恋愛は美男美女の特権?/純丘曜彰 教授博士
/昨今の恋愛はオークション。選ばれるのは一人だけ。入札に応募できるのは、ピラミッドの上の方だけ。それ以下に勝ち目は無い。でも、どのみち世界が違うなら、もともと関係も無いし、存在もしない。君にふさわしい相手は、君の世界のすぐ隣にいる。あとは、君が直接に会って話しかけてみようとするかだけ。/
デパートやショッピングモールのレストラン街、すごいねぇ。有名店は、ずらーっと人が並んでいる。前の方はイスもあるが、そこから隣の店を越えてトイレの方まで立っている。一時間待ちです、なんて言われても、まだまだ後に並んでいく。あれ、ほんとうにそんなにおいしい店なのか? そりゃ、一度、並んで入ってみないとわかるまいし、いくら人がいいと言っても、自分の口に合うかどうか。一日中ひまな人はいいけれど、君のように仕事の合間なのにそんなところに並んでいたら、昼休みが終わってしまって、何も口にしないまま夜まで仕事だよ。
情報化社会なのはけっこうだが、拡大しきった国境無き市場のおかげで、ピラミッドの上の方には、下の方からケタ違いの数のお客が駆け上ろうとするようになってしまった。それで、新発売だの、人気商品だのは、すぐに売り切れ、入荷待ち。なのに行列。レストラン、飲料や玩具なら、待っていさえすれば、いずれはきっと順番に買える。でも、限定品のオークションとなると、後から来たやつが高い入札で君を追い越していく。売り切れたら、そこでおしまい。待っていたって、絶対に君は手に入れられない。
驚いたことに、恋愛でも、同じ現象が起こっている。まさにオークション。それどころか、締め切り無しに、ただみんなのビットだけをかっさらい続けて釣り上げるプロのアイドルまがいの連中もいる。それさぁ、いくら君ががんばって入札しても無理じゃない? いくら並んでいても、いくらカネと愛情を注ぎ込んでも、君が落札できる見込み、ゼロでしょ。だいいち向こうからすれば、君なんか絶対多数のワンオブゼムで、顔も名前も知らないよ。無償の愛。永遠に生きられるなら、それもいいけれど、四十になって一人っきりの部屋って、そのときになってから後悔しても遅いと思うけどなぁ。
めかし込んで、着飾って、美男美女がいそうなおしゃれな場所に出入りするのもいいけれど、ごめんね、はっきり言うけれど、君に勝ち目は無いんだよ。客観的に見てごらん。世の中には君よりも魅力的な人がいくらでもいる。君は高学歴、高収入、高身長か? 中高のころから、ミスなんとか、ミスターなんとか、って、近所で評判だった? そうでないなら、時間と努力のムダ。落札できるのは、一人に、たった一人だけ。競争になるのは、ピラミッドの上の方だけ。それ以下は、壁の花、どころか、外に並んで待っているだけで四十越えのタイムアップ。きびしい言い方だけど、ただのストーカーで一生を終える。
無理な場に無理に行っても、どうせ無理。そういう場に慣れているやつらにかなうわけがない。どうせすぐに馬脚が出るし、そんなお高い相手と君が長続きするわけがない。君とは最初から住んでいる世界が違うんだ。でも、だからといって、家にいて、ネカマだか、ネナベだかわからない相手とゲームをしているだけでは、なにも始まらない。まあ、オフで会ってみたらどうだろう。ネットもしない、ゲームもやらない、知り合いなんかだれもいないなら、とりあえず、スーパーでも、図書館でも、公園でも、公共のスポーツ施設でも、どこでもいい。ちょっと外に出てみよう。ランニングやトレッキング、ちょっとしたハイキングも悪くない。一人じゃ気恥ずかしいというのなら、子犬でも飼って、その散歩ということにすればいい。いっそネコに首輪をつけて散歩でもしていれば、だれかきっと声をかけてくれる。それが、おばあちゃんでも、なかなかの孫娘や孫息子がいるかも。
君は自分に騙されている。直接に会って話したことも無い相手なんて、君の世界には最初から存在なんかしていなかったんだ。君は、人気レストランで素敵で豪華なメニューを見せられているけれど、実際には、どれを注文しても、ぜんぶ売り切れ。結局、最初から最後まで、なにも口にはできない。本当に存在するのは、もともと君の世界のすぐ隣の世界にいる人。もともと君の世界のすぐ近くだから、会って話しかけさえすれば、話もはずむし、心も打ち解ける。あとは、君が自分の狭い世界から、そのすぐ隣の世界にまで足を運んで、直接に会って話しかけてみようとするかどうかだけ。
一人ではあまり収入が多くなくても、二人で協力すれば、部屋でもなんでも折半で、生活もすこしは楽になる。一人でテレビやマンガを見ているより、二人で商店街でも歩ければ、いままで気づかなかったいろいろな楽しみが見つかる。スマホなんかペコペコやらなくたって、目の前に相手がいれば、いつでもその場で話ができて、その場で生きた言葉が帰ってくる。なにより余計なムダ使いも減るし、幸せは増える。さあ、いろいろ始めるにはいい季節だ。せっかくの人生、チャンスを逃すな。
