「1,000円カット」で広く認知されるQBハウスが、通常料金税込み1,200円に引き上げられることが発表され話題となっています。11%もの値上げ率は客離れにつながることはないのでしょうか。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、今回の値上げが同社にもたらす影響を様々な側面から検証、今後のQBハウスの行く末を占っています。

1000円カットのQBハウス値上げへ。1200円は安いのか、高いのか?

「10分・1,000円(税抜き)」が売りのヘアカット専門店「QBハウス」が料金を値上げすると発表し、波紋が広がっています。

2019年2月1日に通常料金を税込み1,080円から同1,200に引き上げます。65歳以上が平日に利用できる「シニア料金」は同1,000円から同1,100円になります。値上げは消費税が8%に引き上げられた14年4月以来、2度目となります。

理美容業界では深刻な人手不足が続いています。QBハウスも例外ではなく、値上げにより従業員の待遇を改善するほか、離職した理容師の採用や育成を進め、人手不足問題に対処したい考えです。

人手不足はQBハウスが店舗網を拡大する上で大きな足かせとなります。10年前に比べると近年は出店スピードが落ちています。現在の国内店舗数は約540店で、店舗網を広げる余地はまだまだ十分にあるといえますが、人手不足が解消できなければ出店はままならず、今後の出店戦略に影を落とします。そのため、人手不足解消を目的とする値上げはこの場合、やむを得ないといえるでしょう。

ただ、値上げは客離れにつながるリスクがあるため、簡単にやむを得ないとは言えない側面があります。値上げがきっかけで経営が傾いた例は枚挙にいとまがありません。

たとえば、カジュアル衣料品店のユニクロは14年の秋冬商品を平均5%値上げし、15年の秋冬商品を平均10%値上げしたところ深刻な客離れが起きてしまいました。客足を戻すため、後に一部商品の値下げを余儀なくされています。

焼き鳥居酒屋の鳥貴族は昨年10月に全品280円を6%高い298円に引き上げたところ客離れが起きてしまいました。値上げを実施した10月の既存店客数は激減してしまい、翌11月こそわずかに前年同月を上回ったものの、翌12月から今年7月まで8カ月連続で前年を下回ってしまっています。既存店売上高も7月まで7カ月連続で前年を下回っており、厳しい経営状況が続いています。

値上げは客離れにつながります。一方で値上げは客単価を上げる効果もあり、上昇した客単価が引き上げる形で売上高が上昇するケースもあるため、値上げが必ず経営を傾けるわけではありませんが、鳥貴族のように売上高を下げてしまうケースが少なくないため、値上げは慎重に行う必要があるといえるでしょう。

そうしたなか、QBハウス値上げを断行します。客離れを最小限に抑えられるかが焦点となりそうです。

懸念は値上げ幅です。基本料金を1,080円から1,200円に値上げしますが、値上げ率は11%にもなります。低価格を売りとする商品・サービスを1割以上も値上げするというのはリスクが高いといえます。致命的な客離れにつながりかねません。

業態や状況が異なるため単純な同一視はできませんが、QBハウスより値上げ率が小さい「6%」の値上げをした鳥貴族が厳しい経営状況に追い込まれていることから、QBハウスも同様な状況に陥らないとも限りません。

QBハウスの売りとなっている「10分・1,000円」の看板が崩れることの影響も焦点となりそうです。1,200円に値上げすることで「1,000円」の部分が崩れてしまいます。その影響が小さくは済まない可能性があります。

ただ、今回の値上げは致命的な客離れにはつながらないでしょう。懸念されるリスクを挙げてはみましたが、諸状況に鑑みてそういったリスクは限定的と考えられます。客離れがまったく起きないわけではありませんが、客単価が上昇することで売上高の落ち込みを相当程度抑えることができるレベルの客離れにとどまると考えられます。

圧倒的な知名度があることと大きな脅威となる競争相手が少ないことから、11%という高い値上げ率でもそのまま利用し続ける人が多いと考えられます。「1,200円でもまだまだ安い」と考える人が少なくないのではないでしょうか。

もちろん、脅威となる競争相手がまったくいないわけではありません。全国に約700店を展開する大人のカット料金が1,296〜1,620円の「プラージュ」や200店弱を展開する同1,620円の「11cut」、約280店を展開する同1,080円の「サンキューカット」、約150店を展開するカット料金が1,080円の「クイックカットBB」など低価格を売りとする理美容店が全国各地に存在します。

しかし、QBカットは値上げしてもプラージュや11cutよりも安く、北海道を地盤とするクイックカットBBとは地理的に競合が少なく、いずれも脅威度はそれほど大きくはないといえます。サンキューカットやその他の理美容店に対しても、知名度などの観点からQBハウスの優位性が大きく揺らぐことはないでしょう。

これは、競争が激しい外食産業とは事情が異なるといえます。鳥貴族が客離れで苦しんでいるのは、同じ焼き鳥居酒屋である「三代目鳥メロ」などとの競争が激化したという事情があります。外食業界は似たような業態店が乱立しやすく客の移ろいが激しいという特徴があるため、少しの値上げでも客離れにつながってしまいます。一方、低価格を売りとする理美容店の競争環境は外食産業ほど厳しくなく、値上げに対する消費者の受容性は比較的高いといえるでしょう。

高い競争力を持つQBハウス。運営会社キュービーネットホールディングスの業績は好調です。18年6月期連結決算は、売上高が前年比7.3%増の192億円、本業のもうけを示す営業利益は同9.2%増の16億円でした。最終的なもうけを示す純利益は同1.8%増の10億円となっています。

国内店舗既存店売上高も好調で、18年6月期は前年比2.6%増となっています。月別では、今年5月こそ前年同月を下回ってしまったものの、それ以外の月は前年を上回っています。足元の7月も前年を上回りました。

値上げで得られる収益をもとに優秀な人材を確保することで高い品質のサービスを提供し続けることができれば、1,200円でも十分安いと思ってもらえることができるでしょう。そのため、価格もさることながら、質の高いサービスを提供し続けることができるのかが改めて問われることになりそうです。

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