ここ数年間で、「酒場」はずいぶん身近な存在になってきたと思う。吉田類、太田和彦といった酒場探究家が注目されるようになり、今までは入りづらいと敬遠されてきた大衆酒場が人気を集めたり、大手の飲食チェーンが積極的に居酒屋業態を取り入れたりと、居酒屋文化というものが日常の中でリーズナブルに楽しめるプチトリップといった役割にのし上がってきた感がある。

書店やコンビニで「居酒屋ガイド本」を見かける機会もグッと増えてきた中、「お酒」をテーマにした新たなムックが誕生するという。「酒場人」という雑誌がそれである。


この「酒場人」は、吉本ばなな、ラズウェル細木、U-zhaan、かせきさいだぁ、吉田戦車などなど、多方面から著名人がゲスト参加し、お酒や酒場との付き合い方について語っているのが特徴。ガイドブックとも、専門誌とも違った切り口になっている。この雑誌の監修をつとめるのは"パリッコ"さん。一風変わった名で活動するミュージシャン/ライターである。今回はそのパリッコさんに、このような雑誌が生まれた経緯やその見どころについて話を聞いた。

――パリッコさんのプロフィールというか、何者かを教えていただいてもいいですか?

「もともとはハウスなどのDJ、ミュージシャンとして活動していて、そこから派生的に、イラストや漫画など、その他の表現活動にも手を広げ、現在は酒好きが高じ、酒場に関する記事を各種媒体に書かせてもらっている、いわゆる『居酒屋ライター』としての活動も多くなっているという。つまりは、何でも屋です」

――さまざまな活動をしているなかでも居酒屋を飲み歩いてレポートするのが中心になっているそうですが、どれぐらいのペースで巡っているんですか?

「居酒屋マニアの方とか、もっと詳しい、毎日はしご酒で何件も回られるような方からすると、全然だと思います。あくまで自分のペースでというか。無理はしないというのが信条で。飲みに行くと何軒かハシゴしたりもするので、そう考えると、1日1軒くらいのペースになると思うんです。熱心に飲み始めて10数年だとして、何回も行ってるお気に入りの店もあるので、トータル3,000軒とか?」

――3,000と聞くと迫力がありますね……! さすがです。監修をつとめる「酒場人」の創刊については、どうしてそういうことになったんですか?

「強いていてば、アウトプットを続けてきた成果なのかもしれません。居酒屋を1,000軒紹介することを目標にブログ(「大衆酒場ベスト1000」)を更新したり、それを自費出版本にまとめたりしてきました。出版社の方が、僕のそういう活動を応援してくれていて『一緒に本を作りませんか?』と声をかけてくれた感じです」

――「酒場人」は、酒場のデータ集というよりは、お酒を楽しむ雰囲気自体をそのまま形にしたようなところがありますよね? けっこう珍しい雑誌だと思いました。

「そうですよね。よくこんな本出させてもらえたなって。当初は、もうちょっと、世にある酒場本の体だけは保ちつつ、その中で実は好き勝手なことをやっているという、そういう本にしましょう、という話だったんですが、わーってみんなで盛り上がりながら割と短期間で作っていったら、もうこんな感じになっていたというか」

――いろいろなジャンルから豪華なゲストが参加していますね

「今回登場してくださった著名人の方は、僕が以前お酒の場で同席させてもらったことがある方が多かったのですが、みなさん基本的にお忙しいですし、気軽にお仕事を頼むなんてめっそうもない関係性なんです。ただ、テーマが『お酒』だから、無茶なお願いとは自覚しつつも、ダメ元で頼めてしまったんですよね。そうしたら、みなさん驚くほどフランクに応じてくださって、ここにもお酒のパワーを感じたような気がしました。酒の神様が導いてくれたというような感じで。3,000軒めぐったご利益というか(笑)」

――吉本ばななさんとか、お酒のイメージがなかったんでお名前をみて驚きました!しかもタブラ奏者のU-zhaanさんとお酒について対談をされているという、不思議に思える取り合わせで。

「本当ですよね!それこそ僕もびっくりした出会いでした。U-zhaanさんとは、たまに飲みに行かせてもらってたんですが、ある時、『今日吉本ばななさんにも声かけてみたよ。あとで来るかも?』とか言われて、『は?』って感じでとりあえずスルーしてたんですが(笑)本当にいらっしゃったんです。まさか一緒に飲める日が来るなんて思ってもみなかったんですが、そのご縁で今回参加していただきました」


――酒の縁ってすごい!人が人を呼ぶという感じですね。また、みなさんそれぞれ個性的な「酒観」をお持ちですよね。漫画家の清野とおるさんとの町歩きも、ハプニング続出で面白かったです。

「清野さんと歩いていると、普通に生きててこんなことある?っていうようなことがやたら起きるんですよ、清野さんがわざわざ僕の地元に来てくれて飲んだ時も、そんな人、今まで見たことないのに、隣で飲んでるおじさんが失禁したりしてたし(笑)清野さんが描いている『赤羽』という土地もやばいけど、清野さん本人も同じぐらいやばいんですよね。清野さんの場合、酒はアクセントという感じですよね。あの店のあれを食べたい!酔いたい!とかじゃなくて。それもまた、酒の楽しみ方なのかなって」

――裏話や印象的だったエピソードはありますか?

「吉本ばななさんとU-zhaanさんと鼎談させてもらった会場が、ばななさんの実家を改装して営業されている紹介制の料理店『猫屋台』で、部屋には仏壇があって、畳敷きの和室で、本当に"親戚の家"って雰囲気なんです。
お店を営業しているのは、ばななさんのお姉さんであり、漫画家のハルノ宵子先生。取材が終わってからはそこにばななさんの旦那様や息子さんも加わって宴会が続き、本当に楽しくて、夢のような時間でした。また、出てくる料理がどれも本当に美味しくて……」

――うわー、ウットリって感じですね!贅沢なひとときです。

「それから、かせきさいだぁさんの酒場インタビューは、かせきさんの同級生がやられている神楽坂のお店をお借りして行ったんですが、取材も終わってお酒を飲みながらさらにいろいろ話を聞かせてもらっていたら、別の日に取材させていただいた坂崎重盛さんがふらりと入ってこられて。もともと坂崎さんも好きなお店のひとつらしいんですが、すごい偶然ですよね。そこでもまた『酒の神は確実にいる!』みたいな、運命的なものを勝手に感じてしまったりしました」

――お酒が取り持つ縁の面白さを感じますね!そしてその縁がこの雑誌を作ったわけですね。最後に、「酒場人」に興味を持たれた方に向けてメッセージをお願いいたします!

「酒飲みの見本になるような方々ばかりが参加してくれたので、お酒を楽しむ上でヒントにしてもらえればと!コラムもいろいろな切り口でお酒について書いていて、執筆陣も豪華ですし、横浜の野毛や鎌倉の居酒屋も特集していますので、そちらもぜひ役立てていただけたらと思います!」

パリッコさんが監修をつとめる「酒場人」は、ただ単に美味しい居酒屋を紹介するだけでなく、「お酒」を軸にした新たなカルチャー誌ともいえるような内容になっている。全国のコンビニエンスストアを中心に、12/8より発売されるそうなのでぜひ手にとってみていただきたい。

■書籍概要
書籍名: 酒場人 vol.1
発売日: 2015年12月8日
価格 : 880円+税
発行元: 株式会社オークラ出版
URL  : http://oakla.com/?p=6341

(スズキナオ)