【連載】ミラン番記者の現地発・本田圭佑「ローマ戦のアシストでミハイロビッチ監督との関係に変化が?」
シニシャ・ミハイロビッチの守護天使は、彼に手を差し伸べたーー。天使の名はユライ・クツカ。1月9日のローマ戦、後半早々にこのスロバキア代表MFが決めたヘディングシュートによって、ミランは敗戦を免れた(試合レポートはこちら)。
この引き分けでミハイロビッチのクビが繋がったのだとしたら、本田圭佑にも感謝しなければならない。クツカがゴールを決めることができたのは、本田の左足から繰り出された絶妙なクロスのおかげなのだから。皮肉にもミハイロビッチを救ったゴールの立役者は2人とも、指揮官が完全なレギュラーとは考えていない選手だった。
このアシストは決して偶然ではなく、タイミングとポジショニング、すべてが計算し尽くされた素晴らしいものだった。本田はクツカがゴール前に上がるのを見ていて、カルロス・バッカから落としのパスを受けると、ダイレクトキックでドンピシャの場所にボールを届けるため、軽く身体の向きを変えていた。この判断を一瞬に下した本田のファインプレーだ。
この絶妙のパスのおかげでクツカは、マーカーに競り勝ってボールをゴールネットに叩き込むことができた。これ以上ない最高のアシストだ。このワンプレーがなければ、本田とミハイロビッチの関係はいまだ修復不可能のままだったろう。
しかし、ミハイロビッチと本田が“仲直り”をしたと言うのは早計だ。昨年10月から12月下旬にかけて、ミハイロビッチは本田をスタメンから外していたし、本田は本田でなぜそんな処遇を受けるのか分からないと一度ならず公に発言している。
それでも、“どうにか折り合いを付けている”というのが最もピッタリくる表現かも知れない。もしミハイロビッチが来シーズンも引き続きミラン監督の座に留まれば(今は考えられないことだが、可能性はゼロではない)、この重要なゴールを思い出すこともあるだろう。本田のアシストとともに。
まるで存在しないも同然のように扱われてきた10〜12月に比べれば、大きな前進だ。ミハイロビッチはきっと、心の奥でこう思っているに違いない。「本田がチームメイトの能力を引き出せるならば、他の選手と同じスタート地点に付かせることはできる」と。
年始のインタビューが話題になった後、本田はアドリアーノ・ガッリアーニ副会長と会い、「ミランにもうスター選手はいない」、「一人で試合を決めたり、監督を助けたりできる選手はいない」などとは発言していないと釈明している。さらに「自分はチームの一員で、真面目に努力していて、ほかの選手と同等の扱いをして欲しいだけだ」とも。この本田の言葉をガッリアーニは評価したし、おまけにローマ戦での完璧なアシスト。ポジティブな変化だ。
さて、ここでまたいつもの疑問が浮かんでくる。これからどうなるのか? 本田に関して言えば、一番の脅威は(これまで何度も繰り返してきたが)、ケビン=プリンス・ボアテングだ。シャルケとの関係が悪化し、昨年10月からミラネッロ(ミランの練習場)でトレーニングを積んでいたこのMFは、年始早々の1月4日に正式にミラン復帰を果たした。
ボアテングは攻撃的ポジションならどこでもこなすが、ある程度の自由を与えてこそ輝くタイプ。そのため当面はアタッカーで起用される可能性が高い。途中出場した先のローマ戦ではセカンドトップに入り、8か月も公式戦から遠ざかっているわりには好プレーを見せていた。
ただ、ミハイロビッチが今後、ボアテングを右サイドで試す可能性はあるだろう。いま本田が、新たに自分のものにしようとしているポジションだ。
とはいえ、数か月前まで最大のライバルだったアレッシオ・チェルチはもはや考える必要がない。一時期、ミハイロビッチは右サイドをチェルチに託していたが、少しずつパフォーマンスが低下し、素行の悪さも首脳陣の心象を悪くした。
先頃、ガッリアーニ副会長は「チェルチは(保有元の)アトレティコ・マドリーがレンタルを認めれば、すぐにでもジェノアに加わることになるだろう」と明言している。もはや退団必至だ。
つまるところ、本田を取り巻く状況は、数か月前と比べれば僅かながらも好転している。もちろん、問題がすべて解決したわけではない。
ローマ戦はアシストこそ見事だったが、90分間を通じたパフォーマンスは及第点がせいぜい。「もし今日のようなプレーを毎回見せられれば、即座にレギュラーだ」と言わしめたフロジノーネ戦(昨年12月20日)と比べれば、輝きは限定的だった。
前半はチームメイトと同じく落ち着きがなく、まともにパスすらも繋げなかったし、後半もアシストを除けば、効果的なプレーは限られていたのだ。
チェルチは去るが、ボアテングに加え、攻撃陣はこの1月にさらなる補強があるかもしれない。良くも悪くもサプライズに満ちているミランのメルカートは、誰にも予測不可能なのだ。
ローマ戦後のミハイロビッチは、嬉しそうだった。何しろこの引き分けで、ともかく今すぐの解任を回避できたからだ。それを助けてくれたのは誰か、そっと心の中で気が付き、恩に感じている可能性もあるが……。それはまだ誰にも分からない。
文:マルコ・パソット(ガゼッタ・デッロ・スポルト紙)
翻訳:利根川晶子
【著者プロフィール】
Marco PASOTTO(マルコ・パソット)/1972年2月20日、トリノ生まれ。95年から『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙で執筆活動を始める。2002年から8年間ウディネーゼを追い、10年より番記者としてミランに密着。ミランとともにある人生を送っている。
