橋下徹市長誕生から1カ月─。公務員相手にバトルを演じてきたが、“敵”があまりに弱すぎたのか。今度は学識者たちに「エゲつない」言葉でケンカを吹っかけ始めた。荒ぶる市長に学者はどう対応するのか? 「場外舌戦」のゴングが打ち鳴らされた!

 政治家に求められる資質の一つに「発信力」なるものがある。自分の考えを大衆に伝える力なのだが、橋下徹大阪市長(42)の場合はズバ抜けている。市政担当記者が言う。

「市長就任から1カ月でテレビ出演は17回。『改革』の腹案を市幹部に指示した翌日には、マスコミの前で話してしまうので、職員は困り果てています。3月末までの早期退職希望者が前年の2倍、650人に上るなど、市役所の混乱はしばらく続きそうです」

 目下の「敵」である市職員は右往左往するだけで、敵前逃亡者まで現れた。橋下氏の完全勝利も近い。

 そして、「発信力」を駆使して、橋下氏は次なる「敵」をさっそく、見つけ出した。

 今年に入ってから、橋下氏はつぶやき投稿サイト「ツイッター」上で、学識者6人の実名をあげ、口汚く罵り始めたのだ。

 例えば、1月11 日には、こんな罵詈雑言があった。

〈香山氏は、一回も面談もしたことがないのに僕のことを病気だと診断してたんですよ。そんな医者あるんですかね。患者と一度も接触せずに病名がわかるなんて。サイババか!〉

 橋下氏に槍玉にあげられたのは、精神科医で立教大学現代心理学部教授の香山リカ氏だ。

 橋下氏が勝手に診断されたと騒いでいるのは、香山氏が共著者として名を連ねる「橋下主義(ハシズム)を許すな!」(ビジネス社刊)の中の次のくだりと思われる。

〈(バトルの構図で二者択一を迫る)ふるまい方というのは、(中略)ある種の危機や不安を抱いている病理のひとつの証拠だと思えてしまいます〉

 これが、〈診断〉なのか。本誌は香山氏に取材を申し込むと、こんなコメントを寄せてくれた。

「“直接診ていない人”であっても、為政者や教祖など社会的影響力を持った人物本人やその人を受け入れる民衆について分析する手法が、精神医学の一分野として伝統的に存在します。それにのっとって、いわゆる『橋下現象』を分析してみたまでで、橋下氏という個人を診断したわけではありません。本人に頼まれてもいないのに、しかも無料で診断するようなサービス精神は私にはありません」

 香山氏は橋下氏が代表を務める「大阪維新の会」が打ち出した「教育基本条例案」に一貫して反対の立場を表明してきた。先の市長選でも、平松陣営の応援演説にも立っている。

 多分に、橋下氏の香山氏に対する怒りの原因は別のところにあるように思えるが、香山氏は意に介することなく、こう続ける。

「学者や識者の批判を拒絶する橋下氏は、少々批判されると黙っていられないほど繊細で脆弱な神経の持ち主なのかと、それこそ“診断”したくなってしまいます」

 この「大舌戦」の第1ラウンドは、大人の対応を見せる香山氏の勝利か。