チャンピオンズリーグベスト4に進出したシャルケ04。最近のメルマガで僕は、新監督のラングニックを讃えた。準々決勝で前回覇者のインテルを倒したその陰に彼の采配力ありと述べたわけだが、シャルケの中で、もっと大きな意味で讃えるべきはラウール・ゴンサレスになる。

文字通りのチャンピオンズリーグ男だ。ミスター・チャンピオンズリーガーとさえ言いたくなる。これまで奪った通算ゴール71は、歴代ナンバーワンの数字だ。ちなみに2位は、56ゴールのファンニステルローイ。両者の間には15ゴールもの開きがある。ラウールがダントツのナンバーワンというわけだが、得点率の高さにも目は奪われる。出場試合数は142。つまり、2試合に1点の割合でゴールを決めている。

それだけではない。この話の価値は、バリバリのセンターフォワードではない選手が残した数字であるところに見て取れる。ラウールはいわゆるセカンドストライカータイプの選手だ。4−4−2なら4−4−「1」−1の「1」的な選手になる。サイドハーフもこなすことができる。4−4−2の「4」の左右、4−2−3−1の「3」の左右も、普通にこなす。

パスの送り手にも、受け手にもなれるユーティリティ性の高い選手、器用な選手というわけだ。そのうえで、チャンピオンズリーグという晴れの舞台で、2試合に1試合ゴールを叩き出してきた。他の追随を許さぬ圧倒的なゴールを挙げてきた。

左利きながら左利きにありがちな、相撲や柔道で言うところの「半身」の体勢をあまり作らないところが最大の特徴で、つまりクセがないため、相手に進路を読まれにくい。ボールを身体の真ん中に入れて前に運ぶので、右へ行くのか、左へ行くのか、最後の最後まで分からないところに、一番の魅力がある。柔らかいのに鋭い。ミスターチャンピオンズリーガーの特徴を一言でいえばそうなる。

問題は、その評価が必ずしも高いものではないということだ。チャンピオンズリーグでこれだけ結果を残しているのに、欧州年間最優秀選手(現FIFAバロンドール)に一度も輝いたことがないという事実に、僕は怒りさえ込み上げてくる。彼の熱狂的なファンというわけではないのに、だ。あまりにもアンフェア。主催するフランスフットボール紙並びに投票権を持つ人たちの、失態、汚点と言わざるを得ない。

ラウールがバロンドールに最も近づいたのは2001年。この年ラウールは、140ポイントを獲得し、2位になっている。トップのマイケル・オーウェンに36票及ばず次点に泣いたのだが、僕にはそれが正しい判断だったとはとても思えないのだ。

もちろん、いま初めて異を唱えているわけではない。当時から、声を大にして言っている。いまシャルケで活躍する彼を見ると、もう一度改めて声を大にしたくなる。

オーウェンはその後、レアル・マドリーに移籍。ラウールとともにプレイしたが、2人のプレイの優劣は、一目瞭然になった。どう贔屓目に見ても、オーウェンはラウールに36票差を付けて欧州ナンバーワンに輝く器には思えなかった。

オーウェンの強みは、98年フランスW杯にある。その準々決勝対アルゼンチン戦のゴールが、多くの投票者の脳裏に鮮明に焼き付いていたに違いない。彼に投票する動機は、これで一気に上昇した。ラウールとの差はここで大きく付いたものと思われる。

片やラウールは、スペイン代表としてフランスW杯に出場したものの、グループリーグ落ちの憂き目に遭う。ラウールの問題は、スペイン代表選手としての印象が弱かったことにある。皮肉なことに、ラウールが代表から去るのと時を同じくするように、スペイン代表に栄光が訪れた。ユーロ2008、南アW杯でスペインは立て続けに優勝(しかも初優勝)を飾った。

2010年から、欧州年間最優秀選手賞=バロンドールは、FIFA年間最優秀選手賞と合体。投票者がよりワールドワイドになった。チャンピオンズリーグより、代表チームのプレイが、投票により反映されやすくなっている可能性は高い。それは決していいことではないと思う。ヨーロッパで活躍していない名選手は、この時代まずいない。だが、投票権がワールドワイドになれば、それが良く見える状態にはない人にも投票権が与えられることになる。

ミーハー的になる可能性も高い。ある象徴的なゴールが、必要以上に評価を高める可能性がある。98年のオーウェンのゴールのように。

第2、第3のラウールが現れないことを僕は願うばかりだ。「FIFAバロンドール」は、そういう意味で心配だ。この世界に一番求められているフェアな精神に、欠けているような気がしてならないのだ。


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