『描いて描いて描きまくる』。1986年にビッグコミックスピリッツで連載開始された『YAWARA!』について語っている一文である。


『YAWARA!』とは天才柔道少女・猪熊柔が数々のライバルを投げ飛ばしていく柔道漫画。柔さんとライバルたちの間にどれほどのコントラストがあるのか、各登場人物の戦績をTOP10形式で集計していく。


ルールは以下の通り。


単行本YAWARA! 全1巻から29巻に掲載された話が対象。
練習試合、公式戦の勝敗数を集計し、勝率で優劣を決める。
引き分けは負け扱い。不戦勝、無効試合などは対象外。
試合の様子が描写されていないものも対象外。
性別・階級は関係なし。
規定勝利数4勝。

ランキングは以下の通りになった。



第10位 大垣 典子


強豪・筑紫大学のツンツン頭。三葉女子短大柔道部との練習試合では、ドキドキしすぎて柔道歴一か月の南田さんに出足払いをくらい、痛恨の一本負け。
紫陽花杯(団体戦)では先鋒として出場。初戦では戸坂女子大相手に4人抜きを達成(抑え込みで4人目に勝利したところが描写されている)。決勝の相手は再び三葉女子短大。ここでも4人抜きをしたのち、大将の柔さんに投げ飛ばされた。対柔戦は3戦3敗。『描いて描いて描きまくる』では大垣さんが柔さんに投げ飛ばされたシーンが見開きカラーで掲載されている。勝率55.5%で第10位。

第9位 クリスティン・アダムス


61kg以下級でカナダの選手。ジョディの隣によくいる人。バルセロナオリンピック初戦の相手は富士子さん。緊張でガチガチの富士子さんに出足払いでポイントリードし、ギリギリで優勢勝ち。決勝戦では得意技の袖釣り込み腰で一本勝ち。世界選手権に続いて金メダルを獲得した。
柔さんとテレシコワさんに一回ずつ負けている。強キャラなのは間違いないのだが、試合のシーンが少なく、だれ以上だれ以下の強さなのか分からないまま終わってしまった。4勝2敗の66.6%で第9位。

第7位 フルシチョワ


テレシコワと一緒に出てくるソ連代表。下の名前は不明で、小型テレシコワと呼ばれる。強キャラにはあっさり負けるが、雑魚キャラは派手に投げ飛ばして勝つ。敗北を喫した相手は柔さん、さやかさん、マルソーの3人。負けるときは『なにィ!?』って顔で負ける。7勝3敗勝率7割で第7位。

第7位 花園 薫


『努力をひけらかすようなマネはしたくない!!
『勝負は結果が問題スから!!』
富士子さんと愛し合うパイナップルカットの男。強くなるまで富士子さんには会わないと心に決めて滋悟郎さんのもとに弟子入り。正直杯に出場し、『アイ ラブ ユー!!』の掛け声で技を仕掛け、勝ち星を重ねていく。決勝で五輪選手候補の西海大・稲垣に惜敗。7勝3敗の勝率7割で第7位。

第6位 花園(伊東)富士子


元バレリーナで柔道歴4年。ママさん選手として出場したバルセロナオリンピックでは一回戦負け。しかし、クリスティンが準決勝まで勝ち上がったため、敗者復活戦が始まった。3位決定戦までオール一本勝ちで進出。
最後の相手は地元スペインの選手。場内の大声援に押されてリードを許し、得意技の白鳥の湖(大内刈り)、くるみ割り人形(内股)も読まれてしまう。しかし、残り時間3秒で相手が間合いに入ったのを見逃さず、白鳥の湖。逆転一本で銅メダルを獲得した。
オロオロしたまま試合に負けることも多いが、テレシコワさんや本阿弥さやかさんとも互角以上の戦いをした。28勝7敗1分けの77.8%で第6位。

