「タイガースの背中が見えてきた」と先月号で書いたが、心配していたとおりというか案の定というか、9月14日の試合終了時点で、我がベイスターズは、40勝74敗10引き分けの勝率3割5分1厘で、タイガースとのゲーム差は 7.5 となってしまった。残り試合を考えると、5位奪取は絶望的で、今年も定位置の最下位が確定してしまったようだ。

　タイガースファンが言っていた。「阪神がこれだけ負けても、まだ後ろに横浜がいる。横浜というのは、偉大なチームや」。

　そのタイガースの金本知憲選手が9月12日に21年に及ぶ現役生活から引退すると発表した。シーズン終了後ではなく、今の時期に引退を発表した理由は、チームへの恩返しだろう。首位に30ゲームもの差をつけられ、今後の試合は完全な消化試合だ。

　それでも、金本の最後の姿をみたいと思うファンは球場に駆けつけてくれる。減っているとは言え、甲子園の観客動員は3万人程度を維持している。金本の引退試合のチケットは、即時完売に近かったそうだ。

　一方、ベイスターズは、9月4日からの横浜スタジアムの3連戦で、「ソニー銀行presents 住宅ローンナイター」を開催した。住宅ローンを抱える働くお父さんのチケット価格を半額で提供するというものだ。ところが、「ソニー銀行以外でも住宅ローンを抱えていればチケット半額」という大盤振る舞いをしたにもかかわらず、観客動員数は1万人に届かなかった。

　プロ野球ファンは、チケットを安くして欲しいのではなく、感動的なプレーをみたいのだ。世界記録となった連続フルイニング出場を続けるなかで、金本選手は片手を骨折しながらも出場して、ヒットを打った。そんなプレーをみたいのだ。

　ただ、金本選手を生み、育てたのは広島カープだ。私は広島カープにこそ、ベイスターズの未来があると思う。貧乏球団という点ではベイスターズとカープは同じだ。だから、ベイスターズと同様に、選手がスターになると、他球団にＦＡで出て行ってしまう。金本選手もその一人だ。

　だが、そんな宿命にもかかわらず、今年のカープはクライマックスシリーズへの出場を争える位置で戦い続けている。年俸の高い選手を取ったわけではない。例えば、9月14日の先発の野手・捕手の年俸は下記のとおりだ。

８　天谷　　　２５００万円
４　東出　１億円
６　梵　　　　６２００万円
３　エルドレッド　１８４０万円
７　岩本　　　　　１６４０万円
９　広瀬　　　　　６０００万円
５　堂林　　　　　　７００万円
２　石原　　　　　８０００万円

野手・捕手合計　３億６８８０万円

　なんと、野手・捕手全員で、金本選手一人の年俸よりもずっと安いのだ。それでも広島が勝てるのは、スカウトがきちんと選手の潜在能力を見抜き、大切に育てているからだ。

　来期もあまり選手にお金をかける気がないのなら、ベイスターズは、ぜひ広島方式を採用してほしい。

森永卓郎（もりながたくろう）
昭和32年生まれ　東京大学経済学部経済学科卒業
日本専売公社、経済企画庁総合計画局、（株）ＵＦＪ総合研究所などを経て、現在、獨協大学経済学部教授。専門は労働経済学。主な著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』光文社2003年、『しあわせの集め方　Ｂ級コレクションのススメ』扶桑社2008年など多数。
・森永卓郎オフィシャルWEBサイト