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ゴールデンウイークが終わり、ちょうど一週間後にはセ・パ交流戦が始まる。2004年の球界再編騒動を経て誕生したセ・パ交流戦は最初の二年間のみ各カード、ホーム、ビジター各3試合の6試合制、一チームあたり36試合制だったが、三年目の2007年から各カード、ホーム、ビジター各2試合の4試合制、一チームあたり24試合制に移行して今日に至っているが、セ・リーグ側が試合数の削減を要望しており、来年以降の試合運用がどうなるか、注目されている。

セ・リーグ側は一部球団を除き、交流戦の観客動員が同一リーグ内の公式戦に比べて少ないことなどを理由に各カード3試合(ホームとビジターを一年ごとに交互)の18試合制への移行を主張しているが、どうなるか?

(写真:昨年の日本生命セパ交流戦より。試合前にメンバー表を交換するファイターズの栗山英樹監督とジャイアンツ原辰徳監督。 2012年5月撮影)

最初にこの話題が出たのは昨年の12月1日の報道だった。


◆セ・リーグ 交流戦日程の短縮を提案へ 観客数減少を懸念

セ・リーグが14年以降の交流戦日程を短縮する方針を打ち出していることが30日、分かった。

複数のセ・リーグ理事によると、現行のホーム&ビジター制での4試合総当たり方式から、3試合をどちらかのホームのみで開催。それにより、現行の1チーム24試合から、18試合に短縮し、日程を3週間程度に抑えるというもの。早ければ1月の12球団による実行委員会で提案する方針だ。

交流戦はパ・リーグからの要望もあり、05年シーズンから導入され、今季で8年目。日本生命が特別協賛スポンサーに付くなど、球界全体での営業面ではある程度の成功を収めている。だが、セ・リーグに限れば巨人以外の球団で、交流戦の主催試合平均観客数が通常のリーグ戦を下回る傾向にあり、見直しを求める声が強い。

セ・リーグは交流戦で削減した分は通常のリーグ戦を増加することで、シーズン自体の試合数は変えない意向。これに対し、パ・リーグの関係者は「提案されてみないと何とも言えないが、変更の必要はないと認識している」と話している。

(スポニチアネックス 2012121日)


そして直近ではセ・リーグが4月24日の臨時理事会でサイド試合数の削減を主張してきた。

◆セ・リーグ 来季交流戦24→18試合削減案を提案へ

セ・リーグの臨時理事会が24日、都内で行われ、来季交流戦について検討。現行の24試合制から18試合に削減する案を、あらためて5月の実行委員会でパ・リーグ側へ提案することを確認した。

来季交流戦はパ・リーグが24試合制を維持して日程短縮、または分離開催するプランを提案していたが、鈴木清明理事長(広島球団本部長)は「分離開催は現実的ではない。日程を詰める案も移動が厳しく、土曜日に(観客動員が見込める)デーゲームをできないなど弊害がある」と指摘。「交流戦の成績がリーグ優勝を大きく左右するのは問題。交流戦の在り方を精査してパに伝えたい」とした。

(スポニチアネックス2013425日)


交流戦がスタートしたのは2005年だが、前年の球界再編騒動で突如構想が出たものでは無い。アメリカ大リーグではインターリーグと言われるアメリカン・リーグのチームとナショナル・リーグのチームの試合の公式戦となる交流戦が行われていることもあり、日本でもパ・リーグ側から日本版インターリーグの開催を望む声は出ていた。

拙blogにお付き合い下さる方には釈迦に説法だろうが、アメリカ大リーグではテレビ放映権を主催球団ではなくリーグが一括で管理して各球団に配分するシステムが確立されている(ケーブルテレビなどを除く)が、それに相当するシステムが日本のプロ野球界にはない。そこで対ジャイアンツ戦や対タイガース戦などの集客力のある目玉カードをパ・リーグ主催で行える交流戦の実現は観客動員面でセ・リーグに決定的な差を付けられているパ・リーグにとっては起死回生の策だったのである。もちろんセ・リーグ側は交流戦を行うと対ジャイアンツ戦や対タイガース戦が減るからいい顔をしない。ところが2004年の球界再編騒動によって十二球団共栄共存、運命共同体的な観念が出来上がり、交流戦の実現に至った。ただ皮肉なことに高額の放映権料が見込めていた対ジャイアンツ戦のテレビ市場での価値は暴落。ゴールデンタイムの地上波放送は激減し、BS放送がやっと。土日にはデーゲーム開催の方がまだテレビ局に売りやすいといった形になった。

そんな状況で今後の交流戦のあり方を考えるのは有意義だと思う。特に来年で交流戦開催から十年になる。二リーグ体制維持を含め、あり方を検証するのは有意義だと思う。もはや対ジャイアンツ戦の取り合いにはならないとは思うが…。

個人的に気になるのはセ・リーグが交流戦の試合数削減の根拠とする、“セ・リーグに限れば巨人以外の球団で、交流戦の主催試合平均観客数が通常のリーグ戦を下回る傾向”は事実なのかという点。そこで最近三年間の各球団の観客動員から、同一リーグ同士の対戦と、交流戦の観客動員の傾向を比較してみた。

