米国の参加型ジャーナリズム研究の第一人者、ダン・ギルモア氏が「日本のブロガーと話をしたい」と要望したことから実現した会話型のイベントが26日、東京・銀座のアップルストア銀座で開催された。同氏は著書「ブログ 世界を変える個人メディア」(平和博・訳 朝日新聞社)の日本での刊行に際し来日した。

 ギルモア氏は1994年から10年間、シリコンバレーの日刊紙、「サンノゼ・マーキュリー・ニュース」でコラムニストを務め、同紙などが運営するテクノロジーニュース・サイト「シリコンバレー・コラム」でブログを続けてきた。05年には、草の根ジャーナリズムを実現・展開していくためのベンチャー企業「グラスルーツ・メディア・インク」を設立。サンフランシスコ・ベイエリアを舞台としたオンライン・コミュニティー「Bayosphere(ベイオスフィア)」を立ち上げ、ジャーナリズム活動を行っているブログジャーナリズムの第一人者である。

 アップルストアで行われたイベントのほとんどは、ブロガーから事前に寄せられた質問にギルモア氏が答えるという形で進み、会場に集まった約70人は、ギルモア氏の語る「ブログジャーナリズム」の展望や課題について耳を傾けた。

 参加したあるブロガーは「個人が無料でできるブログは、自分の書きたいことに同感してくれる少人数のためのメディアだと思う。いろいろな人に感想をもらうことで、ブログに人を動かす力があることを実感できる」と「草の根メディア」と呼ばれるブログについて語った。一方で別のブロガーは「日本ではブログというと、個人の日記や独り言のような役割を果たすことがまだ多い。プロフェッショナルとしての『ブログジャーナリスト』が誕生するまでには時間がかかるのではないか」とギルモア氏の語る未来のジャーナリズムが日本では実現段階にはないと指摘した。

ギルモア氏に寄せられた代表的な質問と答え

◆これから5年の間に、ブログは雑誌より大規模なメディアになると思うか?
コミュニケーションツールとしては「イエス」。だが、ジャーナリズムとしてどうかはわからない。理由は、収益の面からすると雑誌のほうが勝っていると思われるからだ。しかし、ブログを収益活動を主とするような既存のメディアとしてみるべきではない。既存メディアが扱わないような小さなニュースに価値を見出そうとするとき、ブログは雑誌を凌駕するものになっているかもしれない。

◆ジャーナリズムの定義とは何か?
基本的には、正確性・透明性・公正さを兼ね備えたもの。私たちの生活に必要な、ニュースの情報源だ。そして、小さな町の、小規模なニュースでもジャーナリズムといえる。そこに住んでいる人たちにとっては現実的なニュースだからだ。

◆ジャーナリズムは報道だけと定義すべきか?それとも多くのブロガーたちがやっているようにコメントや洞察も含んでそう呼ぶのか?
後者も一種のジャーナリズムだろう。概して、ジャーナリズムとは他者の制作したリポートを超えようと努めることだと私は思う。報道だけでなく分析やコメントまで、また大規模なニュースだけではなく、現実的な身辺記事まで、ジャーナリズムの定義を広げてみてはどうだろう。そうすれば日本でブログジャーナリズムは浸透すると考えられないかな?(この発言の前、ギルモア氏の「日本でブログジャーナリズムが浸透すると思うか」との質問に「イエス」と答えたのは数人だった)。ロンドンのテロのときに、一個人が撮った写真が全世界に広まったことに見られるように、個人が世界に情報を発信するツールではないか?このように誰もがジャーナリストになれるのだ。【了】

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