戦前は近衛文麿のブレーン、戦後は吉田茂の懐刀として活躍した一人の日本人を、ご存知だろうか。
マッカーサーを叱り飛ばし、ＧＨＱからは「従順ならざる唯一の日本人」と呼ばれ、日本ではじめてジーンズをはいたといわれる「風の男」白洲次郎。
いまだ謎の多いジェントルマンの生涯を、満を持してＮＨＫが描く。全３回。
脚本・演出は「ハゲタカ」の大友啓史。主役の白洲次郎を、テレビドラマ初出演となる伊勢谷友介が好演している。

「カントリージェントルマンへの道」と副題がついた第一回は、次郎の神戸一中時代からイギリス留学、帰国後、妻・正子（中谷美紀）との出会い、開戦までがテンポよく描かれている。細部まで作り込まれた映像はまるで映画を観ているようで、疾駆する車のシーンは「アラビアのロレンス」を、次郎の父・文平（奥田瑛二）の死の情景は「ゴッドファーザー」を思い出させる。
イギリス留学時代の回想を、音楽とモノクロ写真のような映像だけでみせる場面は斬新。エンドクレジットでは、ヨーロッパ大陸旅行を思わせる美しい風景が流れる。

白洲次郎の青年期を描いた第一回、日本が戦争へと巻き込まれていく過程で政治はどう動いたのか、その中で白洲次郎という男はどうあがいたのか。
ブリティッシュスーツに身を包んだ伊勢谷友介の姿はどこまでも端整。次郎の妻・白洲正子を演じる中谷美紀と並んだ姿は、絵になるほど美しい。
イギリス留学で見聞を広め、ほんものの紳士道を身につけた次郎。
心の故郷イギリスと日本との戦争を食い止めるべく奔走するが、流れは止められない。国を挙げて戦争ムードに沸き立つなか、誰よりも早く都心を離れ、疎開先で農業をはじめる次郎。
次郎の言う「高貴なる義務」を背負っている自覚ある政治家が、今の日本にいるだろうか。六十年ほど前の日本と今の日本と、少しも変わっていないのではないか。

続きを心待ちにするドラマは久しい。
風のように生きた男・白洲次郎の物語は今の時代、人々の心にいったい何を映すのだろう。

（編集部　松本直樹）

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