開設から16年になるJR東海の「小牧研究施設」。これまで新幹線の新型車両向けの技術を多数開発してきましたが、土木構造物の研究も行っています。その成果は東海道新幹線が抱える「課題」の解決に使われました。

油圧ジャッキで橋桁にかかる力を再現

 JR東海が「鉄道技術のブラッシュアップ」を目的に開設した小牧研究施設(愛知県小牧市)。これまでさまざまな技術を研究し、その成果はN700系やN700Aなど、東海道・山陽新幹線を走る車両に反映されています。


列車通過時に橋桁などにかかる力を再現する「多軸式列車荷重模擬載荷試験装置」(2018年4月20日、草町義和撮影)。

 しかし、小牧研究施設は車両の技術だけを研究してきたわけではありません。鉄橋やトンネルなど土木構造物の技術研究も行っています。というより、鉄道は「車両、土木構造物、軌道、電力・信号通信などのさまざまな設備が有機的に機能することで成り立っています」(JR東海)。車両だけ研究しても、安全で快適なサービスを提供することはできません。

 小牧研究施設は、おもに研究棟とA、B、Cの3棟からなる実験棟で構成されています。このうちA棟には、車両を研究するための低騒音風洞と車両運動総合シミュレーターのほか、鉄橋の補修方法などを研究するための「多軸式列車荷重模擬載荷試験装置」が設置されています。2018年4月20日(金)、車両運動総合シミュレーターと低騒音風洞に続いて、多軸式列車荷重模擬載荷試験装置も取材しました。

 模擬載荷試験装置がある場所に入ると、目の前にトラス構造の構造物が姿を現しました。トラス内には大きな油圧ジャッキが3本、整然と並んでいるのが見えます。

 この装置では、東海道新幹線で実際に使っていた橋桁などを使用し、油圧ジャッキで橋桁に負荷をかけます。これにより、新幹線車両の通過時にかかる力を再現。意図的に構造物を劣化させて、補修の方法などを研究しているのです。

 このほか、敷地内には「構造物総合試験線」と呼ばれる土木構造物があります。東海道新幹線で採用されている高架橋と盛り土を、東海道新幹線の建設時と同じ工事方法で再現したもの。車両を走らせるためのものではなく、補修で用いるさまざまな工事方法を試すために使われています。今回の取材では残念ながら近くで見ることはできませんでしたが、模擬載荷試験装置を取材を終えて外に出ると、遠くに高架橋の姿が見えました。

東海道新幹線の「固有課題」受け誕生

 それにしても、なぜJR東海は小牧研究施設を作ったのでしょうか。鉄道技術の研究ということなら、JR東海も負担金を支出している公益財団法人の鉄道総合技術研究所(鉄道総研、東京都国分寺市)があります。鉄道関係の研究は鉄道総研に任せてもいいはずです。

 JR東海は小牧研究施設を開設した理由のひとつとして、「当社固有の課題」を挙げています。具体的には、施設の老朽化が進む東海道新幹線のことです。

 東海道新幹線は、世界初の本格的な高速鉄道として1964(昭和39)年に開業。小牧研究施設が建設された2002(平成14)年の時点でも40年近くが過ぎていました。ほかの新幹線に比べて施設が古く、大規模な改修が必要な時期に差し掛かっていたのです。

 また、東海道新幹線はほかの新幹線に比べて鉄橋が多く、メンテナンスや補修工事も東海道新幹線の施設の状態にあわせた方法を開発しなければなりませんでした。そこでJR東海は、同社の「固有の課題」といえる東海道新幹線の土木構造物の維持、強化に関する研究を行うため、独自の研究施設を開設したのです。

 小牧研究施設は、橋桁の接合部に補強部材を追加することで、ゆがみの発生を未然に防止するなどの新しい補修方法を開発。すでにある構造物を生かしたまま大規模改修を行うことも可能になりました。改修工事自体も小牧研究施設での研究成果を採用することで、当初の計画より5年前倒しの2013年度から始まっています。

 ちなみに、東海道新幹線の大規模改修では当初、橋の架け替えも想定されていました。橋を架け替えるとなると、1か所につき少なくとも1日は列車を運休する必要があると思われます。しかし、1日平均で約45万人が利用している東海道新幹線を止めれば、日本経済にも大きな影響を与えることは必至。JR東海は独自の研究施設を設けることで、そうした事態を防いだといえるかもしれません。

※一部内容を修正しました(5月19日14時55分)。