この管の中で“波動”を利用して、排熱を電気エネルギーに変換。未来のエンジンが今、日本で開発されている

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SFアニメの名作『宇宙戦艦ヤマト』の動力源として有名な「波動エンジン」。作中でははるか宇宙の彼方まで飛行できる夢のエンジンとして登場していたが、ついに先日、その「波動エンジン」の名を冠した新たなエネルギー変換デバイスが開発された。

開発者の一人である東海大学工学部動力機械工学科・長谷川真也助教は、「波動エンジン」の正体についてこう説明する。

「このたび私たちが開発したのは、正確には“熱音響機関”といって『宇宙戦艦ヤマト』のものとはちょっと違います(笑)。原理としては気体の振動、つまり波動を利用します。熱源によって音波を発生させ、その音波を利用して、電気エネルギーに効率良く変換させる装置です」

この原理の身近な例として、自然現象の雷鳴が挙げられる。「バリバリッ」という大きな音は、雷の放電によって熱(2万〜3万℃)が発生し、空気を熱することによって生じる。高エネルギーで空間の限定された領域を加熱することによって波動が生まれ、それが音に変換されているのだ。

スピーカーは電気エネルギーを与えると空気の振動が生じて音を出す装置だが、波動エンジンは装置内に設置した細い流路を持つフィルターに温度差を与えることで気体を不安定にし、音波を生じさせる。その振動するエネルギーを取り出して、逆に電力を生み出す仕組みとなっている。

肝心の熱源はというと、現代の産業構造では捨てられている排熱に注目。既存の設備や装置から出ている排熱を波動エンジンと組み合わせ、音波、そして電気に変換するのだという。

「実は世の中の車や工場などは、使用しているエネルギーのうち65%以上を排熱として捨てています。例えば一般の車はガソリンの持つエネルギーの約3割で走っていて、残りの7割は排熱として捨てられている。いわゆるハイブリッドカーでは燃料の持つ約3割のエネルギーを回生ブレーキなどで効率良く利用していますが、排熱となっている7割の熱はうまく活用されていない」(長谷川氏)

今までは捨てられるだけだった大量の熱を活用することで、波動エンジンは電気を生み出すのだ。

波動エンジンなら、捨てている7割の排熱を高効率で電気に変換し、バッテリーに供給することができる。これは車の燃費を劇的に変える可能性があります」(長谷川氏)

石油や天然ガスといった化石燃料に頼らずに発電ができる波動エンジンが実用化されれば、産業界や経済界に大きなインパクトを与えることは間違いない。

「石油や天然ガスの採掘のピークは2010年頃で、すでに過ぎているといわれています。これからは既存の資源が枯渇していく。さらに日本の人口は減少するものの、全世界の人口は現在の70億人からますます増加し、50年には90億人を超えるとされています。そうなれば資源が不足し、深刻なエネルギー危機が起こるのは間違いないでしょう。これを解決するために、波動エンジンが役立つかもしれない。現在はまだ試作段階ですが、産・官・民が一体で開発すれば、5年後をメドに実用化することも可能と考えています」(長谷川氏)

宇宙を翔(か)けるのは当分先になりそうだが、日本製エンジンが世界を救う日は遠くないかもしれない。

(取材/世良光良、写真/五十嵐和博)