サッカー日本代表直前合宿。合宿地のオーストリア、インスブルック郊外のゼーフェルトに到着し、調整する(前列左から)長谷部、GK川島、槙野ら日本イレブン。現地時間6月2日(写真:共同通信社)

5月30日の壮行試合・ガーナ戦(日産スタジアム)を経て、31日に2018年ロシアワールドカップ本大会に挑む最終登録メンバー23人が正式に決定。6月3日からオーストリア・ゼーフェルトでの直前合宿がスタートしている。

今回の23人を見ると、2010年南アフリカ大会経験者が5人、2014年ブラジル大会経験者が11人に上り、平均年齢も28.3歳と日本が参戦した6回のワールドカップで最高齢。


左足首のケガで5月21日からの国内合宿で出遅れを余儀なくされた岡崎慎司(イングランド1部・レスター)、右太もも前打撲で同じく国内合宿でほとんど練習ができなかった乾貴士(スペイン1部・エイバルから6月1日に同リーグのベティスに移籍)、2月からの3カ月間ドイツで公式戦から遠ざかった香川真司(ドイツ1部・ドルトムント)など、一時は当落線上にいると言われた海外組も順当に名を連ねた。

それだけ「実績」と「経験」が重視された選考だったと言っていい。4月に就任したばかりの西野朗監督にワールドカップのようなビッグトーナメントでチームを率いた経験がないため、日常的に世界基準を体感し、厳しい環境で戦っている選手たちの経験値に期待することが成功への早道だと考えたという見方もできるだろう。

選ばれた香川も4年前の初戦で日本に逆転勝ちを収めたコートジボワール代表のエースFWだったディディエ・ドログバ(アメリカ、フェニックス・ライジング)を引き合いに出し、「彼が試合に入って相手は生き返った。やはり実績や経験には強みがある」と3日のゼーフェルトでの練習後、改めて語気を強めた。

長友佑都(トルコ1部・ガラタサライ)も「年齢は関係ない」とネガティブな見方に反論していた。彼らの意地とプライドは、西野監督でなくても頼もしく感じる部分は少なくない。

ハリル前監督が起用した若手は軒並み落選

その一方で、ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督が抜擢した23歳の浅野拓磨(ドイツ1部・ハノーファー)、21歳の井手口陽介(スペイン2部・クルトゥラル・レオネサ)と22歳の三竿健斗(J1・鹿島アントラーズ)の若手3人が選から漏れる結果となった。

浅野と井手口はご存じの通り、2017年8月の最終予選・オーストラリア戦(埼玉スタジアム)で揃ってゴールを挙げ、ロシア切符獲得の原動力になった選手。ハリル監督も「本田圭佑(メキシコ1部・パチューカ)や香川を使わず、浅野や井手口のような若手を起用したことに多くの人が驚いただろうが、彼らの抜擢は成功だった」と満足そうに語っていたほどだ。

もちろん2人がその後も所属クラブでコンスタントに試合に出ていれば、西野監督も前任者と同じ選択をしたはずだが、今年に入ってから長期間出場機会を得られず、実戦から遠ざかったのが致命傷になった。

「現時点で彼らのトップパフォーマンスのイメージは描けなかった」と31日のメンバー発表会見でも落選理由を説明するに至ったのも、理解できないことはない。

ただ、近未来の日本代表の行く末を考えると若い2人がロシアに参戦しないのは大きなマイナスだ。最終予選で活躍した24歳の久保裕也(ベルギー1部・KAAヘント)や今季オランダ1部で9得点を挙げた19歳の堂安律(オランダ1部・フローニンゲン)らを含め、25歳以下のフレッシュな面々をもう少し加えるべきだったという意見も根強い。

緊急登板の西野監督は「ロシアで日本を勝たせること」しか考える余裕がないのだろうが、そもそもは技術委員長の大役を担っていた人物。だからこそ、2020年東京五輪や2022年カタールワールドカップも視野に入れてほしかった。

ロシアW杯後に若返りをはかれるのか?

