先日、国連安保理が全会一致で採択した新たな対北制裁決議に関して、人民や軍の一部から「日本列島を核爆弾で海に沈める」との声もあがったという北朝鮮。9月15日の早朝には、またも北海道上空を通過する弾道ミサイルを発射し、日米韓への挑発行為繰り返しています。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係研究者の北野幸伯さんは、北朝鮮の挑発行為の真意を明かし、なぜ北と米国は挑発を繰り返すだけで本格的な対話の場を持たないのか、その理由を解説しています。

ところで、北朝鮮と「対話」すると、何が問題なの???

皆さんご存知のように、北朝鮮は8月29日、北海道上空を通過する弾道ミサイルを発射した。9月3日、核実験を行った。これに対し国連安保理は9月11日、新制裁決議を全会一致で採択しました。北朝鮮は、これにブチ切れ、「日本を核で沈める!」と宣言しています。

北朝鮮が「核で沈める」と日本を威嚇-「言語道断」と菅官房長官

ブルームバーグ 9/14(木)11:37配信

北朝鮮が核兵器を使用して日本列島を沈めるとの声明を発表した。核・ミサイル開発による東アジアの緊張をさらに高めることになり、日本政府は反発している。

朝鮮中央通信(KCNA)は14日、

「日本列島は核爆弾により海に沈められなければならない。日本はもはやわが国の近くに存在する必要はない」とする北朝鮮の朝鮮アジア太平洋平和委員会による報道官声明を伝えた。

「日本列島は核爆弾により海に沈められなければならない」だそうです。こういうのを、「墓穴を掘る」というのですね。哀れです。そして、15日、またミサイルを発射しました。

ところで、「対北朝鮮政策」には、大きく三つの方向性があります。一つ目は、「戦争」。これは、多くの犠牲者が出る。「韓国人は、最低100万人は死ぬ」といわれています。それで、アメリカの歴代大統領も、決断できなかった。

二つ目は、「国連安保理を通じ、制裁を強化していくこと」。私は、これを支持しています。「緩衝国家・北朝鮮」を守りたい中国、ロシアが、抵抗する。しかし、北が、安保理を無視してバンバン挑発を繰り返すので、中ロも守りきれなくなっている。それで、制裁が徐々に強化されてきています。

三つ目は、「北朝鮮と対話すること」です。「平和を希求する日本人」だと、「対話すればいいのに」と考える人も多いのではないでしょうか? 正直いうと、私も「対話すればいい」と思います。しかし、やるなら、「アメリカ、韓国と一緒」でなければならない。

日本が勝手に対話しはじめれば、アメリカは、「そうか、俺たちを無視してそういうことをやるのか、日本は!」と激怒することでしょう。キッシンジャーはかつて、田中角栄がフライングして中国と国交回復したことに激怒。彼は、「ジャップは最悪の裏切り者!」と憎悪を露わにした。日本が北と単独交渉すれば、トランプの「顧問」であるキッシンジャーは、「ジャップは、相変わらず最悪の裏切り者!」と叫び、トランプも納得することでしょう。

するとどうなるか?アメリカは、日本に内緒で北と秘密交渉をはじめ、

1.北朝鮮の核兵器は、黙認(もちろん公表されない)

2.アメリカを攻撃できるICBMは、廃棄

3.日本、韓国を攻撃できる弾道核ミサイル保持は黙認

4.アメリカは、北朝鮮の体制存続を保証する

なんてことになりかえない。

え? ありえない? そんな人は、歴史を知らないのでしょう。アメリカは70年代、共産党の一党独裁国家中国と和解するために、台湾と断交したではないですか???(日本も、追随)

アメリカは、こういう恐ろしい国なので、「猪木さんを団長に、日北交渉を単独で開始しよう」などとやっては絶対にいけない。日本は、あくまで、アメリカ、韓国と「チーム」で北にあたる必要があります。

ところで、アメリカは、なぜ「対話」を拒否するのでしょうか?

アメリカの条件

「対話」は、目的をもって行われます。アメリカの「目的」は、なんでしょうか? 北の、核兵器とICBMがアメリカの脅威になっている。だから、目的は、「核兵器と、ICBMの破棄」となるでしょう。

しかし、北も「無料」では、同意しないですね。「見返り」はなんでしょうか? これは、金王朝の「体制保証」でしょう。つまり、「核、ICBM」を破棄すれば、アメリカは、「北朝鮮を攻撃しないし、クーデターを画策したりしない」と。

皆さん、どうですか、これ? 金正恩にとっては、「いいディール」だと思いませんか?