この引き分けでミハイロビッチのクビが繋がったのだとしたら、本田圭佑にも感謝しなければならない。クツカがゴールを決めることができたのは、本田の左足から繰り出された絶妙なクロスのおかげなのだから。皮肉にもミハイロビッチを救ったゴールの立役者は2人とも、指揮官が完全なレギュラーとは考えていない選手だった。
このアシストは決して偶然ではなく、タイミングとポジショニング、すべてが計算し尽くされた素晴らしいものだった。本田はクツカがゴール前に上がるのを見ていて、カルロス・バッカから落としのパスを受けると、ダイレクトキックでドンピシャの場所にボールを届けるため、軽く身体の向きを変えていた。この判断を一瞬に下した本田のファインプレーだ。
この絶妙のパスのおかげでクツカは、マーカーに競り勝ってボールをゴールネットに叩き込むことができた。これ以上ない最高のアシストだ。このワンプレーがなければ、本田とミハイロビッチの関係はいまだ修復不可能のままだったろう。
しかし、ミハイロビッチと本田が“仲直り”をしたと言うのは早計だ。昨年10月から12月下旬にかけて、ミハイロビッチは本田をスタメンから外していたし、本田は本田でなぜそんな処遇を受けるのか分からないと一度ならず公に発言している。
それでも、“どうにか折り合いを付けている”というのが最もピッタリくる表現かも知れない。もしミハイロビッチが来シーズンも引き続きミラン監督の座に留まれば(今は考えられないことだが、可能性はゼロではない)、この重要なゴールを思い出すこともあるだろう。本田のアシストとともに。
まるで存在しないも同然のように扱われてきた10〜12月に比べれば、大きな前進だ。ミハイロビッチはきっと、心の奥でこう思っているに違いない。「本田がチームメイトの能力を引き出せるならば、他の選手と同じスタート地点に付かせることはできる」と。
年始のインタビューが話題になった後、本田はアドリアーノ・ガッリアーニ副会長と会い、「ミランにもうスター選手はいない」、「一人で試合を決めたり、監督を助けたりできる選手はいない」などとは発言していないと釈明している。さらに「自分はチームの一員で、真面目に努力していて、ほかの選手と同等の扱いをして欲しいだけだ」とも。この本田の言葉をガッリアーニは評価したし、おまけにローマ戦での完璧なアシスト。ポジティブな変化だ。
さて、ここでまたいつもの疑問が浮かんでくる。これからどうなるのか? 本田に関して言えば、一番の脅威は(これまで何度も繰り返してきたが)、ケビン=プリンス・ボアテングだ。シャルケとの関係が悪化し、昨年10月からミラネッロ(ミランの練習場)でトレーニングを積んでいたこのMFは、年始早々の1月4日に正式にミラン復帰を果たした。
ボアテングは攻撃的ポジションならどこでもこなすが、ある程度の自由を与えてこそ輝くタイプ。そのため当面はアタッカーで起用される可能性が高い。途中出場した先のローマ戦ではセカンドトップに入り、8か月も公式戦から遠ざかっているわりには好プレーを見せていた。
ただ、ミハイロビッチが今後、ボアテングを右サイドで試す可能性はあるだろう。いま本田が、新たに自分のものにしようとしているポジションだ。
とはいえ、数か月前まで最大のライバルだったアレッシオ・チェルチはもはや考える必要がない。一時期、ミハイロビッチは右サイドをチェルチに託していたが、少しずつパフォーマンスが低下し、素行の悪さも首脳陣の心象を悪くした。
先頃、ガッリアーニ副会長は「チェルチは(保有元の)アトレティコ・マドリーがレンタルを認めれば、すぐにでもジェノアに加わることになるだろう」と明言している。もはや退団必至だ。
つまるところ、本田を取り巻く状況は、数か月前と比べれば僅かながらも好転している。もちろん、問題がすべて解決したわけではない。
ローマ戦はアシストこそ見事だったが、90分間を通じたパフォーマンスは及第点がせいぜい。「もし今日のようなプレーを毎回見せられれば、即座にレギュラーだ」と言わしめたフロジノーネ戦(昨年12月20日)と比べれば、輝きは限定的だった。
前半はチームメイトと同じく落ち着きがなく、まともにパスすらも繋げなかったし、後半もアシストを除けば、効果的なプレーは限られていたのだ。
チェルチは去るが、ボアテングに加え、攻撃陣はこの1月にさらなる補強があるかもしれない。良くも悪くもサプライズに満ちているミランのメルカートは、誰にも予測不可能なのだ。
ローマ戦後のミハイロビッチは、嬉しそうだった。何しろこの引き分けで、ともかく今すぐの解任を回避できたからだ。それを助けてくれたのは誰か、そっと心の中で気が付き、恩に感じている可能性もあるが……。それはまだ誰にも分からない。
文:マルコ・パソット(ガゼッタ・デッロ・スポルト紙)
翻訳:利根川晶子
【著者プロフィール】
Marco PASOTTO(マルコ・パソット)/1972年2月20日、トリノ生まれ。95年から『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙で執筆活動を始める。2002年から8年間ウディネーゼを追い、10年より番記者としてミランに密着。ミランとともにある人生を送っている。