コートジボワールのエース、ディディエ・ドログバが日本との練習試合の前半に負傷した6月4日――。レキップ紙のエルヴェ・ペノ記者は、この日を忘れがたい1日として振り返っている。

 というのも、シオン(スイス)の病院で診断を受けた直後のドログバを直撃して「W杯には出られない」というコメントをとり、世界に先駆けて「ドログバW杯絶望」の第一報を打電した張本人だったからだ。

 ドログバはこのとき、「ケガには慣れているよ」と気丈に笑顔で答えたという。その後、日本戦を終えたばかりのチームメイトたちを控え室に訪ね、診断の結果を報告した。のちに伝えられたところでは、選手たちは主将の非常に感動的なスピーチを厳粛な雰囲気で受け止めた。この時点では、誰もが主将抜きでW杯を戦う覚悟を決めたはずだ。

 しかしそれからわずか1時間後には、ドログバの右腕の手術が可能で、順調ならば10日後にはプレーできる状態になることが判明。記者の携帯電話には夜になっても問い合わせが殺到した。電話からはとくにコートジボワール全体の大きな動揺ぶりを感じ、あらためてドログバが“母国の夢”を一身に担う偉大なスターであることを認識させられたという。

 そして翌5日、ドログバの手術は無事成功した。その道の権威といわれる2人の名医が執刀し、15日の初戦ポルトガル戦に出られ可能性が高いとの楽観的な所見を示された。ドログバは7日、スイスで合宿をつづけるチームメイトに合流している。コートジボワール代表の広報は「彼が回復する望みは非常に高い。我々は“エレファンツ”(コートジボワール代表の愛称)のキャプテンが練習を再開する日も近いと希望を抱いている」との声明を発表した。

 1月のアフリカネーションズカップでは、個々の能力は高いものの、チームの結束力に不安があると指摘されたコートジボワール。しかし、ペノ記者は主将の負傷でチームに一体感が生まれたと指摘する。そのリーダーがケガを押して出場に執念を燃やすとなれば、チーム一丸のムードはさらに高まるだろう。また仮にドログバの調子がいまひとつでも、代役のセイドゥ・ドゥンビア(BSCヤングボーイズ=スイス)の活躍が大いに期待できると見ている。アフリカ初のW杯で“エレファンツ”がドラマを盛り上げてくれそうだ。