米国と日本で日産の販売不振が目立っている。2005〜07年度の3カ年計画「日産バリューアップ」で、08年度の世界販売420万台とした。この公約にこだわりすぎたため、市場を先食いし、新型車を投入し尽くしたためだ。その一方で、ゴーン社長がルノーの社長を兼務して以来、意志決定のスピードがダウンし、これが不振につながっている、という声も出始めた。

   日本での不振は、販売の現場の能力と消費者の心理を読み違えたことが大きい。日本市場は軽自動車が過去最高の販売記録を更新したように、人気車の低価格化が進んでいる。しかもライバル車が多く、消費者が購入を決定するまでの期間は長い。これに対して日産の取り組みは、今のところ裏目に出ている。
   04年9月から05年1月までの5カ月間に新規車6車種を投入したが、カルロス・ゴーン社長が「誤算は、敢えて言えば日本市場」と語ったように、思うような効果は発揮されなかった。

新型車効果を発揮できない状態が続いた

カルロス・ゴーン社長(左)と志賀俊之COO(右)。不振をどう打開するのか
カルロス・ゴーン社長(左)と志賀俊之COO(右)。不振をどう打開するのか

   次々と出る新型車の特徴をセールスが覚えきれず、また消費者も目移りして商談がまとまらず、それぞれの車種が新型車効果を発揮できない状態が続いたわけだ。
   その後、セレナ、ウイングロード、ブルーバードシルフィをフルモデルチェンジし、合わせて三菱自動車からオッティのOEM供給を受けたが、販売店は立ち直れずにいた。市場は新鮮味のあるコンパクトカーと軽自動車を求めていたわけで、06年2月にスズキからOEM供給を受けているモコをフルモデルチェンジするまで、日産陣営に大きな話題は無かった。
   志賀俊之COOは「05年10月以降の落ち込みは想定以上」であることを認め、日産バリューアップで国内事業を「収益を柱とした方向にシフト」させたことも販売減の要因とした。

経費削減という悪いサイクルに入る

   そうした中で、販売店がちゃんとした利益を出すには、売上や粗利率を上げるか、人件費や経費を削減するか、どちらかということになる。インセンティブは無くなり、値引き販売も難しい。そこで人気の新型車が不在、となれば経費削減が選ばれる。新聞折り込みチラシは減らされ、営業成績の悪いセールスは更迭される。販売店が新規客を呼び込む手段を捨て、しかも人材には限りがあるため、営業部隊の増強は進まない。
   悪いサイクルに陥った、としかいいようのない状況だ。
   国内販売は06年秋にスカイラインとオッティをフルモデルチェンジするまで我慢の戦いが続くが、商品力のほかに大きい不安がある。
   販売店はゴーン社長がルノーの社長を兼務して以来、日産の中で意志決定のスピードがダウンしたと感じている。志賀COOは就任時に「社長がルノーのCEOを兼務することになって、会社がネガティブな影響を受けないようにすることが役割です。従業員が不安を感じるとか、元気がなく変革へのチャレンジが後退してきた、とかですね」と話している。兼務による不安を払拭する指導力と行動力を日産の幹部が示さなければ、売れる好機を逃すかもしれない。