従業員が働いた分の給与は「後払い」とする場合が多いですが、退職後の給与を会社の独自基準で減額したりする事はトラブルを招き、法律にも抵触します。今回、現役社労士の飯田弘和さんは、自身の無料メルマガ『採用から退社まで! 正しい労務管理で、運命の出会いを引き寄せろ』で、経営者でも勘違いしがちな労働法違反になる誤った賃金未払いのケースなどについて詳しく解説しています。

御社では、退職者と頻繁にトラブルになっていませんか?

退職する従業員としょっちゅうトラブルになる会社があります。トラブルになる理由は様々ですが、頻繁にトラブルとなるような場合、おそらくは、会社の対応に何らかの問題があるのでしょう。

日払い賃金でない限り、労働日と賃金支払い日にはタイム差があります。ですから、退職後に賃金の支払日が来ることが普通ですが、この賃金を支払わない会社があります。

会社としては、辞め方に納得がいかないこともあるでしょう。いきなりバックレてしまった従業員。会社に損害や損失を与えたまま辞める従業員。退職を引き止めたにもかかわらず辞めていった従業員。社長に文句を言って口論となり辞めていった従業員。

それでも、賃金はきちんと支払わなければなりません。どんなに辞め方が気に入らなくても、働いた分についてはきちんと支払わなければいけません。それを支払わなければ当然トラブルになります。賃金未払いとして労基法違反ともなります。一方的に減額した賃金を支払う場合も、その減額分は賃金未払いとなります。また、民事上の請求権として、遅延損害金・遅延利息が付くことになります。

賃金を支払わないことについてのよくある言い訳が、社用車をぶつけた修理代や会社の備品を壊した弁償費用、新たな従業員を募集する費用や育成する費用などを、支払うべき賃金と相殺するというもの。しかし、そのような費用を、賃金から一方的に控除することはできません。労基法の賃金全額払いの原則に反します。

修理代や弁償費用については、当事者同士で、その費用の負担割合を決めることになります。全額を労働者に負担させるべきものではありません。個々の事案によって、従業員の過失の程度や会社がどれだけ防止のために尽力していたかが異なるでしょうから、まずは当事者同士で話し合い、話し合いがつかなければ裁判で決着をつけるものです。ただ、裁判例をみても、従業員の故意または重過失でない限り、全額を従業員に費用負担させるのは困難です。

新たに従業員を募集する費用や育成する費用を従業員に負担させることなどまったく認められません。そのような費用は、当然に会社が全額負担すべきものであって、それを辞めていく従業員の賃金から控除することなど認められません。

このような主張を平気で行う経営者は、自らの利益だけを貪り、リスクはすべて従業員に押し付けているのです。そのような人はそもそも、経営者には向かないでしょう。経営者としての視点、経営者としての自覚・覚悟が全く足りません。経営者であれば、経営者としての責任や義務をしっかり果たしていくことが重要です。

以上を踏まえて、改めてお聞きします。

「御社では、退職者と頻繁にトラブルになっていませんか?」

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