たばこ税の税収減で、加熱式たばこの増税へ向かうのか(画像はイメージ)

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急速に普及する加熱式たばこの増税が浮上している。紙巻きたばこより税金が安いため、同水準にそろえるというのが大義名分だが、なにやら、ビール類の課税にも似る。商品の価格にも影響を与える可能性がある。

普通の紙巻きたばこが、加工した葉タバコを燃やして煙を吸うのに対し、加熱式たばこは電気で葉を熱し、ニコチンを含んだ蒸気を吸って香りを楽しむもの。煙が出ないので周囲への迷惑も少なく、火を使わないので火事の心配もないと、人気が高まっている。

PMJでは「全たばこ商品の1割を占める」

国内で最も売れているフィリップモリスジャパン(PMJ)の「iQOS(アイコス)」は、充電式の本体で専用タバコ葉を数十秒間電気加熱し、蒸気を吸う方式。地域限定の試験販売を経て2015年から全国販売が始まり、急速に普及、現状では国内市場を席巻している。他に、日本たばこ産業(JT)の「Ploom TECH(プルーム・テック)」、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコの「glo(グロー)」がある。

仕組みの違いは、アイコスやグローが、専用たばこを筒状のホルダーに差し込み、燃やす代わりに電気で加熱し、ニコチンを含む蒸気を吸う仕組みなのに対し、プルーム・テックは電気で専用リキッド(液体)を加熱し、その蒸気が粉砕したたばこの葉が詰まったカプセルを通ってニコチンを揮発させる方式だ。

シェア断トツのPMJによると2016年末時点で加熱機が300万台以上売れているといい、小売り販売ベースでアイコス用は同社の全たばこ商品の1割を占めるまでに拡大。将来的に全商品を加熱式に切り替える構えだ。JTなど2社は加熱機などの生産体制を整えるのにてこずり、差をつけられているが、今後、体制を整備して追い上げを図る。

たばこ規制の対象に?対象外?

たばこといえば健康が問題。加熱式でも、たばこはたばこだから、蒸気にはニコチンなどが含まれ、体に悪くないわけではない。販売会社は「蒸気に含まれる有害物質は煙よりも少ない」としつつ、「リスクがないわけではない」と慎重な姿勢。嫌煙団体などからの批判を気にしているようだ。また、周囲の人の受動喫煙といった影響についてははっきり分かっていないといい、飲食店などでも「加熱式たばこは可」としている場合もある。罰則のない努力規定にとどまる東京都の受動喫煙防止条例は成立したが、東京五輪に向けて国が検討するたばこの規制法で加熱式たばこをどう扱うかは、今後の議論次第ということになる。

では、税はどうか。紙巻きの税金は1本あたり約12.24円で、一般的な1箱20本入り440円(税込)のうち、たばこ税(244.88円)と消費税(32.59円)合わせて277.47円が税金で、価格の63.1%が税金。これに対し、加熱式は1箱の価格が概ね420〜460円(税込)と紙巻きと同水準だが、たばこ税はアイコスが200円程度、プルーム・テックは約34円と安く、消費税を含む税金の割合は価格の14.9〜49.2%と、紙巻きより低く、かつばらつきも大きい。

差が出るのは、タバコの葉を使う量の問題だ。加熱式は、税法上は「パイプたばこ」に分類され、葉などの重量に応じて税額が決まる。税額は1グラムを紙巻き1本として12.24円。紙巻きは火をつけて吸っても、せいぜい半分くらいのところで終わり、つまり葉が半分は「無駄」になるが、加熱式は葉を効率よく使うため、価格に占める税の比率が低くなるわけだ。

そこで政府内では、1グラムあたりの税額を引き上げたり、小売価格に一定の税率をかけて税額を紙巻きと揃えたり、といった案を軸に検討する見通しだ。自民党税制調査会の宮沢洋一会長は「それなりの答えを年末までに出す」と述べている。どのくらいの期間で、どの程度の水準にするかは別にして、加熱式を増税して紙巻き並みを目指すという方向性ははっきりしている。

「安定税収源」に脅威

この動きの背景にあるのが、たばこ税の税収減だ。加熱式の普及に伴う税収減がある。2017年4〜7月のたばこ税収(国税分)は、前年同期比2.6%減少した。財務省などによると、国内の紙巻きたばこの販売数量は16年度に1680億本と20年でほぼ半減したが、03年度以降、3回たばこ税を増税したことで税収は国・地方合わせて2兆円超。「安定税収源」(同省)だけに、加熱式の急速な普及は脅威というわけだ。

共同通信と第一生命経済研究所の試算では、2017年のたばこ税の税収は前年より500億円以上減少する見通しという。JTは、たばこ市場に占める加熱式の割合は17年末時点で18%程度、20年には30%を超える可能性があると予測。このままでは税収はさらに落ち込む可能性が高いと言える。

ただ、増税した場合、価格転嫁されて値上がりする可能性があり、「大衆課税」との批判のほか、「紙巻きたばこより健康被害が相対的に少ないなら、むしろ価格を下げて普及を促すべきで、健康行政に逆行する」との指摘もある。

さらに、加熱式の販売競争は今後、一段と激化する見込みで、増税になってもメーカーがそのまま価格に転嫁できず、経営を圧迫する可能性もある。