変えれば変われるわけじゃない/純丘曜彰 教授博士
/○○しさえすれば、と言うやつらは、しょせん商売。それに乗せられて変えてみたところで、もっと大変になるだけ。やっかいで、うまくいかない、気に入らない物事でも、それは君の世界の一部。それらを理解し、感謝し、協力し合わなければ、君の世界を良くはできない。/
市を潰し、都にしさえすれば、って、乗っかって騒いでいる連中を見ると、哀れだ。勝っても、負けても、その発想、その生き方が、永遠の負け組。政治家、アイドル、スポーツ選手。やつらは、自分たちの人気取りのために、みんなに嫌われている敵を定めて攻撃し、それに勝つための応援をよろしく! と、連呼する。それがやつらの商売だから。でも、シロウトの君がいくらやつらを応援しても、君は利用するだけ利用され、最後には捨てられる。
阿Qって、知っているか? 魯迅の短編小説の主人公。こいつがクズの中のクズで、「精神的勝利法」とか言って、ダメダメな状況でも、屁理屈で自分自身をごまかし、人を小馬鹿にして、それでよけい村人たちから呆れられている。それが、辛亥革命だ、って言うんで、ようやく自分の時代が来た、って、勝手に「革命家」を名乗り、村で好き勝手をやらかしまくるが、銃殺。
王様を処刑さえすれば、と始まったフランス革命は、大混乱の恐怖政治で、だれもかれも断頭台送りにした後、結局、ナポレオンを皇帝に戴き、その皇帝も島流しにして、また王政に復古。本人がどこまで本気だったのか、ユダヤ人を絶滅さえすれば、と熱弁を振るったヒトラーも、瞬く間に失業者のクズ連中が大量に周辺に集まってきて、本当に実行せざるをえなくなり、世界中を敵に回して、国民の多くを戦死させ、都市のほとんどすべてを壊滅させ、第一次大戦後の復興をすべてワヤにした。
ダメな連中は、自分がうまくいかないと、すぐ、制度が悪い、と言う。東大を無くしさえすれば、政権を取りさえすれば、憲法を変えさえすれば、天皇制を廃止さえすれば。個人でも、そう。転職さえすれば、離婚さえすれば、カネを借りられさえすれば。でも、君にそう吹き込む改革政治家も、左翼新聞社も、転職支援企業も、離婚弁護士も、悪徳サラ金も、しょせんそれはやつらの商売。頭の弱い連中が騙されて乗ってくれないと、仕事にならない。でも、現実は、改革したって、廃止したって、転職したって、離婚したって、カネを借りたって、それはそれでまた、もっと大変になるだけ。
もちろん、今の状況がダメなのは事実だろう。それで、連中は、抜本的改革、を売りものにする。けれども、連中に乗せられ、変えた状況も、どうせなにかが致命的にダメ。今の状況なら、どこがダメかわかっているだけ、対策も立てようがある。が、変えた状況では、何がダメなのか、まったく予想もつかず、信じられないほど恐ろしく手痛い思いをする。それで、後になって、前の状況に戻りたがるが、もう手遅れ。
物事がうまくいかないのは、もちろんやっかいな制度やモノ、相手のせいもあるだろうが、それ以上に、そういうやっかいな制度やモノ、相手を使いこなせない自分のせい。ギターも、買っただけで弾けるわけじゃない。自転車も、手に入れただけで乗りこなせるわけじゃない。ブログだって、ユーチューブだって、始めただけで人気者になれるわけじゃない。有名企業に就職したって、司法試験に合格したって、選挙で首長に当選したって、すぐになんでも好き勝手にできるようになるわけじゃない。
まともな人間は、うまくいかないと、うまくいかないところを見極め、鍛錬を重ね、次こそは、と再チャレンジする。そうやって少しずつ失敗を減らし、やっかいな物事でも、やがて自分の手足のように、うまく使いこなせるようになっていく。一方、ダメな連中は、ちょっとうまくいかないと、すぐ制度のせい、モノのせい、相手のせいにする。自分を省みること無く、暴言を吐きまくって放り出す。そうやって次から次へとなんでもケチをつけて、乗り換え続ける。結局、どれもうまくはいかない。人として大成しない。絶対に幸せにはなれない。阿Qのように自分自身に呪われた永遠の敗北者。
なにかを変えさえすれば、と言うやつらがいたら、それがやつらの商売で、君を乗せて自分たちの権益利得を増やそうとしているだけ、ということくらい気づけよ。他人の応援なんかするヒマがあったら、自分自身ががんばれよ。自分の手元にあるもののありがたさは、失ってみないとわからない。失ってしまってからでは、取り戻そうとしても、それは二度と君の手には入らない。問題は、制度やモノや相手じゃない。もともと世界は君一人でできているわけじゃない。やっかいな制度、うまくいかないモノ、気に入らない相手まで含めて、それが君の世界。君自身が変わって、心を入れ替え、君の手元にある物事のありがたさを理解し感謝し協力し合わなければ、君の世界を良くはできない。