「NPBinterleaguesimulation.xls」をダウンロード


対戦数が異なるので、一試合あたりの平均観客動員数を比較すると、セ・リーグでセ・リーグ同士の対戦での平均観客動員数より、パ・リーグ球団相手の交流戦での平均観客動員数が劣るのは昨年においてはドラゴンズ、カープ、スワローズ、ベイスターズ。2011年においてはスワローズとベイスターズ、2010年においては2012年と同様でドラゴンズ、カープ、スワローズ、ベイスターズ。ただセ・リーグ全体で集計すると、交流戦の方が平均観客動員数が少ないのは最近三年間では2011年のみ。少なくとも“巨人以外の球団”という括りは正確ではないようだ。パ・リーグにおいては過去三年間、全球団がパ・リーグ同士の対戦よりセ・リーグとの交流戦の方が一試合あたりの平均観客動員数が上回っている。

ではセ・リーグ側が主張するような交流戦の削減案、各カード、ホーム、ビジター各2試合の4試合制、一チームあたり24試合制から、各カードホームまたはビジター(一年ごとに交互)3試合制、一チームあたり18試合制に移行して、減少分を同一リーグの対戦に回したらどうなるのだろうか?上記のExcelで、左下のタグ“シミュレーション”をダブルクリックしていただきたい。

十二球団の最近三年間の同一リーグ内の対戦の一試合あたりの平均観客動員数と交流戦での一試合あたりの平均観客動員数でセ・リーグ側の提案している試合数になったらどうなるかというシミュレーションだ。確かにドラゴンズ、カープ、スワローズ、ベイスターズは現状より観客動員が増えることになる。だがセ・リーグではジャイアンツとタイガースにメリットがない。四球団にメリットがあるにもかかわらずジャイアンツとタイガースのマイナス分を考えるとセ・リーグ全体では観客動員が減ることになる。パ・リーグは六球団すべて減少することになる。

セ・リーグで、というか十二球団で“全国区”と言えるのはジャイアンツとタイガースだけと言って差し支えないと思うが、さすがに日本プロ野球老舗の両球団はどの球団と対戦しても観客動員に大きな差違が出ないということだ。この両球団が太っ腹なところを見せて、残りのセの四球団のためにパ・リーグとの交流戦を減らそうと言うのであればある意味美談ではあるが<苦笑>、このデータに関する限りではセ・リーグ限定で考えても交流戦の減少はあまりメリットがないということだ。

しかももう一つの表を参照していただければわかるように、シミュレーション上では当初の2005年、2006年の各カード、ホーム、ビジター各3試合の6試合制、一チームあたり36試合制に戻した方が観客動員は微増すると言うことになる。

では4月25日のセ・リーグ臨時理事会のカープの鈴木清明球団本部長の見解をどう見るか。

引用したスポニチでは「日程を詰める案も移動が厳しく、土曜日に(観客動員が見込める)デーゲームをできない」とあるが、敗戦処理。が昨年5月14日付エントリー交流戦のゆるゆる日程はどうにかならないのだろうか?で提案した日程案では金曜日が予備日になっているレアケースを除けば、土曜日の当日移動は起こらない。

「2012virtualINTERLEAGUEschedule.xls」をダウンロード


また同本部長はサンケイスポーツでは“2連戦を繰り返す現行の日程では「(移動日となった場合に)土曜日にデーゲームができない」”と発言したようだが、現状の日程でも土曜日に当日移動となる可能性があるのは金曜日に設定されている予備日に試合が行われた場合のみであり、極めてレアケースだ。手元に交流戦の日程表がある方は参照されたい。現状の二連戦方式の交流戦では金曜、土曜の二連戦と、土曜、日曜の二連戦が組まれる可能性があるが、土曜、日曜の二連戦のカードの前は水曜、木曜の二連戦で、金曜日は移動日になり、予備日も兼ねている。金曜、土曜の二連戦の直後は日曜、月曜の二連戦だからむしろ日曜日の方がデーゲームを組めないケースが考えられる。鈴木本部長が土曜と日曜を勘違いしたともとれるが、それではあまりにお粗末だ。

ただもう一つの“交流戦の成績がリーグ優勝を大きく左右するのは問題。”は傾聴に値する。

リーグ戦とは、優勝や順位を争う当事者同士の対戦の繰り返しによってなされるものであるから、現状の144試合の中に直接対決になり得ない対戦が24試合あることになる。これが多いか少ないかは意見が別れるかもしれないが、少なくとも交流戦は優勝争い、順位争いが佳境になる時期には組まれない方がいいだろう。

そもそも当初の交流戦、各カード、ホーム、ビジター各3試合の6試合制、一チームあたり36試合制では36試合を一週間に三連戦×二カードの六連戦を六週ぶっ続けで行った。六週間ということは一ヶ月半であり、この間、同一リーグのライバルとの対戦がないということはファンの間でも物足りなさと、楽しみだった交流戦への飽きを産んでしまったようだ。また現場でも球団によっては六連戦が六週続くと先発投手のやり繰りが苦しいとの不満があったようだ。

