ドイツ西部の産業・学術都市として有名なハイデルベルクから数十km離れたところにホーフェンハイムはある。人口、3272人。この小さな町のクラブ、TSG1899ホーフェンハイムが来季ドイツ1部ブンデスリーガへ昇格する。

 しばらく前から、その名はドイツ国内でささやかなフィーバーを起こしていた。何せミニマム共同体の短期間での大躍進である。
 転機は1991年だった。デットマール・ホップという51歳の男がいた。ビジネス・ソフトウァア界の巨人『SAP』社の創業者の一人で、ホーフェンハイムの出身だった。彼は生まれ故郷のクラブを救うことを決心したのだ。

 コーチ、選手を毎年上位リーグから補強していくやり方で、成果は着実に現れ始めた。2003-04年、バイヤー・レバークーゼンを倒してドイツ杯ベスト8進出。機は熟した、と見たホップは2006年、“ブンデスリーガ昇格プロジェクト”を本格的に発動させた。シャルケ04などを率いたラルフ・ランニック監督を招聘して足がかりを固め、今季ついに1部昇格を勝ち取ったのだ。

 大富豪の享楽か、と思われるかもしれない。だが、ホップには生まれ故郷への郷愁だけでなく、ホーフェンハイムで自身がかつてプレーし、しかもアマチュアリーグの最下層まで降格させてしまったという悲しい過去もあった。クラブへの愛情は本物なのだ。そうでなければ、住民たちがホーム・スタジアムに功労者として彼の名を冠することを許すわけがない。

 こじんまりとしたホームに入るのはせいぜい6500人程度。当然ブンデスリーガのスタジアム基準を満たしていないため、来季前半戦は近郊マンハイムのスタジアムを間借りすることになる。だが、ホーフェンハイムの住民たちが肩身の狭い思いをするのはクリスマスまでだ。来年の1月には、ホップからとびきりのプレゼントが届くことになっている。収容人数3万人、総工費6000万ユーロ(約96億円)をかけた、ぴかぴかの新スタジアムだ。