今年で放送開始から3年目となる、auの三太郎シリーズ。マンネリ化せず、人気沸騰し続けられる秘密とは?

あなたのお気に入りCMは、何位にランクインしているだろうか?
CM総合研究所が毎月2回実施しているCM好感度調査は、東京キー5局でオンエアされたすべてのCMを対象として、関東在住の男女モニターが、好きなCM・印象に残ったCMをヒントなしに思い出して回答するものだ。
最新の2017年8月後期(2017年8月5日〜 2017年8月19日)調査結果から、作品別CM好感度ランキングTOP30を発表。その中から、CM総研が注目するCMをピックアップして、ヒットの理由に迫る。

au「三太郎」シリーズが好感度1位の理由

【1〜10位】

調査期間中、東京キー5局からオンエアした3331作品のうち、作品別CM好感度1位はKDDIauの「三太郎」シリーズ、「auピタットプラン・織姫、登場」篇となった。前編で空から落下した大きな桃を蹴破って登場したかぐや姫(有村架純)の妹の織姫(川栄李奈・元AKB48)。今回は、織姫があっけにとられる三太郎たち(松田翔太、桐谷健太、濱田岳)に、「織ちゃんって、呼んでいいぞっ」と、大きな桃同様に態度もビッグな挨拶をするというストーリーだ。

モニターからは、「面白い」という感想が圧倒的多数を占めた。また、「まさか、かぐや姫の妹が織姫だったとは」「個性的なキャラクターが出てきて飽きない。伝えたいこともわかりやすい」とクセの強い新キャラの登場に反応した人も多かった。

この三太郎シリーズが始まったのは、なんと2015年元日。今年で3年目を迎え、今や国民的人気CMとなった。なぜ、三太郎シリーズのCMはここまで人気があるのか。いまさらながらそのヒミツに迫ってみたい。

三太郎シリーズ立ち上げの当時、KDDIの田中孝司社長は「auを好きになってもらうこと」をゴールに掲げたという。「一に「笑」。二にも、三にも「笑」。シンプルに笑いを突き詰めることが、auを好きになってもらうために必要な戦略」と語っていた。

これを受けた同社の矢野絹子宣伝部長は「個々の商品やサービス以上に、まずau に興味関心を持ってもらい、ブランドそのものを好きになってもらいたい」という要望を、CMクリエーターに最初に伝えたという。

15秒、30秒のCMだけで商品やサービスをしっかりと理解させるのは難しい。だからこそ、「前半は会話劇を楽しんでもらい、商品紹介でなるほど、とつながるように、CMの構造をこれまでと少し変えている」(矢野氏)という。

ディレクターの子ども時代に「三太郎」の原点

毎回おかしみがある会話劇を繰り広げるのは、「浦島太郎」「桃太郎」「金太郎」といった日本の昔話をモチーフにした、個性的なキャラクターたち。このキャラクター設定にも、こだわりが詰まっていた。

三太郎の生みの親は、電通のエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター、篠原誠氏だ。メインの3役のキャラクター設定にあたっては、「桃太郎は正義の味方で健全なイメージから少しやんちゃに、金太郎は力持ちのイメージとは逆に数字に強い理系のように見せ、浦島太郎は亀を助けた善良さを強調して、すごく純情でどこか抜けている存在」に考えたという。

三太郎たち3人のわきあいあいとした雰囲気は、篠原氏自身の子ども時代に発想の原点があるという。「3兄弟だったこと、そして通っていた山の中の小学校で、同級生が男3人だったこと」(篠原氏)という“人生の中の男3人”がベースとなって、三太郎たちは生まれたのだ。昨年、寺田心が桃太郎の幼い頃を演じて、少年時代の三太郎を描いた切ないストーリー「秋のトビラ:三太郎の出会い」篇を彷彿とさせるエピソードでもある。

シリーズのストーリー展開とキャスティングのキーワードは「意外性」だ。かぐや姫、乙姫、鬼、花咲爺さん、一寸法師、そして織姫。新キャラ登場のたびに、ストーリーは笑いと変化と厚みを増していく。篠原氏は「出演者たちの演技がうまくて、CMの仕上がりは書いた原稿の3倍くらいよくなっている」と話す。矢野氏も「本番になるとアドリブが飛び交い、企画時点では想像もしていなかったオチになることがある」と呼応した。

