今回のテーマは「倒れる」です。

浦和対鹿島のナビスコカップ決勝を見ていて、選手があまりにも倒れすぎ、試合のテンポが崩れ、そのせいでまったくつまらない試合になってしまったことから考えました。ことに浦和側にその傾向が顕著で、エスクデロはなんども転がっていました。さらに笑いを誘ったのは確か柏木だと思うのですが、倒れて痛がっていたはずなのに、ボールが来たら、素早く立ち上がりプレーを再開したのです。まさにプロ根性の発露ですけど、それまで痛がっていたのはなんだったのかということで、笑いが起きていました。

かといって、鹿島が良かったのかというと決してそうではありませんでした。49分の山田直輝の立て続けのファウルによる退場により、数的優位に立ち、かなり攻めていても、ゴール前の人数が足りずに効果的な攻撃にならないという、信じられないような光景をたびたび見ました。さらには、延長で１点を先取すると守りに入り、ことあらば倒れようという姿勢がありありでした。

会場は真っ赤に染まり、まさに日本のクラブを代表するサポーターによる応援はそれは綺麗でした。おかげで久々に聖地国立の大きさを感じました。スタジアムは不思議なもので、人が入っていないと狭く感じるのです。目の錯覚なのですが、動いている人がいると遠く感じるのか、広くなるのです。そんなすばらしい雰囲気があり、過去の栄光のあるチーム同士なので、期待をしていたのですが、結果は現在の順位を反映した内容だったのです。あれだけの声援がありながらですから、選手たちは「不甲斐ない」と思っていると思いますが、現実は「”倒れるプレー”が主役の酷いもの」でした。

そんななんだかなという日、夜になって、「チェルシー対アーセナル」のロンドンダービーを観戦です。前半最後にＪＴ（もちろんジョン・テリーのことで日本たばこではありません）の鮮やかなヘッドが決まり、チェルシーが２−１と勝ち越し。メルテザッカーのポジショニングも悪く、一瞬どうなるのかと思ったのですが、じわじわ来ましたね。結果はご存じのようにファンペルシのハットトリックもあって、アーセナルが５−３の勝利、勝ち点３をあげ、３位チェルシーまで３ポイントの７位まで浮上しました。

で、ここで言いたいのは今日のテーマの転ぶです。特筆すべきはアーセナルの３点目となった55分のウォルコットのゴールです。なんと彼は一度倒れているのですが、すぐに立ちがあり、ボールをキープし、シュートを打ってゴールを獲得したのです。Ｊだったら明らかにファウルをほしがり、笛が吹かれなかったら悔しがる、そんなシーンにもなりかねないものでしたが、ゴールが欲しいという気持ちがまさにバネとなって、ウォルコットは速攻立ち上がり、得点に結びつけたのです。

さらにもう一つ、85分にＪＴが自分のところに来たボールを取りに行く際に、なんとこけてしまいます。「倒れて」いる隙にファンペルシにボールをかっさわれ、ＧＫもかわされ、無人のゴールに４点目が決まりました。チェルシーは前かがりになっていたので致し方がないと言えますが、あのレベルでは、倒れたら「点」になってしまうのです。

倒れても、点にしてしまう。倒れたら、点を取られてしまう。それに対して倒れても点にはならないのは、どうなのでしょうか。どういうところで倒れるのかという問題ですから、一概には言えませんが、ミスがミスのまま許されていては、進歩はありませんとだけ言っておきます。

さらに、フットボールウィークリーとしては、セルジオ越後が3.11直後にコラムで書いた「サッカーは倒れた人の分まで走るスポーツ」という言葉を忘れることはありません。これは逆に言えば、倒れないことが大事なんだということでもあるのです。倒れないサッカーをよろしくお願いします。

【刈部謙一】