ヤクルト、巨人戦は実に見ごたえのある好ゲームだった。菅野、小川という新人投手の投げ合いも良かったし、試合の決着も見事だった。
ノーランライアン張りの小川は小気味よい投球で強力打線を際どく抑えていく。そして早くもエースの風格が出てきた菅野は打者を圧倒する。

6回、坂本勇人に2ランが飛び出し、巨人が突き放すが、裏にバレンティンが菅野を粉砕した。どちらも真っ向勝負。胸がすくようだった。

この試合、フジ系列で見たのだが、番組としては特別の企画が盛り込まれていた。SMAPの中居正広が副音声で初めて実況中継にチャレンジするというのだ。
放送前にフジテレビは「新しい野球中継の可能性を目指せれば」とコメントした。

私は全く興味がなかったが、副音声の実況が時々織り込まれるので、聞かざるを得なかった。
「新しい野球中継の可能性」とまで言うのだから、何か趣向でもあるのか、新機軸を打ち出しているのか、と思ったのだが、何もなかった。

中居正広という男は、そこはかとない愛嬌があり、人間としても練れている感じはあるのだが、SMAPの中でも際立って口跡が悪い。要するに何をいっているかわからないのだ。
「僕は素人だから」と何度も繰り返していたが、全く自信がなかったようで、最初から腰が引けていた。そのことが、聞き苦しさを増幅していた。

そもそも「実況とは何をするのか」が理解できていないようで、あるときはプレーに対して歓声を上げ、ある時は解説者に突然話を振る。立ち位置がわからない、気持ちの悪い状態だった。
副音声には、森繁和、広沢克実、元木大介と3人も解説者がいた。中居正広の希望だったようだが、実況者よりも解説者の方がしゃべりが滑らかな放送というのも珍しい。

中居の太鼓持ちをさせられた3人は浮かぬ顔だった。

このお粗末な実況が、息詰まる試合のところどころに挟まってくるのだ。私はすぐに音を消したが、興ざめも甚だしい。

ナンシー関風に言うなら、この放送はフジテレビによる大物アイドル中居正広への「接待」だろう。

酒席かなんかで「俺、一回実況やってみたいんだ」と中居が言い、フジの幹部社員が「じゃ、今度やらせます」と言ったのではないか。ジャニーズにそっぽを向かれては、番組作りはできなくなるから、このくらいのことはやるのだろう。野球ファンにはいい面の皮である。

フジテレビがいう「新しい野球中継の可能性」とは、野球中継を「権力者への接待に利用する」ということだったのか。馬鹿も休み休み言えと言いたい。

地上波テレビに期待すること自体がそもそも間違っているのは重々承知だが、こういうことがたびたび続けば、視聴率低迷中のフジテレビは、さらに社会の信用を失うだろう。