駅やSAのお土産として人気が高まっている、ロールケーキのアリンコ、小石川工場前店舗。洋菓子店のパラディとアリンコの2店及び、昼はカフェ、夜はバー営業を行うBLUE BARも同居している(筆者撮影)

駅やSAでお土産として人気が高まっている

スイーツはまず見た目の美しさで人を魅了し、食べると甘さや食感で心をリラックスさせる。スイーツを食べるひとときは人を幸せにする。だからこそ、古今東西、プレゼントや手土産にスイーツが贈られるのだろう。そんな手土産の1つとして、最近、手土産、ロールケーキで検索すればトップにヒットするぐらい話題となっているのがARINCOというブランドのロールケーキだ。

同ブランドの目玉である、ツヤツヤのグラサージュ(砂糖衣)がかかったロールケーキはまず見た目のインパクトが大きい。それも“驚愕”系ではなく、目を楽しませる癒やし系のインパクトだ。かわいらしい“ありんこ”のイラストロゴと相まって、心に残る。

京都嵐山、東京駅、小石川、舞浜の直営店のほか、主要駅やSAにも出店。店舗によってそれぞれ限定品を設定しており、限定品は他の店舗では手に入れられないという希少性も、同ブランドのプレミアム感を高めている。いったいどんな企業が運営しているのだろうか。

調べてみると、実はスイーツの専門店ではなく、飲食店経営を行うバルニバービという会社。大阪のレストランから始まり、現在は東京・大阪・京都を中心に82店舗を運営する。といっても、チェーン展開ではなく、同じブランドであってもコンセプトやメニューさえ店舗ごとに変えているため、バルニバービという企業のカラーは前面に出ていない。

そのレストラン運営の会社が、なぜスイーツのブランドを展開することになったのだろうか。

「大阪のレストランで提供していたエンゼルフードケーキがお客様に非常に好評で『家でも食べたい』『テイクアウトにしてほしい』というご要望が高かったんです。エンゼルフードケーキはふわふわの生地に生クリーム、キャラメルソースがかかったもので、ショートケーキの形ではお持ち帰りいただけません。それで、ロールケーキになったのです」(バルニバービ 広報担当福地恵理氏)

つまり、クリームなどを生地でくるりと巻き込んだロールケーキであれば、やわらかい生地も、クリームも型崩れさせることなく、持ち帰ることができるというわけだ。

ロールケーキ専門のブランドとして2007年にアリンコを立ち上げ、第1号店として嵐山本店をオープンした。観光地という土地柄を踏まえ、ロールケーキのほかに食べ歩き用の「アリンコサンド」も販売したことがヒットし、あっという間に有名店に。

2008年に東京駅一番街、2010年に文京区小石川、2014年に舞浜のイクスピアリ内と展開を進める。その他、各地のSAなど地方への出店も広げ、現在、名古屋駅、羽田・徳島・出雲各空港、有磯海SA(下り)、談合坂SAなどで地域限定のロールケーキを購入することができる。

土地土地の魅力ある食材を発掘して使用

冒頭にも述べたが、同ブランドの大きな特徴がご当地色を強く押し出していることだ。

「北陸道のサービスエリアの店舗では、加賀の五郎島金時、福井のコシヒカリの米粉などを使ったロールケーキを地域限定商品としています。名の知られた食材のほかにも、小さな農家さんが一つひとつ丁寧につくっている桃など、土地土地の魅力ある食材を発掘して使っています」(福地氏)

理由は、一つには、社の一本通った方針である地域密着、地方創生という考え方から。また、バルニバービという会社はもともとスタッフの自主性を大切にしていることから自由度が高く、店づくりやメニューも店舗発信で検討されているため。スイーツのブランドに関しても、スイーツを開発するパティシエが活躍する場を設けることを第一の目的としているようだ。

「その結果、ありがたいことにお客様に喜んでいただけて社の利益にもつながるということになっています。もっとも、地域密着展開によって、地元の方がファンになってくださることも大きいようです」(福地氏)

