プロ野球は、25日に行われた東京ヤクルトスワローズ広島東洋カープの第24回戦をもって、今季のレギュラーシーズンの全日程を消化した。セリーグは中日ドラゴンズ、パリーグは福岡ソフトバンクホークスが連覇を果たした。
 両リーグではそれぞれ、日本シリーズ出場を賭け、29日からクライマックス・シリーズが開幕する。

 今季のプロ野球の話題の中心は、12球団統一球だろう。従来に比べ打球の飛距離が伸びないとされる、いわゆる飛ばないボールで、今季は開幕前から本塁打数の減少が予想されていた。
 今回は、12球団統一球がペナントレースに与えた影響を振り返りたい。

 まず本塁打数だが、やはり、セパ両リーグともに前年を大きく下回った。セリーグで前年比43.8%減485本、パリーグで38.8%減454本だった。

 12球団を見回しても、チーム本塁打数が100本を上回ったのは、108本読売ジャイアンツと、103本埼玉西武ライオンズの2球団のみ。昨年はセリーグで全6球団、パリーグでは北海道日本ハムファイターズ東北楽天ゴールデンイーグルスを除く4球団で大台を記録していた。

 今季の大台越えはジャイアンツとライオンズの2球団のみだったが、ライオンズの103本のうち48本は、主砲の中村剛也によるもの。また、千葉ロッテマリーンズ46本で、チーム本塁打数で中村の個人記録を下回った

 その他の成績でも、前季から今季にかけ、投高打低の傾向が明確に出ている。

<セリーグ>
・リーグ平均打率
 .267→.242
・リーグ平均出塁率
 .330→.303
・リーグ平均長打率
 .410→.340
・リーグ合計本塁打数
 863本→485本
・リーグ合計得点数
 3,724点→2,718点
・リーグ平均防御率
 4.13→3.06
・リーグ合計失点数
 3,879点→2,857点

<パリーグ>
・リーグ平均打率
 .271→.251
・リーグ平均出塁率
 .335→.309
・リーグ平均長打率
 .403→.348
・リーグ合計本塁打数
 742本→454本
・リーグ合計得点
 3,858点→2,945点
・リーグ平均防御率
 3.94→2.95
・リーグ合計失点数
 3,703点→2,806点

 前季と今季では、各球団で選手が多少入れ替わったかもしれないが、新球場が開場したり、大規模な改修工事で、スタンドまでの距離が伸びたわけではない。ストライクゾーンが若干広くなったが、大幅なルールの見直しは無かった。
 大きく変わったのは、使用するボールが統一球に改まっただけだが、それだけでこの成績である。改めて、統一球の威力がわかる。まるで、野球が違うスポーツになってしまったかのようだ。

 そうなると、今季の選手たちの成績をどう評価すべきなのだろうか。セリーグでは今季、防御率1点台の先発投手2人吉見一起内海哲也)、パリーグでは4人田中将大ダルビッシュ有和田毅杉内俊哉)も生まれた。前季は、両リーグ合わせて、ダルビッシュ1人だった。

 また田中にいたっては今季、最多勝利最優秀防御率最優秀投手最多完封投手4冠を獲得した。
 彼らの成績には万感の拍手を送りたいが、一方で統一球の恩恵もあるのでは、とも見てしまう。

 打撃に関してもそうだ、パリーグでは今季、中村が48本塁打本塁打王を獲得したが、ホークスの松田宣浩25本塁打で中村には大きく差をつけられたものの、前季の19本塁打を上回った。
 両選手とも、統一球の影響を物ともしない成績を残したが、もし前季までのボールを使用していたら、中村は日本記録となる56本塁打を放ったのだろうか、松田はさらに本塁打数を上積みしていたのだろうか、と想像してしまうファンは少なくないだろう。

 われわれファンは、時代を超えて選手を比べることが多い。西鉄ライオンズ稲尾和久、ジャイアンツの江川卓近鉄バファローズ野茂英雄、ライオンズの松坂大輔、そしてファイターズのダルビッシュとでは、誰が最も優れた投手なのか。最強左腕は、国鉄スワローズなどで活躍した金田正一か、阪神タイガース江夏豊か、それともホークスの杉内・和田か。ジャイアンツ時代の王貞治、タイガースのランディ・バース、バファローズのタフィ・ローズ、ライオンズ時代のアレックス・カブレラ、中村で打線を組んだら、一体何本の本塁打が飛び出すのか・・・。

 こんな空想ができるのも、プロ野球の記録が現在まで、脈々と続いているからだ。ルールが見直されれば、その時点で、過去と現在の選手の比較が難しくなる。
 そして今季、ルール変更に匹敵する威力をもった統一球が採用され、われわれファンは過去と現在の選手を単純に比べることが難しくなってしまった

 ジャイアンツの渡邉恒雄会長は先日、統一球の見直しを提言。これに呼応する形で、セリーグは統一球の影響を改めて調査する。一部報道ではさらに、調査の結果次第では、統一球が改まることを示唆している。

 個人的には、統一球の成否を決めるのは、まだ時期尚早だ。観客動員数への影響も、後数シーズン経過してからでも遅くは無いだろう。

 だが、今季、統一球を採用したことで、プロ野球の歴史が大きく変わり、ファンは過去との共通言語を失ってしまったことはたしかだ。