当時から六連戦を六週続けるのではなく、半々くらいで二回に分けた方が良いのではという意見はファンから出た。二回に分けるとスポンサーの日本生命の訴求力が薄れるとか、後半の開催時期が難しいというものだったと記憶している。

前述の様にリーグの優勝争いを考えれば、9月以降には交流戦を組めない。その前の8月にはタイガースが本拠地球である甲子園球場を使えない。その前となるとオールスターゲームを挟むことになるが、交流戦期間の真っ最中にオールスターを行うとオールスターへのファンの興味が薄れる危険性がある。二回に分けて交流戦を行うにしても、オールスター前に行うしかなさそうだ。

今年の例を取ると、5月14日(火)から始まる交流戦を、六連戦×三週で一度区切ると、6月2日(日)で交流戦の前半が終わる。7月19日(金)からのオールスターゲーム直前まで交流戦が行われるのはまずい。例年オールスターゲームの前の週に海の日を含む三連休があり、この期間ほとんどの球団が九連戦を行う。今年は7月9日(火)からだが、実際には三球団だけが九連戦であとの球団はどこかに試合のない日が入る。この前の三週間を交流戦後半とすると、6月18日(火)から六連戦×三週となるが、予備日を考えると、一カード分空けた方がいいだろう。6月14日(金)から六連戦×三週プラス予備日で7月8日(月)までとしたらどうだろう。

ただこの場合、交流戦の前半の最後と後半の最初の間に、三カードしか行われない。これでは分けた意味がない。となると、交流戦36試合を二分割するにはオールスターゲームの開催時期を後ろにずらすか、交流戦の前半戦の開始を早めるかだ。

ちょっと横道に逸れるが、この件がなければ個人的にはオールスターゲームを海の日を含めた三連休で行った方が良いと考えている。一昨年の東日本大震災の年からオールスターゲームは二試合から三試合に戻り、その一試合を復興支援に充てている。一昨年は日程が決まった後に地震が起きたので無理に一試合組み込んだ感じだったが、昨年は盛岡(岩手県営球場)で第三戦が行われ、今年は福島県のいわきグリーンスタジアムで第三戦が行われるが、いずれも平日の月曜日。学校が夏休みに入っている時期とはいえ、大半の大人にとっては平日の月曜日だ。金曜日に雨天順延のリスクが少ないドーム球場で第一戦を行い、土曜に第二戦を行って日曜日を予備日にするという現行の二試合制に一試合を足しただけだ。それなら月曜日が祝日になる一週間前に開催した方が盛り上がるのは明白だからだ。

理想的には交流戦を六連戦×三週間組んだら、同一リーグとの対戦を同じく三週組んでこそ二分割なのではないか。

3月29日(金)両リーグ開幕。同一リーグの対戦を5カード、ホーム、ビジター各1カード。これを5月1日(水)まで行う。

5月3日(金・祝)から交流戦開幕。前半戦として3連戦×6カード。5月23日(木)まで行う。予備日は試合のない5月9日(木)、13日(月)、20日(月)とし、未消化の分は後半に設ける予備日で消化。

5月24日(金)から同一リーグ同士の対戦。6月9日(日)まで。

6月11日(火)から交流戦の後半戦。六連戦×三週プラス予備日四日間で7月4日(木)まで。

7月5日(金)から同一リーグ同士の対戦再開。理想的には前述したとおりオールスターゲームを7月12日(金)からに前倒ししたいが、19日からであれば、それまでに同一リーグ同士の対戦を四カード組めるのでオールスターゲームへの興味低下を防げるのではないか?

この場合の鍵はかき入れ時のゴールデンウイークの一部に交流戦を組むことにセ・リーグが同意するかどうかということだ。第一回の2005年こそゴールデンウイークの続きとも思える5月6日(金)に交流戦が開幕したが、その後はゴールデンウイークが過ぎてからの開始となっている。

敗戦処理。が提示したデータで検証する限りではセ・リーグ側が主張する削減案で得をするのは十二球団中の三分の一に当たる四球団だけ。敢えてきつい言い方をすればこの四球団はセ・リーグの老舗でありドル箱球団であるジャイアンツとタイガースの恩恵を受けている球団とも思えなくもない。そしてシミュレーション上では2005年、2006年の試合数に戻しても大丈夫なので、やり方次第なのである。


長々と書いてきたが、現行の144試合中24試合(17%)を上回る146試合中36試合(24.7%)はいかにも多く、試合増は現実的ではないが、やろうと思えば出来るのである。結局落としどころは現行の試合数で日程を短縮するといったところだろうか…。ただ、実際にはタイガースも交流戦で対同一リーグ以上の観客動員(一試合平均)を達成しているのにジャイアンツだけかのように交流戦を否定したり、セ・リーグの理事会の理事長を務める鈴木本部長のお膝元のカープは交流戦を減らした方がメリットがある。ジャイアンツとタイガースはどちらに転んでも他球団が自球団への依存度が高いことに変わりはない。パ・リーグのファンも含め、交流戦はどうあるのが望ましいか考える時期に来ているのは確かなようだ。