そのことを示すのが、小石川工場前店のオープンにまつわるエピソードだという。現地では2008年より工場のほか同社のイタリアンレストランも展開していたこともあり、以前から地域との信頼関係を築いてきていた。街路樹としてオリーブを植える活動を先導したり、ゴミ拾いなどのイベントにも積極的に参加するほか、工場で出るロールケーキの端切れを安値で販売するなどもその1つだ。

「オープンの日は2月で、雪が降ってとても寒い日でしたが、300人の行列ができました」(福地氏)

客数はアリンコで最も売れる東京駅で通常日に130人、クリスマスなどのシーズン期で200人弱とのことなので、300人の行列が同店にとっていかに大きいことかがわかる。小石川工場前店は用事のない人はまず通らない住宅街にあるのでなおさらだ。

客層は店によってまったく異なり、嵐山本店ならば観光客、東京駅では意外にも、サラリーマンが多いそうだ。

「奥様へのお土産として買っていかれるようです」(福地氏)

駅や空港、SAなどへの出店が多いにもかかわらず、実はアリンコのロールケーキ、お土産としては大きな欠点が2つある。1つには、賞味期限が購入した日の翌日と短いこと。もっともこれに関しては、「滅多に食べられない」というプレミア感をより高める要素かもしれない。

デメリットの2つ目は、切り分ける必要があり、贈る相手を選ぶことだ。

「個包装ではなく切り分けするのはお土産として利便性が低いかもしれませんが、一つのケーキをカットしてみんなで食べる行為には温かみが感じられます。ご家族はもちろん、会社などでも団らんの時間に食べていただきたいなという気持ちがあります」(福地氏)

確かに、ロールケーキというと、昔懐かしい家庭のイメージも感じられる。個別包装されたものをそれぞれ食べるより、切り分けて食べるほうがコミュニケーションが生まれやすい。ナイフを入れたときに美しい断面が見えるのも、イベント性を高めてくれる。

現地に行かないと買えない種類がある

なお、アリンコのロールケーキは直径8.5cm長さ11cmで、少人数の家庭にちょうどよい大きさ。例えば夫婦だけの家庭なら、その日に1切れずつ、翌日また1切れずつ食べてなくなるぐらいだ。このように、一見、お土産としては不利な点も、「苦労してでも食べたい」という付加価値に転換されている。

ただ価格自体は、定番のバニラが905円、キャラメルロールが1429円といったように、1000円から1500円に収まる程度で、気軽に買える価格に設定されている。

そして付加価値をもっとも高めているのが、「現地に行かないと買えない種類がある」というご当地カラーだ。定番のバニラ、抹茶、黒豆入りの京ロールのほか、四季の限定品、クリスマス、バレンタインデー、ホワイトデーの10種類は全店で購入可能だが、残りの14の地域限定品はその店でしか入手できない。

なお、東京駅限定品はトーキョーキャラメルロールプレミアムと塩キャラメルロール。塩キャラメルの塩はイタリア産なので、東京駅に関しては、食材というよりは、東京の都会的なイメージを込めたということだろう。


つややかなグラサージュ(砂糖衣)がかかった美しくおいしそうな外見もインパクト大。写真は東京駅店限定の塩キャラメルロール1429円(写真:アリンコ)

各地で販売されているロールケーキは、東京・小石川工場にて一手に製造。ただし、東京駅限定の「トーキョーキャラメルロールプレミアム」のみ、店舗内で製造しているそうだ。各地のこだわり食材を仕入れて製造し、冷凍して販売店へと送る流れだ。そのため実は東京にはアリンコのすべてのロールケーキがそろっていることになる。

これまでブランドの周年イベントとして、東京ステーション店で全種類を販売するイベントを期間限定で展開したことがあるそうだが、今後は開催するかも含め未定だそうだ。

また、アリンコの公式ホームページには定番と限定商品の種類と説明が掲載されているが、すべてが網羅されているわけではないようだ。例えば、4月上旬までの期間限定品が桜ロール(1286円)。また5月頃にはチョコミントロールが夏限定で発売される予定だそうだ。