さらに、三太郎シリーズの強みは「歌」だ。浦島太郎役の桐谷健太が歌った「海の声」、AIの「みんながみんな英雄」、WANIMAの「やってみよう」の作詞はすべて篠原氏が担当し、CM発で大ヒットを記録した。特にCMそのままに出演者が歌った「海の声」のフルバージョン動画再生回数は9000万回を超えるほど人気が高い。

一般的に、シリーズCMの課題は、時間の経過とともにマンネリ化して視聴者から飽きられてしまうことだ。しかし、三太郎シリーズは3年目に入っても視聴者を「思わず笑ってしまった」と楽しませ、「まさかの展開(笑)」と驚かせ、「やっぱりauのCMはいつ見ても面白い」と当初からの狙いどおりの反応が寄せられ続けている。三太郎シリーズは “笑えて、泣けて、驚いて、音楽がよくって、楽しみで”、「このシリーズは全部好き」というファンの期待に応え続けているのである。

【11〜30位】

12位にも『au』の三太郎シリーズから「時を超える声」篇がランクインした。サッカーをしている子どもたちを見かけた鬼ちゃん役の菅田将暉が「♪どうしてそんなに走れるの」と歌いだす。すると歌声は時空を超えて、いつの間にか現代のサッカースタジアムへ。ピッチの中央に立った菅田の歌声と日本代表選手たちの映像が重なる。アンケートモニターからは、「歌がすごいうまい」「菅田将暉の歌、熱唱している姿がいい」と菅田の歌唱が高く評価された。「全力を全力で応援する、それができるって素敵だな」とキーコピーもしっかりと伝わったようだ。

8月31日のW杯アジア最終予選の日には、60秒の特別バージョンが放送された。勝てばW杯出場が決まる大一番、オーストラリア戦の開始直前に、30秒CMにはない「♪日本の風に背中押されて、日本の太陽に未来照らされて」の歌詞と日本代表が戦う姿がシンクロし、「♪泥くさくていい、カッコ悪くていい」と力を込めて歌う菅田のアップが、サポーターたちの「ニッポン、ニッポン」の声援と重なる。選手へ、サポーターへ、日本へ声援を送るかのような映像と音楽が最高のタイミングで放送された。まるでこの日のためのCMであるように。

「同じテレビでも視聴の仕方や気分によって伝わる深度が変わる。時期や番組の特徴に見合ったCMを流す工夫をしている」(矢野氏)。試合後はWeb動画の再生回数を急速に伸ばしていることも反響の証しといえよう。

ワールドカップ予選、キリンが生中継「祝杯」CMも

ちなみに、1対0で前半終了後、ハーフタイムのCMは、各社が工夫を凝らしたCMを放送していた。ホンダはONE OK ROCKと庵野秀明がコラボしたメッセージ性の高いCMを放送。LINEはクラウドAIプラットフォーム「Clova」を搭載したスピーカーで家族の新しいコミュニケーションの形を描いた。当日のリアルな試合結果「前半、1対0」をCMの中でAIが話し、まるで未来予測のような仕掛けに驚かされた。Netflixは明石家さんまがテレビについてインタビューで本音を語り、トヨタは佐藤健を助手席に乗せた豊田章男社長がハンドルを握り、SUBARUの車でドリフト走行テクニックを見せるなど、見ごたえのある映像が次々と放送された。

2対0で日本が勝利した試合終了直後には、キリンが生中継のCMを放送。香川照之と元日本代表の岡野雅行、川口能活が登場し、テレビの前から祝杯の音頭をとった。引き分けや敗戦の場合は放送しないという試合結果連動生CMだった。

スポーツは筋書きのないドラマで、勝敗は今のところ予測できない。スポンサー企業はそうしたリスクと向き合いながら、スポーツがもつリアルで強いパワー、人の心を動かすコンテンツを期待する。全米スーパーボウルに見られるように、注目度の高いスポーツコンテンツの合間に放送されるCMには、これまで以上に熱い視線が集まりそうだ。今後意識するのは視聴率から視聴質、その次は視聴深、なのかもしれない。