ついにベールを脱いだロールス・ロイス初のSUV「カリナン」(写真:ロールス・ロイス・モーター・カーズ提供)

ロールス・ロイスは5月10日正午(英国時間)、ブランド初となるSUV(スポーツ多目的車)の「カリナン」を公開した。公開に先駆けて4月下旬に中国・北京市内で一部メディア向けに実施されたプレビュー(事前公開)に参加した。

ブランド初のSUV、初の4WDに取り組む

ロールス・ロイスはその静粛性を象徴すべく、「ファントム」「ゴースト」「レイス」など「霊」の種類を車名に用いることが多いが、今回のカリナンは20世紀初頭に発見された世界最大のダイヤモンドの原石の名前に由来する。ブランド初のSUV、初の4WDに取り組むということで、ネーミングにも新しさを感じさせる。会場にはマグマレッド(赤)とダーケストタングステン(ガンメタ)に塗装された2台の実車が展示されていた。


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2017年に14年ぶりにモデルチェンジしたフラッグシップサルーンのファントムで初めて採用された「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」という車台がカリナンにも用いられる。乗用車に多いモノコック構造でもなければ大型SUVやピックアップトラックなどが採用するラダーフレーム構造でもなく、レーシングカーなどに多い構造であり、ボディ剛性と軽量化に貢献する。といっても、ロールス・ロイスの場合、あらんかぎりのぜいたく装備を盛り込むため、軽量化は帳消しとなり、カリナンの車両重量は2.6トンに達するのだが。

パンテオングリルと称される直立した巨大なフロントグリルと控えめなヘッドランプユニットからなるフロントマスクと全体的にエッジが強調されたボクシーなシルエットのおかげで、ひと目見ただけでロールス・ロイスと識別できる。

リアスタイルは特徴的だ。世の中のほとんどのSUVはリアウインドウとリアハッチバックに段差のない、いわゆる2ボックスだが、カリナンは独立したトランクがあるように見える3ボックススタイルを採用した。実際にはハッチバックなのだが、デザイン上、ノッチバックのように見える。ロールス・ロイスをはじめとする1930年代のグランドツアラーは旅行用トランクを車外にベルトで固定して積載していたが、そのイメージをカリナンにも盛り込んだとデザイナーは説明する。

エアサスによって車高をコントロールできる。まずドアを開けると乗り込みを容易とすべく車体が40mm下がり、ドアを閉めると元の高さに戻る。また悪路走破に備えて意図的に40mm上げることもできる。都合80mmの上下幅があるわけだが、通常はクルマ任せにしておけば走行状況に応じて最適な車高が選択される。

ファントムと同じ6.75リッターV12エンジンをフロントに搭載。最高出力571ps、最大トルク850Nmのパワーは、ZF製8速ATを介して4輪に伝えられる。機械的なデフロックシステムは備わらず、電子制御されたフルタイム4WDシステムを採用する。前後トルク配分は不明。

昨今の乗用車市場において、SUVはどの国や地域でもドル箱のカテゴリーと言われる。かつてはキャデラック、リンカーン、ランドローバーなど、SUVをラインアップするプレミアムブランドは限られていたが、現在はメルセデス・ベンツ、BMW、アウディのジャーマン3に加え、ベントレー、ランボルギーニ、マセラティ、アルファロメオ、ジャガーなど、ほぼ全プレミアムブランドがこぞって参入する。アストンマーティンにもコンセプト段階のSUVが存在し、今回のロールス・ロイスの参入によって、いよいよ主要なプレーヤーでSUVをもたないのはフェラーリのみとなった。

ロールス・ロイスSUVに参入する理由

なぜどこもかしこもSUVに参入するのか? 答えは簡単、売れるからだ。けれども、ロールス・ロイスの生産キャパシティは年間約4000台に過ぎず、現在すでにほぼフル稼働している。SUVだろうがなんだろうが、新たなモデルを追加しても販売台数を一気に増やすことはできない。カリナンを生産すればほかのモデルの生産が後回しになるというだけだ。にもかかわらず、流行にのったと見られるリスクを背負ってまで、SUVに参入するのはなぜか? 

それは最高の地位を保つためにほかならない。ロールス・ロイスはわれわれがこれ以上ないほどすばらしい物事に触れた際、半分冗談っぽく「〜界のロールス・ロイスだ」という言い方を重要視している。

“最高”の例えとしてロールス・ロイスが使われる状態を将来にわたって保っていくことこそがブランドを守ることだと信じているのだ。そのために流行中のSUVにも最高のプロダクトを投じておくべきだという判断だったに違いない。これまで「砂漠のロールス・ロイス」や「SUVロールス・ロイス」の異名は同じ英国のレンジローバーが欲しいままにしてきたが、砂漠のロールス・ロイスを本家がつくってしまったというわけだ。

筆者が撮影した「カリナン」の映像

カリナンの日本導入は2018年内。価格は未定。

ロールス・ロイス カリナン主要諸元<欧州仕様>
全長5341mm/全幅2164mm/全高1835mm/ホイールベース3295mm/車両重量2660kg/エンジン=V型12気筒6.75Lツインターボ(最高出力571ps/5000rpm、最大トルク850Nm/1600rpm)/トランスミッション=8速AT/最高速250km/h(リミッターあり)/欧州複合燃費=15L/100km(6.67km/L)/ラゲッジ容量600L(4人乗り仕様は526L)/価格=未定