5位 ジョディ・ロックウェル


柔さんと戦うことを夢見る72kg超級の天然パーマ。カナダの人。プライベートで来日し、猪熊家で行われた念願の初試合も故障で中断。世界大会で再び会いまみえることを約束して別れるも、そこからがすれ違いの始まり。ジョディが準決勝でテレシコワに敗北したり、柔さんが予選をサボったりとなかなか再戦できなかった。
柔さんとの対戦が実現したのはバルセロナオリンピック決勝。現在、開催中の浦沢直樹展(3月31日まで)にいくとカラーで描かれた試合の結末が飾られている。11勝3敗の78.6%で第5位。

第4位 マルソー


48kg以下級で一本背負いが得意なフランス代表。金髪で分厚い唇がキュート。バルセロナオリンピックの一回戦ではフルシチョワさんと対決。
『え!? あ…………フルシチョワが………………あのフルシチョワが…………!? えー!?』
試合開始1ページ以内で勝負をつけたので実況の人もビックリ。スロー再生された試合内容も2ページ以内のボリュームであった。一本背負いのあとには必ず両手を天に突きあげる癖がある。物語終盤にいきなり出てきたうえ、さっさと勝負をつけてしまうので試合シーンは少ない。負けた相手は柔さんだけ。4勝1敗の勝率8割で第4位。

第3位 アンナ・テレシコワ


旧ソ連の選手。言葉数が少ないスポーツ刈り。ソウルオリンピック決勝で敗れた相手、柔さんの打倒に燃える。バルセロナ代表選考会前に来日したときには、猪熊滋悟郎さんとおしるこを食べていた。
バルセロナオリンピック準決勝では柔さんに再び敗北。長い間世話になった監督とハグしているところに滋悟郎さんがやってくる。
『これから三位決定戦じゃ。銅メダル、しっかりとれい!! そんときゃ、おしるこだけではない、あんみつといううまいもんも食わしてやる!!』
『……………アンミツ……』
キューバのマルチネスを裏投げして勝利。銅メダルを獲得した。
『うむ!! 約束通りあんみつおごってやる!!』
11勝2敗で柔さん以外には無敗。勝率84.6%で第3位。

第2位 本阿弥さやか


どんなスポーツでもすぐにナンバーワンになってしまう本阿弥財閥の令嬢。柔道でもナンバーワンになるため、高校から柔道を始める。
初対戦ではわずか一コマで投げられて一本負け。2度目の試合では組み手を左手にスイッチする奇襲、3度目は寝技を徹底的に磨いて柔さん相手に善戦した。
『ハ…ハイヒャニマヒリマヒュ!』(「は…歯医者に参ります」の意)
思い切りよく投げられるので必ず差し歯が抜ける。そのたびに柔さんに差し歯を手渡される。柔さん以外にもキム・ヨンスクに敗北。31勝4敗1分。86.1%で第2位。

第1位 猪熊柔


本作の主人公。敗北したのは日本選手権をサボって不戦勝になったときのみ。思い人である新聞記者の松田さんが見ていないと全力を出し切れない。ソウルオリンピックでは松田さんが見に来るまで優勢勝ちするので精いっぱいだった。決勝戦、松田さんが遅刻してやってくるとフルシチョワさんをあっさり一本背負いして勝利。
日本代表の藤堂さんとの練習試合では(この人、弱い……!!)とびっくりするほどの実力。勝率10割で彼女が畳に上がれば対戦相手は必ず負ける。第1位。

勝率の推移・最終勝率をグラフ化した。




『「負けたことがある」というのがいつか大きな財産になる』
井上雄彦さんの『SLUM DUNK』に出てくる山王工業・堂本監督の言葉。
折れ線グラフで2-10位が折れる一方、柔さんは折れていない。新たな秘策をこしらえて柔さんとの再戦にのぞむさやかさんや、二度にわたるケガと敗北を乗り越えたジョディ。しかし柔さんは連勝の重圧もなくあっさり勝つ。そしてあっさり不戦敗もしている。不戦敗は財産にはならない。
(山川悠)