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大 学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲 学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』などがある。)
デパートやショッピングモールのレストラン街、すごいねぇ。有名店は、ずらーっと人が並んでいる。前の方はイスもあるが、そこから隣の店を越えてトイレの方まで立っている。一時間待ちです、なんて言われても、まだまだ後に並んでいく。あれ、ほんとうにそんなにおいしい店なのか? そりゃ、一度、並んで入ってみないとわかるまいし、いくら人がいいと言っても、自分の口に合うかどうか。一日中ひまな人はいいけれど、君のように仕事の合間なのにそんなところに並んでいたら、昼休みが終わってしまって、何も口にしないまま夜まで仕事だよ。
驚いたことに、恋愛でも、同じ現象が起こっている。まさにオークション。それどころか、締め切り無しに、ただみんなのビットだけをかっさらい続けて釣り上げるプロのアイドルまがいの連中もいる。それさぁ、いくら君ががんばって入札しても無理じゃない? いくら並んでいても、いくらカネと愛情を注ぎ込んでも、君が落札できる見込み、ゼロでしょ。だいいち向こうからすれば、君なんか絶対多数のワンオブゼムで、顔も名前も知らないよ。無償の愛。永遠に生きられるなら、それもいいけれど、四十になって一人っきりの部屋って、そのときになってから後悔しても遅いと思うけどなぁ。
めかし込んで、着飾って、美男美女がいそうなおしゃれな場所に出入りするのもいいけれど、ごめんね、はっきり言うけれど、君に勝ち目は無いんだよ。客観的に見てごらん。世の中には君よりも魅力的な人がいくらでもいる。君は高学歴、高収入、高身長か? 中高のころから、ミスなんとか、ミスターなんとか、って、近所で評判だった? そうでないなら、時間と努力のムダ。落札できるのは、一人に、たった一人だけ。競争になるのは、ピラミッドの上の方だけ。それ以下は、壁の花、どころか、外に並んで待っているだけで四十越えのタイムアップ。きびしい言い方だけど、ただのストーカーで一生を終える。
無理な場に無理に行っても、どうせ無理。そういう場に慣れているやつらにかなうわけがない。どうせすぐに馬脚が出るし、そんなお高い相手と君が長続きするわけがない。君とは最初から住んでいる世界が違うんだ。でも、だからといって、家にいて、ネカマだか、ネナベだかわからない相手とゲームをしているだけでは、なにも始まらない。まあ、オフで会ってみたらどうだろう。ネットもしない、ゲームもやらない、知り合いなんかだれもいないなら、とりあえず、スーパーでも、図書館でも、公園でも、公共のスポーツ施設でも、どこでもいい。ちょっと外に出てみよう。ランニングやトレッキング、ちょっとしたハイキングも悪くない。一人じゃ気恥ずかしいというのなら、子犬でも飼って、その散歩ということにすればいい。いっそネコに首輪をつけて散歩でもしていれば、だれかきっと声をかけてくれる。それが、おばあちゃんでも、なかなかの孫娘や孫息子がいるかも。
君は自分に騙されている。直接に会って話したことも無い相手なんて、君の世界には最初から存在なんかしていなかったんだ。君は、人気レストランで素敵で豪華なメニューを見せられているけれど、実際には、どれを注文しても、ぜんぶ売り切れ。結局、最初から最後まで、なにも口にはできない。本当に存在するのは、もともと君の世界のすぐ隣の世界にいる人。もともと君の世界のすぐ近くだから、会って話しかけさえすれば、話もはずむし、心も打ち解ける。あとは、君が自分の狭い世界から、そのすぐ隣の世界にまで足を運んで、直接に会って話しかけてみようとするかどうかだけ。
一人ではあまり収入が多くなくても、二人で協力すれば、部屋でもなんでも折半で、生活もすこしは楽になる。一人でテレビやマンガを見ているより、二人で商店街でも歩ければ、いままで気づかなかったいろいろな楽しみが見つかる。スマホなんかペコペコやらなくたって、目の前に相手がいれば、いつでもその場で話ができて、その場で生きた言葉が帰ってくる。なにより余計なムダ使いも減るし、幸せは増える。さあ、いろいろ始めるにはいい季節だ。せっかくの人生、チャンスを逃すな。
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大 学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲 学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』などがある。)