小石川工場でスイーツ部門を取り仕切っている川村氏によると、「チョコミントロールこそ、まさにパティシエの発信で開発された商品」(パティスリー ド パラディ取締役川村礼子氏)とのこと。アリンコでは新しい商品を検討する際に地域の食材から発想を広げていく場合が多いのだが、チョコミントに関しては、まず味のアイデアから開発をしていったという。

「チョコミントは昨年の夏に発売しました。流行した時期があったものの、スーッとした味が苦手だという人も多く、賛否の意見が社内でもありましたが、案に相違してかなり反響が高かったです。それで、今年も発売することにしました」(川村氏)

ちょっと考えただけでも、ロールケーキにチョコミントはあまり合いそうにない。そのぶん逆に、「どんな味なのか」という興味が高まる。

春の商品を試食

春の商品であるシーズンロール「春」と、桜ロールを試食してみた。


写真は季節限定のシーズンロール「春」1429円(左)と桜ロール1286円(筆者撮影)

シーズンロールは、いちごクリームに、求肥、黒豆という組み合わせが特徴だ。まず、生地がきめ細かいのに驚く。生地の色が白いのは生地に卵黄を使っていないためだろう。いちごクリームにちょっと酸味があって、味わいを引き締めてくれる。求肥のもちっとした食感もアクセントになっている。

桜ロールのほうは、シーズンロールよりやや甘さが勝っている感じだ。生地に巻き込まれている桜色のあんこには、桜餅風にほんのり塩気があり、甘さを引き立てている。いずれもほうじ茶といっしょに食したいような、和風の香りがするロールケーキに仕上がっている。

なお、ほかの季節についても、夏は桃とクリームチーズ、秋は和洋の栗、冬はシナモンとリンゴと、季節の果物を取り入れつつ、アリンコならではのこだわりを詰めたロールケーキとなっている。毎年楽しみにしているリピーター客もいるそうだ。

さてバルニバービではアリンコを含めて、3つのスイーツのブランドを展開している。パラディは「懐かしくて新しい」をコンセプトとしたスイーツのショップ&カフェで、スコーンやマドレーヌのような焼き菓子や、ショートケーキのような定番ケーキをそろえる。

「花のババロア」は食用の花を用いたフォトジェニックなババロアの専門店だ。

ホワイトデーなどや記念日に、女性へのプレゼントによく購入されるという。ドーナツ型の直径15cmの「ブーケ=花束」から、70mmの「フルール=花」、35mmの「ペタル=花びら」の3サイズがラインナップ。ホールサイズのババロアもゴージャスだが、ミニサイズもかわいらしい。食べやすく、値段的にも気軽に贈ることができそうだ。ほかでは入手が難しい、付加価値の高いスイーツとあって、母の日などのイベント日には大きいサイズの「ブーケ」が日に200台以上出るほどの人気だそう。


フォトジェニックな花のババロア。「ブーケ」(税別2600〜3200円)のほか、サイズの異なる「ペタル」(1800〜2000円)、「フルール」(380〜400円)などもラインナップ。また季節ごとに限定品も発売される(写真:アリンコ)

大手チェーンとは逆の発想で独自性を発揮

このように、同社では店舗ごと、地域ごとにカラーを出していくという、大手チェーンとは逆の発想で独自性を発揮しているようだ。スイーツの事業会社のほか、レストラン&カフェを運営する会社などが全17社あり、グループを形成している。立地、ブランドも店舗ごとに異なるため、社内でのコミュニケーションはITツールを使って緊密に行い、店舗横断で意見のやりとりをしているという。

「ある店舗で開発したメニューの画像でアップして、ほかの店舗もそのアイデアを取り入れたりということはよくあります」(福地氏)

社員や個店発信の企業風土だからこそ、風通しがよく、自由な発想やよい流れを生みやすいのだろう。なお同社は飲食店のほかにも披露宴・パーティの企画なども手掛けており、年間のグループ売り上げは111億8500万円(2018年7月期)。2014年の売り上げに比較し2倍近くまで成長してきている。地域の小ぢんまりとしたスイーツ屋さんは仮の姿。実は勢いのよい急成長企業だったのだ。