毎年新製品が発表されるアップルのスペシャルイベント。写真は昨年9月に開催されたスペシャルイベントで発表されたiPhone X(筆者撮影)

アップルは米国時間6月4〜8日にカリフォルニア州サンノゼで開催した世界開発者会議「WWDC 2018」で、今秋公開予定のソフトウエアを披露した。開発者たちは、そのリリースに合わせ、新しい機能を盛り込んだアプリ開発に取り組むが、一般のユーザーの次の注目は、アップルが秋に発売することが見込まれる“次のiPhone”に移ってくる。

Wall Street Journalは、2018年モデルのiPhoneは3モデル用意されるというこれまでの“うわさ”を共有したうえで、液晶ディスプレーを採用する最も価格が安いモデルが、その販売の大半を占めるとの予測を出した

iPhone Xは高すぎた?

アップルはラインナップの中で、週次で最も販売台数が多いモデルがiPhone Xだったことを明かした。米国で999ドルから、日本では11万円以上の価格で販売されるiPhone Xの販売台数が最も多いことは、台数が微減であっても売上高を伸ばす原動力となっている。2018年第2四半期決算前後で流れた「iPhone X不振」も払拭してみせた。

しかし、高いiPhoneが売れ続ける、とも考えていないようだ。

著名アップルアナリストでKGI証券からTF International Securitiesに移籍したミンチー・クオ氏は、2018年モデルのiPhoneについて、5.8インチ有機ELディスプレーモデルを100ドル前後値下げし、6.5インチ有機ELディスプレーモデルを現在のiPhone Xと同等かそれより安い価格に設定すると見ている。

加えて、6.1インチ液晶ディスプレーを備えるiPhoneを600〜700ドルで用意するというのだ。600ドル台のiPhoneは、ちょうど4.7インチ液晶ディスプレーを備えるiPhoneと同じ価格帯となる。2016年モデルのiPhone 7は発売後1年半を経過しても売れ続けている。

これまで新製品としては4.7インチ、5.5インチで用意してきたモデルを統合し、6.1インチ液晶モデルとして最も手に取りやすい価格のiPhoneとして用意する、というのが2018年の戦略だと見られている。

ミンチー・クオ氏をはじめとするアナリストの2018年モデルiPhoneの予測は一致しており、2つのサイズの有機ELディスプレーモデルと、1つの液晶モデルという展開だ。

それぞれのモデルは顔認証に対応するTrueDepthディスプレーを搭載し、ホームボタンを持たないiPhone Xと同じ使い勝手を実現すると考えられている。

2017年のモデルにおいてはTrueDepthカメラ搭載モデルはiPhone Xに限られていた。そのため、iOS 11の売りである顔認証や、絵文字にアニメーションを付けられるアニ文字といった若い世代にも人気が出そうな機能が、最も価格の高いiPhone Xでしか利用できない、というちぐはぐな状況を生み出していた。

TrueDepthカメラは全モデルに搭載へ

2018年の新モデルはTrueDepthカメラ搭載モデルのみとし、価格の安いモデルでもこういった機能に対応することで、アップルが推したい拡張現実を取り入れたコミュニケーションを広げていくことになるだろう。

ただし新モデルは、有機ELディスプレーではない、縁まで届くディスプレーを搭載するものとなると考えられている。昨今日本や中国のメーカーは、縁が非常に狭い液晶ディスプレーを採用するスマートフォンをリリースしてきた。液晶ディスプレーの品質も十分で、有機ELディスプレーでないことが大きな問題になりにくくなっている。

ただし差別化のため、iPhone Xで採用されたステンレスのフレームがアルミニウムになったり、2つ用意されていたカメラが1つになるなど機能が限定される可能性についても指摘されている。

手に取りやすい価格で登場すると見られる液晶ディスプレーの全画面iPhone。しかしこれまでとは異なるモデルの選びにくさも出てくるかもしれない。

今まで、iPhoneの価格体系は明快だった。画面が大きく、容量が大きくなればなるほど、価格が上がる、というものだ。iPhone Xが登場し、1年で3モデルを発売した2017年でも、5.8インチと最も画面サイズが大きなiPhoneが最も高い価格となるルールは踏襲されていた。

しかし2018年は、5.8インチのディスプレーを備えるiPhone Xの後継モデルより、画面が大きな6.1インチの新モデルのほうが安価に設定される可能性がある。加えて、より小さなモデルを希望する人に、これまでのように最も安い価格で提供されるわけではなくなる。

iPhone Xは、4.7インチのiPhone 8寄りのサイズではあるが、iPhone 8より大きく、5.5インチのiPhone 8 Plusより小さかった。ケースを付けたiPhone 8とiPhone X本体が同じような握り心地だったが、高価なiPhone Xを裸で使うケースは少ないため、同じようにケースを付ければ当然iPhone Xのほうが大きくなる。

「画面が小さい=安い」という構図が崩れる

一方、6.1インチモデルはiPhone 8 Plusのようなサイズで登場すると考えてよいだろう。画面の縁取りが小さくなる分、より大きな画面を搭載できるからだ。そして、このモデルが最も安いと見られる。


有料メルマガ「松村太郎のシリコンバレー深層リポート」ではシリコンバレーの詳細なリポートをお届けしています。購読申し込みなどの詳細はこちら

つまり新型iPhoneで最も小さなモデルを使いたい場合の選択肢はiPhone Xとなり、2番目に安いモデルになるのではないか、と考えられるのだ。

別の見方をすれば、iPhoneの価格を安く抑えたいと考えている人が、必ずしもいちばん小さい画面のモデルを選ぶわけではない、ということにもなる。

価格が安い大画面か、わずかだがコンパクトさを求めて追加料金を支払うか――。実際に新しいiPhoneが登場し、触ってみなければわからないことではあるが、サイズと価格のバランスがこれまでとは変わるため、iPhone選びはより難しくなるのではないだろうか。