歩く、歩く。ひたすら歩く。

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街中を巡る廃品回収車、引っ越しの時に存分に活用させていただきました。だけど呼び止めるのは、意外に大変なんですよ……。車に気付き、すぐ玄関から飛び出し、駆け足で追いかけて、カクカクシカジカを説明。あんな徐行して走ってくれてるにもかかわらず、予想以上のハァハァでした。
そういや昔は、車ではなくリヤカーの移動販売が多かったように記憶してるけど、最近めっきり見ないなぁ……。

と思いきや、今こんな人が話題になっているそうです。「立志出版社」代表取締役である田中克成氏は、なんと「全国をリヤカーで行脚」という方法で本を手売りし続けているのです。

【どんな本を手売りしているの?】


なぜ、リヤカーなのか……を説明する前に、まずはどんな本を売り歩いているか紹介しましょう。
「私は出版という道を諦めかけていました。そんな時、飲食店を経営する実業家・高取宗茂氏の言葉で奮い立つことができたんです。その後、彼のサイトで連載されていたコラムを読むと、言葉は厳しいものの行間から“全力の応援”が感じられました。自分が作りたかった“辛い人を救える本”は、この人の文章を残してこそ果たせるのではないか?と思い立ったんです」(田中氏)
というわけで「3年で100万部売ります!」と高取氏を口説き落とし、本を執筆してくれるよう説得。『道に迷う若者へ』という一冊が出来上がります。

【リヤカーで売り歩くと決めた理由】


その後の田中氏は、この本を世に出すためだけに2013年、「立志出版社」を立ち上げました。しかし、見たことも聞いたこともない新興出版社が出す本を取り次いでくれる問屋は、現れずじまい……。
「そこで、ある企業の社長さんに相談に行ったんです。すると、怒られました。『そんな情けないことで相談してくるな! 流通なんて、戦後に誰かが一から作った仕組みだろ? ならお前もそんな仕組みに頼らず、一から売りさばいてみろ。リヤカーだって何だってあるんだから、引っ張って売ってみろよ!』と」(田中氏)

激を受けた田中氏、反射的に「リヤカーを引っ張り本を売り歩く自分」の姿が頭に浮かんでしまった。そして、「リヤカーで売ります!」と宣言してしまう。
「そう言うと、『リヤカーで売れるわけねえだろ!』と止められたんですけどね(苦笑)」(田中氏)
しかし、もう止まらない。田中氏の決意は、すでにリヤカー一択となってしまったのだから。

【“売らない”姿勢で売れるわけ】


では、その売り方について。リヤカーで引っ張りつつ、道行く人に声をかけていくのでしょうか?
「いえ。基本は“売らない”という姿勢を貫きます」(田中氏)

はて? それは一体、どういうことなのか……。
「東京からスタートした行脚ですが、名古屋にたどり着くまでは道行く人に声を掛けたり、駅前で演説したり露店を開いたり、色々やりました。でも結局、9冊しか売れなかったんです」(田中氏)
そんな苦しい時期に保険セールスで世界トップの成績を誇る人と出会い、あるアドバイスをもらいます。
「『100万部を目指しているなら、縁のある人に本を売ろうとするな。自分の体験談を話せば、志に感銘を受けて買ってくれるから』と言っていただいたんです。ぶっちゃけ、奇麗事だと思いました。でも手段はやり尽くしてたので、アドバイスを実践してみたんです」(田中氏)

結果、今までは30秒と続かなかった会話が40分以上続くようになりました。知り合った人の悩みを聞いたり、体験談を用いてアドバイスしたり……。
「後日、相談に乗った人の口コミが広まり、『本を買いたい』という連絡があったんです」(田中氏)
それだけではない。「書店を紹介したい」「講演をお願いしたい」という声までが、田中さんに寄せられたという。
「結局、“売手と買手”ではなく“人と人”なんですよね」(田中氏)

それにしても、ハード。リヤカーには300冊の本を積んでおり、その重量は100kgにまで達します。市街地から市街地までは徒歩で5日を要することもあり、行脚の3分の2はテントを引いて野宿しているそう。売り切ったら、宿泊するホテルへ新たな300冊を郵送で送ってもらう……の繰り返しで、今までに約1万部を売り切っていると言います。
「現在は販路を確保し書店でも販売していますが、販売数の内の約99%は1対1のご縁から広がった“手売り”という形でご購入いただいています」(田中氏)

西日本はほぼ制覇し、現在は32県目である富山にたどり着いた田中氏。頑張ってるなぁ……。でも、目標である100万部までには残り99万部を残す状況。しかも、タイムリミットはあと1年。「3年で100万部売る!」と宣言していたけども……。
「期限は2016年5月25日に設定しているので、これからは東京という地場を最大限に利用しようと考えています」(田中氏)
東京で築いた人脈やイベントを活用しての販売を考えているようだが、それでも都内に戻るのは月1回。それ以外はリヤカーを引き続ける。2013年5月からスタートしたこの手売り活動、実は今年の4月まで一度も東京に帰らないまま続けているそうなんです。
「100万部を約束していますからね」(田中氏)

約100kgの書籍、田中氏の志、そして作者との約束……。いくつもの荷物を乗せたリヤカーを引っ張り、今日も田中氏は歩き続けます。
(寺西ジャジューカ)