あなたは子どもの頃、夏休みの宿題を自分でやっていたか。(AFLO=写真)

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■社長の役割は、社員を気持ちよく働かせること

人の能力は多様で、個性はさまざまである。個性は、得意なことと不得意なことが表裏一体になってできている。そのことをわかりやすく伝えるために、講演会などで問いかけることがある。

「みなさんは、会社の社長は、勉強ができる人とできない人と、どちらが向いていると思いますか?」

会場がざわめく中、私は続ける。

「実は、勉強が苦手だった人のほうが、社長に向いているということもあるのです」

ポイントはこういうことである。

子どもの頃から勉強ができる優等生だった人は、何でも自分でやる習慣が身についている。大学入試までのペーパーテストは、結局「個人競技」である。ひとりの人間として、どれくらいの点数がとれるかが問われる。

一方、社長の役割は、自分が仕事をすることはもちろんだが、社員にいかに気持ちよく能力を発揮してもらうか心を砕くところにある。30人の社員がいる会社ならば、それぞれにいかに効率よく働いてもらうかがポイントになる。

勉強が苦手な子は、ある意味では子どもの頃から社長業の「ネーティブ」である。夏休みも終わりに近づくと、そろそろ「経営計画」を立てる。読書感想文はママに、工作はパパに、計算問題はそれが得意な鈴木くんに手伝ってもらおうと考える。

つまりは「適材適所」である。さらには、「人心掌握」もしなければならない。普段から人間関係をよくしておかないと、いざというときに手伝ってもらえない。「ママ、きれいになったね」とお世辞くらい言うかもしれない。

「こいつが言うならば仕方がないなあ」と宿題を手伝ってもらう。さらに「ママ、読書感想文進んでいる?」などと「進行管理」もして、夏休みが終わった後の登校日に、「アウトソーシング」した夏休みの宿題を、きちんと全部そろえて提出する子がいたら、その子は間違いなく社長に向いているだろう。

■欠点は同時に長所でもある

子どもの頃から優等生だった人が案外社長に向いていないのは、自分が何でもできると過信しがちだからである。他人のほうが自分よりも優れた点がたくさんある、教えてもらうことや助けてもらうことがあると「感覚」でわかっている人でなければ、すぐれた社長になることはできない。

社長に限らず、マネジメントはすべてそうだろう。自分が一番賢いと過信している人はマネジメントには向かない。むしろ、他人が自分よりも優れている点を認め、助けてもらうこと。他人から積極的に学ぶこと。そのような謙虚さを持っている人こそが、卓越したマネジャーになる。

グーグルのCEOをされていた頃のエリック・シュミットさんにお話を伺ったときに、強調されていたのが、「他人の意見を聞くこと」だった。「さまざまな人の考えを聞いたうえで、最後は自分で決断する」とシュミットさんは言った。他人から学ぶという謙虚さと、自ら決断する力強さの双方を併せ持ったその姿勢に、感銘を受けた。

勉強が苦手なことが長所になり、勉強が得意なことが短所になることもある。そのような立体的な見方をしないと、人の個性はつかめない。

欠点は劣等感につながりやすい。しかし、欠点は同時に長所でもあると考えれば、自分や他人の可能性をもっと信じることができるようになるだろう。

(脳科学者 茂木 健一郎 写真=AFLO)