『モンプチ 嫁はフランス人』全1巻 じゃんぽ〜る西(著)/祥伝社フィールコミックス 880円+税

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フランスといえばワインにファッション、そしてアムール(愛)。外に目を向ければ誰かが抱き合ったりキスをしたりしているイメージだ。恋愛に開放的でいつも愛をささやき合う……。
そんなフランス人と結婚したら、ラブラブ円満家庭を持てるのかしら? と夢に見たことはないだろうか。

祥伝社より発売されている『モンプチ 嫁はフランス人』では、フランス人ジャーナリストの女性と結婚した日本人の著者が日仏の文化の違いに直面し、戸惑いながらも、結婚生活、子育てに奮闘する様子がコミカルに描かれている。
著者のじゃんぽ〜る西さんは、フランスのBD(バンド・デシネ)という漫画に憧れ、BDを学ぶべく、渡仏された経験を持ち、パリの日本食品店でのバイト風景や、友人との交流、地下鉄での盗難・スリ被害など、パリでの日常を描いたコミックを出版している。

以前はフランスに慣れない様子を本にしていた


西さんの著書『パリ愛してるぜ〜(飛鳥新社)』では、フランスのビズ(キスでの挨拶:大抵の場合は相手に口をつけずに「チュッ」と音を出すだけ)に慣れない様子が描かれていた。
フランス人の友人から「音の出し方が良くない」と指摘され、しばらくは自分からは音を出さずに済ませていた西さん。
そんな西さんがフランス人の女性と結婚するとは……。

奥さんの愛の言葉がすごすぎる


『モンプチ〜』で描かれている中で一番印象的だったのは、奥さんであるカレンさんの、西さんに対する愛情表現だ。
「テュエジニアル(すごい)」「テュエボー(かっこいい)」「テュエロムドュマヴィ(あなたは私の人生の男)」といった言葉を、「日常で繰り返される妻の愛の言葉 称賛の言葉は過剰だった」と西さんは述懐している。
それに対して、自分は「同じだけ返せない」とプレッシャーに感じてしまい、それをカレンさんに伝えたところ、こう言われたのだ。
「返して欲しくて言っているのではないのです/私が言いたいから言っているのです」と。

アムール大放出である。
こんな風にパートナーから日々褒められ、愛を伝えられたら毎日嬉しいだろう。やっぱりフランス人は素敵だ。

子育てで感じる日本とフランスの違い


本書の出版の経緯について、担当編集者の方に伺ってみた。
「『男目線のパリ』シリーズが非常に面白かったので、雑誌での連載を依頼しました。ちょうどお子さんが生まれた時期でしたので『子育て』を軸にして、フランス人の妻と日本人の夫が体験するであろう『育った文化の違い』にも触れて欲しいとお願いしました」

まだまだ小さいお子さんを連れて、家族3人で飛行機でフランスへ行った時のこと、全日空の赤ちゃんへのサービスはきめ細やかで感激されたそうだが、逆にパリのカフェでは「ベビーカーは邪魔」とカフェのスタッフから邪険な扱いを受けてしまう。
たまたまカフェのスタッフの虫の居所が悪かったのだと信じたいが、日本とフランスでの子供に対する意識の違いがあるのかもしれない。

また、日本とフランスの意識の違いは「耳」にも表れる。
西さんがお子さんの耳をパタリとたたんで「ギョーザ」と笑っていた時、カレンさんが「立ち耳」になることを気にして止めに入る。フランスでは立ち耳は美観を損ねるものだそうで、矯正手術もあるという。立ち耳なんて気にしたこともなかった。
こうやって日本とフランス、双方の国の意識や文化を取り入れながらお子さんは育っていくのだろう。

子どもはフランス人っぽい? 日本人っぽい?


日々、お子さんの成長を間近でご覧になって「フランス人っぽい」と思ったり、逆に「日本人っぽい」と思うことはあるか、著者の西さんに伺ってみた。
「基本的に息子はまだ2歳なので言葉を覚えたり時間の概念を理解し始めたりと、人間になっている途中という感じで『○○人っぽい』という以前の段階だと思います。でも、確かに日本とフランスの両方の文化の影響を受けながら育っていると思うことはあります。例えば、フランスのキスの挨拶『ビズ』を母親が父親にしている姿を日常的に見ているので、それが当たり前だと思っているようです。好きな相手にはキスをしようとしてます。先日は大相撲の中継をテレビで見ていて、白鵬関が映っている液晶画面に『ちゅー』していました」
「日本の子どもっぽいと思うのは電車が大好きになって、駅に連れて行くと電車を見たり乗ったりアナウンスを聞くことを楽しんでいるところ。アナウンス内容もよく覚えて『次の電車をご利用ください』『黄色い線の内側へお下がりください』と敬語も上手に真似しています。新幹線は特に好きで、Tシャツ、コップ、スプーンなどの新幹線グッズがお気に入りです。これは保育園のクラスメイトの他の男の子たちと全く同じです。食べ物は豆腐、納豆、味噌汁が大好きで、同時にチーズやパン、キッシュもよく食べます。そういうところは面白いですね」

本書は育児書としても楽しめるほか、カレンさんとの渡仏時の出来事や子供の名付けなど、フランスについても知れる。興味深い内容が盛りだくさんなのだ。

前述の担当編集者の方へ本書のおすすめポイントをまとめてもらった。
「2つあります。ひとつは父として子どもを育てることの楽しさと面白さ。人生最高ともいえる幸せな時間をこの作品で疑似体験してほしいです。仕事はいつでもできますが、子育ては今しかできない」
「もうひとつは日仏文化の違いです。フランスといえば『恋愛先進国』というイメージですが、その恋愛を生む基には日本と違う『人と人の距離感』があるようです。その日仏の人間関係の違いを感じてもらえたら。いろいろ考えるきっかけにもなると思います」

また、カレンさんも『フランス人ママ記者、東京で子育てする(大和書房)』を出版している。日本とフランスでの産婦人科での対応の違いや、日本のマタニティマークなど、双方の国での妊娠・出産・育児について書かれており、とても興味深い内容だった。

日本人の旦那さんとフランス人の奥さん、両方の本からそれぞれの視点を楽しんでみるのも面白いかもしれない。
(薄井恭子/boox)