北の条件

ところが、北の条件は違います。北は、「核兵器、ICBMを保持したままで、体制保証」を求めてくるでしょう。なぜでしょうか? 北は、アメリカを信用できないからです。なぜ?

アメリカはこれまで、「反米独裁者」を殺してきた。たとえば、イラクのサダム・フセイン。フセインのイラクには、「大量破壊兵器」も「アルカイダとの関係」もなかった。しかし、彼は殺された。アメリカは2013年から現在まで、シリアのアサドを殺そうと、努力をつづけている。

そして、金正恩にとって「最良」(?)の教訓は、リビアのカダフィでしょう。カダフィは03年、核開発中止に同意した。それで、欧米との仲がよくなった。しかし、わずか8年後の2011年、米英仏はリビアを攻撃。カダフィは殺されました。金正恩は、「カダフィは核開発を放棄したから殺された」という教訓を得たことでしょう。そして、「アメリカを絶対信用するな」とも。だから、「核兵器保持」は譲れないのです。

挑発合戦の真意

アメリカは、戦争を望んでいるでしょうか? 普通に考えたら、望まないでしょう。戦争がはじまれば、まずソウルが火の海になり、最低100万人が死ぬといわれている。金正恩が、「もうすぐ俺は殺される」と思えば、「韓国人、日本人も地獄に道連れにしてやろう」となり、核を使うかもしれない。

北朝鮮は、戦争を望むのでしょうか? 普通に考えれば、望まないでしょう。北は、アメリカに勝てない。では、繰り返されるミサイル発射と核実験はなんなのでしょうか?

北は、「もはやアメリカですら、わが国を攻撃すれば、無傷ではすまない」「あきらめて、わが国の核兵器保有を認め、体制を保証し、制裁を解除せよ!」と訴えている。

アメリカは、挑発に対し、

・トランプさんの過激な発言

・国連安保理での制裁強化

・日本や韓国との軍事演習などによる威嚇

で応じています。これはなんでしょうか? 「おまえたちは国際的に孤立している。戦争になったら、勝ち目は1%もない。だから、おとなしく核兵器を放棄せよ! そうすれば、体制保証について、考えてやる」と。かみ合わないまま、「挑発合戦」はつづいていきます。

ところで、北朝鮮の「核保有」を許したらどうなるの?

ところで、北朝鮮の「核保有」を許したらどうなるのでしょうか?

第1に、クレイジーな独裁者(と思われている)が核を持つことで、アメリカの安全が脅かされる。第2に、北朝鮮の核保有を認めれば、他の国の核開発を止めることが難しくなる。これ、とても重要ですね。

アメリカが、北朝鮮の核保有を認めた。イランは、「北朝鮮がよくて、イランがダメな理由はなんだ?」と迫ってくるでしょう。そして、アメリカにも国際社会にも、「北がよくてイランがダメな理由」は説明できません。

さらに、中ロが恐れているのは、日本と韓国の核武装です。「北朝鮮が核をもっているのだから、日本も核を持たざるを得ない」となれば、なかなか反対するのが難しい。中ロが、「緩衝国家」北朝鮮を守る一方で、制裁強化に同意しているのは、そういう背景があるのです。

ちなみに、日本人は自国について、「わが国は、気概を失ったダメダメ国家だ」と思っているでしょう? しかし、世界はそう見ていません。「かつて中国(清)に勝った国、ロシアに勝った国、アメリカに挑んだ国。いまはおとなしくしているが、目覚めたら怖ろしい」と思っている。だから日本は、「おとなしく」していた方がいい。トウ小平もいいましたが、「警戒されないこと」はとても大事です。

「日本も剛腕プーチンを見習って」などという人もいます。しかし、ロシアは、世界有数の石油、ガス大国で、アメリカよりも多くの核を保有している。資源もない、核もない日本がプーチンのマネしたら、すぐつぶされるだけです。

話を元に戻しましょう。アメリカと北朝鮮がなかなか「対話」しない。その理由は、アメリカは、「核放棄」を求め、北は、「核保有」を求めているからなのです。

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出典元:まぐまぐニュース!