同じアジアの韓国が20歳のイ・スンウ(イタリア1部、エラス・ヴェローナ)を抜擢し、イランも23歳のサルダル・アズムン(ロシア1部、ルビン・カザン)や21歳のサイード・エザトラヒ(ロシア1部・アムカル)らをチームの軸に据えているのと比較すると、日本の「守りに入りがちな選考」はやはり気がかりではある。ロシアの後、大胆な若返りを図れるのか否か。そこも少なからず懸念されるところだ。

とはいえ、今回のメンバー23人は決まった。彼らは13日までのゼーフェルト合宿でコンディションを上げるとともに、本番仕様の戦術面の徹底を図っていくことになる。8日にはスイス、12日にはパラグアイとのテストマッチに臨むが、もう1日もムダにはできない。

ガーナ戦は長谷部誠(ドイツ1部・フランクフルト)を3バックのセンターに置いた3-4-3の新布陣のテスト、コンディション面で気がかりだった香川や岡崎のチェックという色合いが濃く、6月19日の初戦・コロンビア戦(サランスク)でどう戦うのかはあまり見えなかった。ここからは初戦を想定したチーム作りに全力を注ぐことが肝要だ。

コロンビア戦で3-4-3を続けるのか、それとも戦い慣れている4-2-3-1に戻すのかを含め、西野監督は決断しなければならないことが非常に多い。

「これからはしっかり相手に合わせたところもないと対応できないと思うし、3日のミーティングで3バックの感覚も少し整理できたので、(3バックと4バックを)両方併用してゲームの中で使えたらいい。メンバー的にもパラグアイ戦までは全員起用すると伝えている。戦い方も2つやって、コロンビアに対してマッチングしたい。全てはパラグアイ戦が終わってからになると思います」と指揮官が3日の練習後に説明した通り、ゼーフェルト合宿が終わるまでは戦い方のバリエーションを広げることに注力するつもりだという。

ただ、二兎を追うことで一兎をも得ずという事態にならないとも限らない。西野監督のアプローチがどういう結果をもたらすかは2つのテストマッチを冷静に見極めるしかない。

その一方で、ケガで出遅れている岡崎や乾、試合勘がまだ完全に戻っていない香川のコンディションを上げることも重要なテーマになってくる。

香川と岡崎のガーナ戦でのプレーを振り返ってみると、香川は左シャドウとトップ下で後半の45分間、岡崎は1トップと2トップの一角として後半の31分間プレーした。

香川は登場から10分間は凄まじい迫力で攻めに出て、シュートを立て続けに2本放ち、右ウイングバックの酒井高徳(ドイツ1部・ハンブルガーSV)に目の覚めるようなサイドチェンジを送るなど、非常にアグレッシブな印象を残した。

が、その10分以降は勢いがダウン。90分ゲームをしていない問題点を露呈した格好だ。岡崎のほうもレスターでプレミアリーグ制覇を成し遂げた15-16シーズンのような前線からのハイプレスや動き出しの速さが影を潜めていて、シュートシーンもないまま終わってしまった。彼らに大きな期待を寄せる西野監督としても、もっと調子を上げてほしいと熱望しているはずだ。

「本当に積み重ねてきたものがある。ブラジルのピッチで感じた悔しさであったり。あの結果が自分たちを強くしてくれたというのをロシアで証明したい。そのためのプロセスは十分築き上げてきたと思っているし、自分自身も信じているので、ピッチで証明していきたいです」と香川は4年前のリベンジを誓ったが、岡崎も同じ気持ちに違いない。

ブラジルでの惨敗をロシアで繰り返すようなことがあれば、日本サッカーは過去にない窮地に立たされるだろう。逆に、彼らが日本を1次リーグ突破へと導くことができれば、「西野監督の選択は間違っていなかった」という話になるはず。圧倒的な実績を誇る「ビッグ3」の中の2人が率先してそう仕向けなければ、選から漏れた若手も納得がいかないかもしれない。

日本代表の危機を救うのは23人にしかできない

「23人に選ばれた人は絶対に結果を出さないといけないし、そういう気持ちを持たないとこれから日本のサッカーは発展しない。誰が選ばれてもしっかりと結果を求めてこれからの世代につなげていかないと日本はいい方向に進まないと思います」

これはブラジル経験者の1人である清武弘嗣(J1・セレッソ大阪)が口にした言葉だが、まさにその通りだ。岡崎や香川、他のメンバーも浅野や井手口、三竿、他に外れた代表候補たちの悔しさを背負って、ロシアで戦わなければいけない。ハリル監督解任、不本意な結果が続く日本代表を危機から救うのは自分たちであることを改めて再認識してほしいものである。

(文中敬称略)