■好調・湘南を引っ張る、馬場賢治

遂に開幕から9試合無敗を記録していた湘南が、第10節の水戸戦に敗れ初黒星がついた。そして、続く第11節でも愛媛に敗れ連敗を記録してしまった。しかし、ここまで戦前の予想を裏切り、リーグ1位の得点力で首位を走ってきた湘南。そして、その好調な攻撃陣の中心に居るのが平塚の男・馬場賢治である。

馬場は小学生の頃からベルマーレ平塚の下部組織に所属していたが、中学3年生の時に中体連に席を移した。その後は桐光学園、近畿大学へ進学。桐光学園では最終学年には背番号10番を背負いプレー。近畿大学では、4年次に春期関西大学リーグの得点王にも輝き、2008年にはヴィッセル神戸に入団。1年目から公式戦出場を果たすが、パクカンジョ、田中英雄、ボッティ、キム・ナミル、大久保嘉人、吉田孝之らの厚い壁を前になかなかレギュラーポジション獲得をすることができなかった。そのため、2010年には出場機会を求めて11年ぶりにJ1昇格を果たした湘南へ期限付き移籍。翌2011年には再び神戸に復帰するが、リーグ戦デノ出場は1試合に止まりオフにはチームから戦力外通告を受けることになる。そして、馬場は早くから声を掛けてくれていた湘南に、地元である平塚に再び戻ることを決めたのだった。

■長い期間、中盤でプレーしてきた馬場

前振りが長くなったが、馬場は在籍していた桐光学園、近畿大学ではボランチ、もしくはゲームメイカーとして殆どの時間をプレーしてきた。しかし、湘南で迎えた今期、馬場はFWとして、常に3トップの一角として出場している。時に1トップのポジションだったり、時には2シャドウの一角としてプレーして、ボランチではなく味方に使われる選手としてプレーをしている。そして、それがチョウ監督の考える湘南のチーム戦術と実に上手くマッチしていることが判る。

FW起用に関して馬場本人に質問をしたところ、「2010年に湘南へ(期限付きで)来たときも、チョウさんから『お前は使われる側の選手だと思う』って言われた。そのときも実際にFWで起用されたし、俺のことを見抜いていたんじゃないかと思う」と言う。そして、チョウ監督も馬場の事を、「出し手よりも受け手としての適正があると思うし、献身的なプレーができる選手だから(FWで起用している)」と言う。だから、シーズン前のキャンプから出し手のボランチではなく、受け手のFWとしてテストを続けてきた。


■馬場のFW起用が機能している理由

では、なぜ馬場のFW起用が機能しているのだろうか?身長177cm、体重70kgと決して大柄な選手ではない。しかし、理由は大きく分けて3つある。1つは視野の広さと判断力。元々はボランチでプレーしていたこともあり、チーム全体の動きを先読みしプレーする。自分がボランチならばFWにはここで受けて欲しいと思う場所へ顔を出し、少ないタッチでボールを叩き、再び自分も動きアングルと選択肢を増やす。こうやって味方を前に向かせることで迫力ある攻撃へ繋げる。

もう1つは、懐の深さ。決して大きな選手ではないが、くさびのパスを受けたときに相手DFに体を当てられても負けずにボールを保持できる。これにより高い位置に起点が作れるため、DFの遠藤やボランチの永木がボールを持つと、まず前線の馬場を探し縦パスを入れるシーンが目立つ。すると、一気に攻撃のスイッチが入るのが良く判るだろう。

そして、もう1つが守備。これが最大のストロングポイントだ。攻撃を牽引するという意味では、反目する守備の話しになるが、実はこの前線からのチェイシングは湘南のチームコンセプトである「(得点を取るためには)相手の陣地で長くプレーする」という理念に一番マッチしているのだ。高い位置で馬場が積極的にプレスを仕掛け、相手ゴールに近い位置でボールを奪って攻撃に繋げる。実際、第5節の熊本戦では自らのプレスからパスをカットしゴールを奪っている。たとえ奪えない場合であっても、相手のビルドアップ精度を下げ、蹴らせた後、次のプレーでマイボールにする確率を高める。だから上背のない3バックでも積極的にラインを高く保つことが可能となるのだ。