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門 は哲学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』などがある。)
市を潰し、都にしさえすれば、って、乗っかって騒いでいる連中を見ると、哀れだ。勝っても、負けても、その発想、その生き方が、永遠の負け組。政治家、アイドル、スポーツ選手。やつらは、自分たちの人気取りのために、みんなに嫌われている敵を定めて攻撃し、それに勝つための応援をよろしく! と、連呼する。それがやつらの商売だから。でも、シロウトの君がいくらやつらを応援しても、君は利用するだけ利用され、最後には捨てられる。
王様を処刑さえすれば、と始まったフランス革命は、大混乱の恐怖政治で、だれもかれも断頭台送りにした後、結局、ナポレオンを皇帝に戴き、その皇帝も島流しにして、また王政に復古。本人がどこまで本気だったのか、ユダヤ人を絶滅さえすれば、と熱弁を振るったヒトラーも、瞬く間に失業者のクズ連中が大量に周辺に集まってきて、本当に実行せざるをえなくなり、世界中を敵に回して、国民の多くを戦死させ、都市のほとんどすべてを壊滅させ、第一次大戦後の復興をすべてワヤにした。
ダメな連中は、自分がうまくいかないと、すぐ、制度が悪い、と言う。東大を無くしさえすれば、政権を取りさえすれば、憲法を変えさえすれば、天皇制を廃止さえすれば。個人でも、そう。転職さえすれば、離婚さえすれば、カネを借りられさえすれば。でも、君にそう吹き込む改革政治家も、左翼新聞社も、転職支援企業も、離婚弁護士も、悪徳サラ金も、しょせんそれはやつらの商売。頭の弱い連中が騙されて乗ってくれないと、仕事にならない。でも、現実は、改革したって、廃止したって、転職したって、離婚したって、カネを借りたって、それはそれでまた、もっと大変になるだけ。
もちろん、今の状況がダメなのは事実だろう。それで、連中は、抜本的改革、を売りものにする。けれども、連中に乗せられ、変えた状況も、どうせなにかが致命的にダメ。今の状況なら、どこがダメかわかっているだけ、対策も立てようがある。が、変えた状況では、何がダメなのか、まったく予想もつかず、信じられないほど恐ろしく手痛い思いをする。それで、後になって、前の状況に戻りたがるが、もう手遅れ。
物事がうまくいかないのは、もちろんやっかいな制度やモノ、相手のせいもあるだろうが、それ以上に、そういうやっかいな制度やモノ、相手を使いこなせない自分のせい。ギターも、買っただけで弾けるわけじゃない。自転車も、手に入れただけで乗りこなせるわけじゃない。ブログだって、ユーチューブだって、始めただけで人気者になれるわけじゃない。有名企業に就職したって、司法試験に合格したって、選挙で首長に当選したって、すぐになんでも好き勝手にできるようになるわけじゃない。
まともな人間は、うまくいかないと、うまくいかないところを見極め、鍛錬を重ね、次こそは、と再チャレンジする。そうやって少しずつ失敗を減らし、やっかいな物事でも、やがて自分の手足のように、うまく使いこなせるようになっていく。一方、ダメな連中は、ちょっとうまくいかないと、すぐ制度のせい、モノのせい、相手のせいにする。自分を省みること無く、暴言を吐きまくって放り出す。そうやって次から次へとなんでもケチをつけて、乗り換え続ける。結局、どれもうまくはいかない。人として大成しない。絶対に幸せにはなれない。阿Qのように自分自身に呪われた永遠の敗北者。
なにかを変えさえすれば、と言うやつらがいたら、それがやつらの商売で、君を乗せて自分たちの権益利得を増やそうとしているだけ、ということくらい気づけよ。他人の応援なんかするヒマがあったら、自分自身ががんばれよ。自分の手元にあるもののありがたさは、失ってみないとわからない。失ってしまってからでは、取り戻そうとしても、それは二度と君の手には入らない。問題は、制度やモノや相手じゃない。もともと世界は君一人でできているわけじゃない。やっかいな制度、うまくいかないモノ、気に入らない相手まで含めて、それが君の世界。君自身が変わって、心を入れ替え、君の手元にある物事のありがたさを理解し感謝し協力し合わなければ、君の世界を良くはできない。
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門 は哲学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』などがある。)